話題の“切なすぎる31文字” 12万部突破 歌人・東直子の小説『とりつくしま』をモチーフにした 「とりつくしま短歌」優秀作発表!
2017.05.16 10:00
株式会社筑摩書房(所在地:東京都台東区、代表取締役社長:山野浩一)が、2007年の単行本刊行、2011年のちくま文庫刊行以来、たくさんの方から感動の声を寄せられた短篇小説集『とりつくしま』をモチーフに、「モノになって大切な人のそばに戻ってきても、そっと見守ることしかできない切なさ。それを短歌というかたちで表現してみませんか」と呼びかけたところ、たくさんの応募がありました。この度、寄せられた歌の中から東直子さんが優秀作品を選出いたしました。
■とりつくしま短歌とは
歌人・東直子さんの小説『とりつくしま』(ちくま文庫)をモチーフにしたものです。
「とりつくしま」とは、亡くなった人の魂が、この世に戻ってきてとりつく「モノ」のこと。魂がとりついた「モノ」になった気分で、「モノ」の目線で短歌を詠みます。短歌の後の( )内は作者がとりつくしまにしたモノです。
<東直子さんによる「とりつくしま短歌」>
ゆっくりと明るくなれるうれしさにあなたの指が私をひらく (扇子) 東直子
この指の根元にずっとずっといる君が誰かを好きになっても (指輪) 東直子
あのねそらがぜーんぶあおでみてるとねあのねいまねりゅうがとんでる (ジャングルジム) 東直子
■優秀作発表
「総評」
どの「とりつくしま短歌」も、深い想いがこもっていましたが、それがそのままモノ以上のことはできない切なさに直結して、胸にこみあげてくるものがありました。どの作品もすばらしくて、すてきで、選ぶのに苦労しました。それぞれが選んだ「とりつくしま」の必然性やアイディアが、五七五七七の韻律を生かして生き生きと表現され、新しい身体で過ごす時間をたっぷり味わえました。(東直子)
○最優秀 東直子賞
この身体一枚一枚破る度胸の痛みを薄れさせてね (日めくりカレンダー) 佐川菜々美
*毎日一枚ずつ、痛みとともに身体をなくして、一年たったらすべてなくなる。それが相手の、自分を喪失したことの悲しみという「痛み」を忘れさせることとなる。歳月が悲しみを癒すということを、悲しまれている側から、体感とともに味合わせてくれる一首。痛切、という言葉がこんなに似合う歌はありません。「とりつくしま」としての覚悟が感じられます。偶然なのか意図的なのか、「度胸」という熟語が見えるのも素晴らしいです。
○優秀賞
なにもかもあたらしくする朝の水むねいっぱいにひかりをためて (コップ) 杜崎アオ
*毎日新鮮な水を飲んでもらうためのコップ。コップに一途な想いがあれば、そこに汲む水は、なによりも清らかな水になるのですね。朝がくるたびに新しくなる、ということ、そして希望を感じさせる「ひかり」にみちていること。一杯の水のある風景が、ひときわ美しいです。
日曜のお風呂あがりにやわらかくなったあなたの一部を食べる (爪切り) 本多響乃
*一週間に一度の、もっともリラックスしている「あなた」の肉体の一部を「食べる」。爪という、切り取っても痛みを伴わない部分とはいえ、その発想から推測される深すぎる愛情が、なかなか怖いです。爪を切るタイミングが決まっている「あなた」の人となりも見えて、物語がふくらみます。
○佳作
「行ってらっしゃい」「おかえりなさい」を言うようにそれぞれの手を握り返した (ドアノブ) 永山雪
*送るときも迎えるときも直接手にふれる「とりつくしま」として蓄積されていく、あたたかな新しい記憶。「握り返す」という言葉に気持ちがこもっています。
一瞬でいいんだ君の目に映る世界を見せて雫のぼくに (目薬) 猫田馨
*ときどき、ほんの一瞬だけ景色を共有したい。目薬の一滴のようなささやかな願いが輝いています。
歌集読む君を見るのが好きですよ読み終わったらそっと触れてね (栞) 安西大樹
*その人が一番好きな歌集の、それも「栞」を選ぶなんて心憎いです。なんども開くことも、必ずそこに栞をはさむことも知っていて。
繊細なあなたのゆびに支配され右へ左へそしてくちびる (お箸) 東こころ
