次世代へと受け継がれていく工芸の姿を考える特別展を 大阪府・国立民族学博物館にて11月27日(火)まで開催
「工芸継承―東北発、日本インダストリアルデザインの原点と現在」
2018.11.14 11:00
国立民族学博物館(大阪府吹田市千里万博公園10-1)では、特別展「工芸継承―東北発、日本インダストリアルデザインの原点と現在」を2018年11月27日(火)まで開催しております。
特別展ポスター
ホームページ: http://www.minpaku.ac.jp/
詳細URL : http://www.minpaku.ac.jp/museum/exhibition/special/20180913kougei/index
日本における工芸の近代化、産業化の推進と東北地方の工芸業界の発展を推進した国立工芸指導所は、まさに日本におけるインダストリアルデザインの原点の一つです。本展では、国立工芸指導所の活動を振り返りつつ、日本の工芸品が、どのように世界に発信するのかについて考えます。
組み合わせ小箱 東北歴史博物館蔵
■展示の見どころ
1.日本のインダストリアルデザインの源流をさぐる
昭和3年(1928年)に、国立工芸指導所が国内で初めて宮城県仙台市に設置され、工芸の近代化、産業化の推進と東北地方の工芸業界の発展をめざした活動がおこなわれていきました。その後、国立工芸指導所は全国各地に広がり、大阪にも昭和14年(1939年)に関西支所が開設されました。そして、工芸界、デザイン界をリードする組織として、剣持勇、豊口克平などを輩出し、昭和40年代まで活動を続けました。
本展ではこれらの活動に注目し、日本におけるインダストリアルデザインの源流をさぐるとともに、工芸指導所ゆかりのデザイナーによる椅子の名作品などを紹介します。
人工木目大皿 東北歴史博物館蔵
2.世界に発信する、伝統の技と洗練されたデザイン
さまざまな産業界において、国際競争力が試されるなか、日本の得意分野を生かした技術開発が求められるようになっており、機能性はもちろんのこと、世界で通用するデザイン力も求められています。工芸指導所がめざした工芸品は、そうした機能性、デザイン性を追及したインダストリアルデザインであり、まさに先駆的な活動であったといえます。
工芸指導所の試作品や若手職人による作品、リオオリンピックで使用された卓球台など、伝統的な技術を尊重しつつも洗練されたデザインを取り入れた作品の数々をご覧ください。
SAN-EI infinity2016 写真提供:株式会社三英
3.現在、そして将来への工芸継承を考える
本展では、日本のインダストリアルデザインの出発点となった伝統工芸品に注目し、この素晴らしい技術を次の世代にどのように継承するのかを考えます。
工芸界で活躍する若手職人やデザイン・工芸に関心を持つ学生たちと開催したワークショップの成果や、大学、博物館での工芸技術の継承のあり方から、これまでの工芸、これからの工芸を見通します。
展示ワークショップ「現代に活かす伝統の手わざ」 東北歴史博物館提供
資料点数 約560点
■展示内容
プロローグ:明治の伝統工芸
古来より日本各地で育まれてきた工芸技術は、明治時代に入ると明治政府が推し進める殖産興業・輸出振興政策により、数多くの美術工芸品が積極的に世界に向けて輸出されるようになります。特に1862年のロンドン万博、1867年のパリ万博、1873年のウィーン万博では、超絶技巧を駆使した工芸作品が出品・展示され、世界中の注目を集め、大いに評価されました。また、国内では、こうした美術工芸品の殖産興業・輸出振興政策が進められ、博覧会事業や当代美術振興、古美術保護もおこなわれるようになります。そして、日本における「美術館」が、1877年の第1回内国勧業博覧会で産業館のひとつとして登場しました。
並河靖之「花鳥図棗」 明治時代 京都国立近代美術館蔵
0-1 技を極めた明治の工芸
0-2 万国博覧会・内国勧業博覧会の紹介
第1章 国立工芸指導所
国立工芸指導所は昭和3年(1928年)に仙台市二十人町通り(現:仙台市宮城野区五輪)に設置された国立の研究機関です。工芸品の海外輸出の推進と、東北地方の産業振興を大きな目的として活動を展開しました。その内容は、新素材、新技術やインダストリアルデザインの開発、評価を中心に、講習会の開催や技術相談の受付、普及誌の発行といった啓発活動など多岐にわたっています。
