現役の取締役・執行役員に聞いたアンケート SDGs(持続可能な開発目標)17の目標の中で、 エネルギー関連分野に関心のある役員が最も多い
2018.08.01 14:00
日本能率協会(JMA、会長:中村 正己)は、トップマネジメント層の経営力向上のため『JMAトップマネジメント研修プログラム』を35年以上実施し、これまで延べ10,000人の方が参加しています。
変化の激しい経営環境の先頭に立つ「理想の経営者」に求められる資質とは何か、役員の意識や実態はどうなっているかをひも解くため、同プログラムの受講者に、経営者の資質等に関するアンケートを実施しています。加えて、今回は、昨今、社会的要請が高まっているSDGsに対する意識調査も実施しました。
図1 SDGs 既に取り組んでいるもの、これから取り組みたいものはどれですか
名称 :経営者に求められる資質等に関するアンケート
実施期間 :2017年7月13日~2018年3月17日
実施対象 :『JMAトップマネジメント研修プログラム』受講者
アンケート内容:SDGsについて、経営者に求められる資質について
実施方法 :質問紙法(研修初日に配布、終了時に回収)
回答数 :312人[取締役114人(36.5%)・執行役員198人(63.5%)]
属性 :製造業195人(62.5%) 非製造業117人(37.5%)
上場企業205人(65.7%) 未上場企業107人(34.3%)
※回答は小数点第2位を四捨五入
■トピックス
1. SDGs17の目標の中で、「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」に関心のある役員が最も多い。
2. 職場で評価されていると思う資質は「論理的思考」「変化への柔軟性」「本質を見抜く力」が前年同様TOP3に。「人への興味・愛情」が急上昇。
3. 役員就任前にやっておけばよかったことは、「財務・会計に関する知識習得」「外国語によるコミュニケーションの向上」「社外人脈づくり」
1.「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」に関心のある役員が最も多い
SDGsについて、“自社で既に取り組んでいるもの”ならびに“これから取り組みたいもの”について聞いた(17の選択肢の中から、既に取り組んでいるものは回答者1人につき2つまで選択、これから取り組みたいものは1つ選択)。
“自社で既に取り組んでいるもの”は、1位「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」(43票13.8%)、2位「気候変動に具体的な対策を」(40票12.8%)、3位「すべての人に健康と福祉を」(26票8.3%)となった。(具体的な取り組みは下記参照)
“これから取り組みたいもの”は、1位は「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」(47票15.1%)、2位「産業と技術革新の基盤をつくろう」(38票12.2%)、3位「働きがいも経済成長も」(34票10.9%)が上位となった。
1位はどちらも「エネルギーをそしてクリーンに」で同じだった。具体的な取り組みを自由回答で聞いたところ、「次世代エネルギーのひとつとして、燃料電池の開発」「燃料電池自動車をターゲットとした水素の確保」といった燃料電池に関するもの、「クリーンエネルギーの利用」「クリーンな排ガス用センサーの製造」といったクリーンエネルギーに関するものが挙がった。CO2削減に関する事例が多く挙がったことは、SDGsが提唱される前から既に自社の事業として地球温暖化の対策に取り組む企業の多いことが伺える。
“自社で既に取り組んでいるもの”では5位である「産業と技術革新の基盤をつくろう」と「働きがいも経済成長も」が、“これから取り組みたいもの”では2位、3位に浮上した。昨今はAI等の新しい技術が進み、イノベーションがないと自社が生き残れないという危機意識の高まりが、産業と技術革新の基盤への着目から推察される。また2016年から提唱されている働き方改革の取り組みが、企業間で定着しつつあることも伺える結果となった。
■「自社の事業として既に取り組んでいるもの」自由回答具体例(一部抜粋)
【7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに】
・次世代エネルギーのひとつとして、燃料電池の開発
・燃料電池自動車をターゲットとした水素の確保
・ソーラー、バイオマス等のクリーンエネルギーの利用、環境機器ビジネス
・クリーンな排ガスに欠かせない排ガス用センサーの製造、販売
・環境に配慮した企業活動、CSR報告書の充実
・省エネルギー、CO2対策を取り込んだ建物の設計、施工
・再生可能エネルギー市場への製品投入
・地熱、水力発電
・太陽光発電事業
・全社でエコ検定を推奨。ガス機器から俳ガスまで高い効率を目指した商品開発