*手とくちびるに触れることのできる「お箸」が、とっても官能的です。うれしくて、酩酊しているようですね。
白いのが増えておじさんになってもいい子、いい子と撫でていたくて (櫛) 織紙千鶴
*親が子どもを見守っているのでしょうか。恋人かもしれません。いずれにしても、長い歳月、不変の肯定感を与えてくれる櫛なら使い続けたいものです。
時刻む左手首の僕よりもわずかに速い君の心臓 (腕時計) いまだながず
*鼓動と時計の針の動き。少し違う速度を感じつつ、今たしかに生きている「君」を実感しながら、時間を共有している喜びが伝わります。
まるく小さくつやめきながら見上げては君のからだの成分はこぶ (スプーン) 市岡和恵
*「君」の食べ物を日夜運ぶスプーンが、誇らしい気持ちで働いている様子が伝わります。一時的に食べ物を運ぶだけでなく、「成分」としてその身体の血となり肉となるところまで思っているところが、深いですね。
■募集期間
2016年12月1日~2017年3月31日
■「とりつくしま短歌」優秀作品朗読&トークショー開催決定
2017年6月5日(月)19:30~
ジュンク堂書店 池袋本店
東直子×笹公人
詳細: https://honto.jp/store/news/detail_041000021942.html?shgcd=HB300
■『とりつくしま』(ちくま文庫)内容紹介
死んでしまったあと、モノになって大切な人の近くにいられるとしたら……。あなたは何になりますか?
亡くなった人に、「とりつくしま係」が問いかける。この世に未練はありませんか。あるなら、なにかモノになって戻ることができますよ、と。
日記になって妻の日常を見守る夫。野球で使うロージンバッグになって、ピッチャーの息子の試合を見届ける母……。すでに失われた人生が凝縮してフラッシュバックのように現れ、切なさと温かさと哀しみ、そして少しのおかしみが滲み出る短篇小説集。五分に一回キュンとしたりじーんとしたり、歌人・東 直子だからこそ書けた短く美しい言葉で紡がれた魔法のような11話。
好きな人に会えずに淋しくてしかたがないとき、仕事や家事に疲れてため息をもらしちゃったとき、大切な人と喧嘩をしてやるせなくなってしまったとき、この物語に救われるかもしれません。
読後、最初に思い浮かんだ顔が、あなたの一番大切な人です。
<筑摩書房ホームページ内特設ページ http://www.chikumashobo.co.jp/special/toritsukushima/ >
<東直子『とりつくしま』(ちくま文庫)書影>
https://www.atpress.ne.jp/releases/128113/img_128113_1.jpg
【本書11のとりつくしま】
●ピッチャーの息子を見守るため、野球の試合で使うロージンバッグになった母
●夫のお気に入りのマグカップになった妻
●いつも遊んでいた大好きなジャングルジムになった男の子
●敬愛する書道の先生の扇子になった女性
●ひそかに見ていた図書館司書の名札になった老人
●母の補聴器になった娘
●妻が綴る日記になった夫
●最後の大きな買い物だったマッサージ器になった父親
●憧れの先輩が使うリップクリームになった少女
●孫にねだられたカメラになった祖母
●髪の毛を一本、裏庭のびわの樹の下に埋めて欲しいという一人娘
<POP画像>
https://www.atpress.ne.jp/releases/128113/img_128113_2.jpg
■『とりつくしま』ちくま文庫
9刷 累計12万400部(2017年5月16日現在)
刊行日 :2011年5月
ページ数 :224
定価 :本体600円+税
ISBN :978-4-480-42829-5
解説 :大竹昭子
カバーイラスト:岡田里
■著者プロフィール
東直子(ひがし・なおこ)1963年生まれ。歌人・作家。歌集に『春原さんのリコーダー』『青卵』『東直子集』『十階』など。2006年に『長崎くんの指』(のちに文庫『水銀灯が消えるまで』)で小説デビューし、以後、『とりつくしま』『さようなら窓』『ゆずゆずり』『薬屋のタバサ』『らいほうさんの場所』『キオスクのキリオ』『晴れ女の耳』ほか多数の小説作品や、エッセイ集『七つ空、二つ水』などを発表。共著に『回転ドアは、順番に』『短歌があるじゃないか。』『鼓動のうた』などがある。1996年に歌壇賞、2016年に『いとの森の家』で坪田譲治文学賞を受賞。
