脂質代謝異常症の遺伝子は双極性障害(躁うつ病)と関連 世界最大規模の全ゲノム解析で 双極性障害の新規リスク遺伝子の同定に成功
2017.01.26 14:00
藤田保健衛生大学、理化学研究所、日本医療研究開発機構は、32の大学・施設・研究チームと共同で行なった「双極性障害の新規リスク遺伝子の同定」に関する研究成果が、2017年1月24日(グリニッジ標準時間 AM8:00、米国東部時間 AM3:00)に国際科学誌 Molecular Psychiatryのオンライン版で発表されたことをご報告いたします。
発表ページ : http://dx.doi.org/10.1038/MP.2016.259
研究概要詳細: https://www.atpress.ne.jp/releases/120534/att_120534_1.pdf
本研究は、藤田保健衛生大学医学部精神神経科学の池田 匡志准教授、岩田 仲生教授、理化学研究所統合生命医科学研究センターの久保 充明副センター長、高橋 篤客員研究員、鎌谷 洋一郎チームリーダーらを含めて行われました。
■「双極性障害」とは
双極性障害は、躁状態とうつ状態をくりかえす病気です。躁状態とうつ状態は両極端な状態です。その極端な状態をいったりきたりするのが双極性障害です。
双極性障害はかつて「躁うつ病」といわれていました。そのこともあってうつ病の一種と誤解されがちでしたが、この二つは異なる病気で、治療も異なります。
原因が完全には解明されていないことから、正確な検査方法はまだ開発されておらず、日本に数十万人の患者さんがいると見積もられますが、日本での本格的な調査が少なく、はっきりしたことは分かっていません。
双極性障害の治療においては、周りの環境や本人の人生に大きな影響を及ぼすことから、早い段階から予防療法に取り組むことが大切です。
■研究成果のポイント
・双極性障害(躁うつ病)の有病率は1%程度と推測され、その病態生理は完全に解明できていません。
・本研究では、双極性障害のリスク遺伝子同定を目的に、過去最大規模となる約3千人の双極性障害サンプルと約6万人の対照者(全て日本人)を用いた全ゲノム関連解析を行いました。
・その結果、世界で初めて「コレステロールや不飽和脂肪酸の代謝」と関連するFADS遺伝子領域(11番染色体 fatty acid desaturase)に新規リスクを同定しました。
・FADS遺伝子群の遺伝子多型は、コレステロールや中性脂肪、魚などに含まれるω3 不飽和脂肪酸(PUFA)、べにばな油などに含まれるω6 PUFAなど、脂質の血中濃度と強く関連することが分かっています。
・双極性障害(躁うつ病)患者は一般集団と比べて脂質代謝異常症の有病率が高いことが疫学的研究から指摘されています。今回の研究成果と合わせて考慮すると、1)双極性障害(躁うつ病)と脂質代謝異常の遺伝的リスクは共通する可能性 2)脂質代謝異常が双極性障害(躁うつ病)発症の一因となる可能性が考えられます。
・脂質代謝に影響する遺伝子が双極性障害の確実なリスクであることが確認されれば、脂質代謝異常を食生活に介入することなどで、予防介入法・治療法、あるいは診断分類の開発に繋がる可能性があります。
・その他のリスクとなっている遺伝子でも機能解析をすすめることで、新規薬剤の開発などへの足がかりとなります。
さらに本研究の研究成果を白人のデータを結合することで、
(1) サンプル数が拡大され、新規のリスクであるNFIX遺伝子を同定することが出来ました。
(2) 遺伝的共通性を日本人-白人双極性障害で検出することができました。双極性障害(躁うつ病)の民族を超えた共通性が、遺伝学的に確認できました。
この研究は脳科学研究戦略推進プログラム課題F健康脳(うつ病等に関する研究)、臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(融合脳)の一環として行われたもので、その研究成果は国際科学誌 Molecular Psychiatryに、2017年1月24日(グリニッジ標準時間 AM8:00、米国東部時間 AM3:00)にオンライン版[ http://dx.doi.org/10.1038/MP.2016.259 ]で発表されました。