・再生可能エネルギー事案に参画
・効率的なエネルギー供給の技術開発と提案
・再生可能エネルギープロジェクトの創出
【13. 気候変動に具体的な対策を】
・インドネシアの環境林業省と連携し、熱帯雨林再生事業を推進
・国産材の有効利用
・二酸化炭素排出量を2020年度までに1990年度から20%削減
・冷媒ガスを地球温暖化係数の小さいガスへ移行
・CO2削減の取り組み、環境配慮車輌導入、エコドライブ推進、CO2オフセット物流商品開発
・環境に優しい技術の提供
・クールビズ、ウォームビズ
・CO2削減・電力削減の取り組み
・塗料/インキの「無溶剤化、水性化、UV硬化」を主体としたVOC排出量の低減
【3. すべての人に健康と福祉を】
・治療する医療から予防・未病事業の立上、拡大
・フィットネスクラブ運営、介護予防施設運営
・特例子会社として障がい者雇用と福祉サービスA型事業所を展開
・廃棄物処理(公衆衛生)、健康食品事業の立上げ
・医療機器の普及とサービス体制のグローバル展開
・福祉業界への人材供給
・医療機器の製造、販売 質量分析、分離分析を利用した分子診断技術の開発
【11. 住み続けられるまちづくりを】
・地域との共生を考えた、ボランティアへの参画推進や環境への配慮
・小学校に図書を寄贈、地域の夏祭りへの参加
・認知症の人が長く住み慣れた街で暮らし続けるまちづくりへの働きかけ
・エネルギー供給インフラの形成を通じた都市計画
・再開発地域における、先進的な分散型エネルギーシステムを導入した環境面や防災面に優れたまちづくり
【8. 働きがいも経済成長も】
・働き方改革、ワークライフバランス活動
・地域活性化支援、産業基盤整備支援
【9. 産業と技術革新の基盤をつくろう】
・ロボットによる自動化、更にはAIを活用したものづくりの検討
・製造業のお客様に対し技術開発で貢献
2.職場で評価されていると思う資質は「論理的思考」「変化への柔軟性」「本質を見抜く力」が前年同様TOP3に。「人への興味・愛情」が急上昇。
“ご自身が職場で評価されていると思う資質”について、(28項目の中から、回答者1人につき3つ選択)してもらったところ、2017年度は、1位「論理的思考」「変化への柔軟性」(各71票22.8%)、3位「本質を見抜く力」(62票19.9%)となり、順位は入れ替わったものの2016年度から上位3つは変わらなかった。4位は「統率力」(51票16.3%)だった。
2017年度の5位「人の興味・愛情」(48票15.4%)は、昨年の16位(31票9.7%)から大きく順位を上げた。4位、5位に人間関係構築に関する項目があがっていることは、統率力があるだけではなく、部下を始めとした周囲の人への興味・愛情を持って接する昨今の役員像が伺える。
3.役員就任前にやっておけばよかったこと
「財務・会計に関する知識習得」「外国語によるコミュニケーションの向上」「社外人脈づくり」
“役員就任前にもっとやっておけばよかった”と後悔していることを聞いたところ、1位「財務・会計に関する知識習得」(153票49.0%)、2位「外国語によるコミュニケーション力の向上」(133票42.6%)、3位「社外人脈づくり」(97票31.1%)と前年度と変わらなかった。役員は、自身が積み重ねてきた事業に関する知識だけでなく、経営全体に携わるための財務、会計知識、外国語のスキルを学び、社外での人脈づくりが必要と認識していることが伺える。
コメント:一般社団法人日本能率協会 理事長 吉田 正
今回の調査では、SDGsへの関心、また役員として必要とされている資質について聞いた。
SDGsの全17目標の中で、最も役員の関心が高いのはエネルギーに関する項目であるという結果であった。グローバルで持続可能な発展を推進していく風潮が進む中、日本企業も世界を視野に入れて活動していくべきであり、今後のSDGsへの取り組みに期待したい。
役員自身が職場で評価されていると思う資質については、「論理的思考」「変化への柔軟性」「本質を見抜く力」と昨年と同様の結果であった。ここで注目すべきは、「人への興味・愛情」が昨年の16位から5位と急上昇したことであろう。AIを活用したシステムの導入が進む社会だからこそ、人への興味・愛情を重視する経営陣の姿がうかがえる。
また、今年アメリカで開催された人事系のカンファレンスでも、「Trust(信頼)」がキーワードとなっていたことから、「人への興味、信頼」は世界のトレンドだと言えるであろう。
これからの企業を牽引する経営者には、よりグローバルな視点と、人を大切にする心を持って、産業界・社会に寄与していくことを期待している。
【JMAトップマネジメント研修プログラムとは】
「役員いかにあるべきか」をテーマにした、取締役・執行役員・幹部対象の全11セミナー。経営に必要な大局的視点や実践的方法論を学び意識と行動の変革を促すプログラムや、法務・経営戦略・財務などの経営知識を習得するプログラムから構成されています。