「とりつくしま」書影
■とりつくしま短歌とは
歌人・東直子さんの小説『とりつくしま』(ちくま文庫)をモチーフにしたものです。
「とりつくしま」とは、亡くなった人の魂が、この世に戻ってきてとりつく「モノ」のこと。魂がとりついた「モノ」になった気分で、「モノ」の目線で短歌を詠みます。短歌の後の( )内は作者がとりつくしまにしたモノです。
<東直子さんによる「とりつくしま短歌」>
ゆっくりと明るくなれるうれしさにあなたの指が私をひらく (扇子) 東直子
この指の根元にずっとずっといる君が誰かを好きになっても (指輪) 東直子
あのねそらがぜーんぶあおでみてるとねあのねいまねりゅうがとんでる (ジャングルジム) 東直子
■優秀作発表
「総評」
どの「とりつくしま短歌」も、深い想いがこもっていましたが、それがそのままモノ以上のことはできない切なさに直結して、胸にこみあげてくるものがありました。どの作品もすばらしくて、すてきで、選ぶのに苦労しました。それぞれが選んだ「とりつくしま」の必然性やアイディアが、五七五七七の韻律を生かして生き生きと表現され、新しい身体で過ごす時間をたっぷり味わえました。(東直子)
○最優秀 東直子賞
この身体一枚一枚破る度胸の痛みを薄れさせてね (日めくりカレンダー) 佐川菜々美
*毎日一枚ずつ、痛みとともに身体をなくして、一年たったらすべてなくなる。それが相手の、自分を喪失したことの悲しみという「痛み」を忘れさせることとなる。歳月が悲しみを癒すということを、悲しまれている側から、体感とともに味合わせてくれる一首。痛切、という言葉がこんなに似合う歌はありません。「とりつくしま」としての覚悟が感じられます。偶然なのか意図的なのか、「度胸」という熟語が見えるのも素晴らしいです。
○優秀賞
なにもかもあたらしくする朝の水むねいっぱいにひかりをためて (コップ) 杜崎アオ
*毎日新鮮な水を飲んでもらうためのコップ。コップに一途な想いがあれば、そこに汲む水は、なによりも清らかな水になるのですね。朝がくるたびに新しくなる、ということ、そして希望を感じさせる「ひかり」にみちていること。一杯の水のある風景が、ひときわ美しいです。
日曜のお風呂あがりにやわらかくなったあなたの一部を食べる (爪切り) 本多響乃
*一週間に一度の、もっともリラックスしている「あなた」の肉体の一部を「食べる」。爪という、切り取っても痛みを伴わない部分とはいえ、その発想から推測される深すぎる愛情が、なかなか怖いです。爪を切るタイミングが決まっている「あなた」の人となりも見えて、物語がふくらみます。
○佳作
「行ってらっしゃい」「おかえりなさい」を言うようにそれぞれの手を握り返した (ドアノブ) 永山雪
*送るときも迎えるときも直接手にふれる「とりつくしま」として蓄積されていく、あたたかな新しい記憶。「握り返す」という言葉に気持ちがこもっています。
一瞬でいいんだ君の目に映る世界を見せて雫のぼくに (目薬) 猫田馨
*ときどき、ほんの一瞬だけ景色を共有したい。目薬の一滴のようなささやかな願いが輝いています。
歌集読む君を見るのが好きですよ読み終わったらそっと触れてね (栞) 安西大樹
*その人が一番好きな歌集の、それも「栞」を選ぶなんて心憎いです。なんども開くことも、必ずそこに栞をはさむことも知っていて。
繊細なあなたのゆびに支配され右へ左へそしてくちびる (お箸) 東こころ
*手とくちびるに触れることのできる「お箸」が、とっても官能的です。うれしくて、酩酊しているようですね。
白いのが増えておじさんになってもいい子、いい子と撫でていたくて (櫛) 織紙千鶴
*親が子どもを見守っているのでしょうか。恋人かもしれません。いずれにしても、長い歳月、不変の肯定感を与えてくれる櫛なら使い続けたいものです。
時刻む左手首の僕よりもわずかに速い君の心臓 (腕時計) いまだながず
*鼓動と時計の針の動き。少し違う速度を感じつつ、今たしかに生きている「君」を実感しながら、時間を共有している喜びが伝わります。
まるく小さくつやめきながら見上げては君のからだの成分はこぶ (スプーン) 市岡和恵
*「君」の食べ物を日夜運ぶスプーンが、誇らしい気持ちで働いている様子が伝わります。一時的に食べ物を運ぶだけでなく、「成分」としてその身体の血となり肉となるところまで思っているところが、深いですね。
■募集期間
2016年12月1日~2017年3月31日
■「とりつくしま短歌」優秀作品朗読&トークショー開催決定
2017年6月5日(月)19:30~
ジュンク堂書店 池袋本店
東直子×笹公人
詳細: https://honto.jp/store/news/detail_041000021942.html?shgcd=HB300
■『とりつくしま』(ちくま文庫)内容紹介
死んでしまったあと、モノになって大切な人の近くにいられるとしたら……。あなたは何になりますか?
亡くなった人に、「とりつくしま係」が問いかける。この世に未練はありませんか。あるなら、なにかモノになって戻ることができますよ、と。
日記になって妻の日常を見守る夫。野球で使うロージンバッグになって、ピッチャーの息子の試合を見届ける母……。すでに失われた人生が凝縮してフラッシュバックのように現れ、切なさと温かさと哀しみ、そして少しのおかしみが滲み出る短篇小説集。五分に一回キュンとしたりじーんとしたり、歌人・東 直子だからこそ書けた短く美しい言葉で紡がれた魔法のような11話。
好きな人に会えずに淋しくてしかたがないとき、仕事や家事に疲れてため息をもらしちゃったとき、大切な人と喧嘩をしてやるせなくなってしまったとき、この物語に救われるかもしれません。
読後、最初に思い浮かんだ顔が、あなたの一番大切な人です。
<筑摩書房ホームページ内特設ページ http://www.chikumashobo.co.jp/special/toritsukushima/ >
<東直子『とりつくしま』(ちくま文庫)書影>
https://www.atpress.ne.jp/releases/128113/img_128113_1.jpg
【本書11のとりつくしま】
●ピッチャーの息子を見守るため、野球の試合で使うロージンバッグになった母
●夫のお気に入りのマグカップになった妻
●いつも遊んでいた大好きなジャングルジムになった男の子
●敬愛する書道の先生の扇子になった女性
●ひそかに見ていた図書館司書の名札になった老人
●母の補聴器になった娘
●妻が綴る日記になった夫
●最後の大きな買い物だったマッサージ器になった父親
●憧れの先輩が使うリップクリームになった少女
●孫にねだられたカメラになった祖母
●髪の毛を一本、裏庭のびわの樹の下に埋めて欲しいという一人娘
<POP画像>
https://www.atpress.ne.jp/releases/128113/img_128113_2.jpg
■『とりつくしま』ちくま文庫
9刷 累計12万400部(2017年5月16日現在)
刊行日 :2011年5月
ページ数 :224
定価 :本体600円+税
ISBN :978-4-480-42829-5
解説 :大竹昭子
カバーイラスト:岡田里
■著者プロフィール
東直子(ひがし・なおこ)1963年生まれ。歌人・作家。歌集に『春原さんのリコーダー』『青卵』『東直子集』『十階』など。2006年に『長崎くんの指』(のちに文庫『水銀灯が消えるまで』)で小説デビューし、以後、『とりつくしま』『さようなら窓』『ゆずゆずり』『薬屋のタバサ』『らいほうさんの場所』『キオスクのキリオ』『晴れ女の耳』ほか多数の小説作品や、エッセイ集『七つ空、二つ水』などを発表。共著に『回転ドアは、順番に』『短歌があるじゃないか。』『鼓動のうた』などがある。1996年に歌壇賞、2016年に『いとの森の家』で坪田譲治文学賞を受賞。
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