本コーナーでは、こうした工芸指導所の活動を読み解き、その役割について考察します。また、戦争に伴う物資の不足に起因した制約が多くあったため、工芸指導所の活動は、戦前から終戦後の混乱期にわたる工芸指導所の時代と、高度経済成長に向かう産業工芸試験所の時代に大きく分けて捉えることができます。現在の視点からこの二つの時期の活動を見つめると、いくつかのキーワードが浮かび上がってきます。
仙台・宮城を拠点に、当時の国内最高の人材を集めて出発し、現在までつながる工芸指導所の活動を、年表とキーワードをとおして紹介します。
真空蒸着象嵌小箱 東北歴史博物館蔵
1-1 工芸指導所とその活動
1-2 現在から見た工芸指導所
1-3 工芸指導所関連人物
1-4 工芸指導所ゆかりのデザイナーによる椅子の名作品
第2章 現在に活かす工芸
東北歴史博物館では、「工芸指導所の活動を現在の観点から捉え直してみよう。」をテーマに、展示ワークショップ「現代に活かす伝統の手わざ」を開催しました。
職人、高校生、大学生、学芸員の総勢30名からなるワークショップでは、工芸指導所の試作品を手に取りながら一つ一つを評価し、また試作品同士の関係について討論しました。その結果、現在の視点から見て興味を引かれる五つの試作品群に注目が集まりました。
そして、工芸指導所との関わりを意識しつつ、「現在の自分たちのくらしを豊かにするものづくり」をコンセプトに作品づくりに取り組みました。自分たちが持って楽しい、使って楽しいものを作るという試みは、できあがった結果をみると、まさに工芸指導所の目指していたものと重なるものづくりになっていることが分かりました。ここでは、そうした活動を紹介します。
盛器 東北歴史博物館蔵
2-1 現在に繋がる五つの試作品
2-2 展示ワークショップを通した発見
2-3 ワークショップドキュメント
第3章 工芸資料を博物館で伝える
産業としての工芸は、近代化や産業化の推進を図るため、さまざまな形で各地域に展開していきました。そして、その足跡は大学や博物館においてコレクションされています。
本館では、平成28年度に彫金をはじめとした京都の金工関連の製作用具を収集しました。「園コレクション」と称する本コレクションは、高いレベルにあった職人が用いた制作道具であり、彫金師の映像記録とともに収蔵されています。また、金沢美術工芸大学では、金沢美術工芸大学と金沢市が共同で、平成21年度から市制施行120周年記念事業として着手した「平成の百工比照収集作成事業」において、全国の産地を訪ねて収集した金工、染織、漆工の3分野の工程・技法・製品の各種見本や道具、材料など、約1,000点が所蔵されています。
ここでは、関連機関が所蔵する工芸関連資料を紹介し、現代日本のものづくりの姿にせまります。
銀捻文彫花器(鋤彫捻文銀花瓶) 個人蔵
3-1 民博所蔵の園コレクション
3-2 平成の百工比照
第4章 コウゲイを継承する
昭和44年(1969年)、国立機関の改組により製品科学研究所が誕生し、ここに「工芸」を冠する国立の機関がなくなりました。しかし、この約40年間にわたる工芸指導所の活動は、日本の工芸界、デザイン界に大きな足跡を残しました。また、工芸指導所が全国各地に撒いた種は現在も成長しつづけており、世界的な舞台で使用される工芸品もつくられるようになっています。
現在、日本の工芸は、一見、伝統的な技術の粋を極めた鑑賞的な美術工芸作品の分野と工芸指導所がめざしたような、使うことで良さが分かる産業工芸の分野があるように見えます。しかし、これらの工芸品は、常に伝統的な技術を尊重し、新しい技術を吸収し、使う人をイメージしながらつくられる工芸品であり、そこには「くらしを豊かにする」「持つことで楽しくなる」という工芸品として、最も重要な精神の共通性を見出すことできます。
この点を意識しつつ、さまざまな角度から工芸品を生み出す手仕事を継承することこそ、現在、そして将来への工芸継承ではないでしょうか。
北村昭斎「玳瑁螺鈿舟形供物盤」 1999年 奈良県立美術館蔵
4-1 東北の若手職人による作品
4-2 北村家(漆工)4代の作品
4-3 リオオリンピックで使用された卓球台
■関連イベント
みんぱくゼミナール
「市民参加型ワークショップ『現代に活かす伝統の手わざ』から考えるインダストリアルデザイン」
会場 :特別展示館
日時 :11月25日(日) 14:30~15:00
講師 :日高真吾(本館准教授)、小谷竜介(東北歴史博物館)
参加方法:申込不要、要特別展示観覧券
ワークショップ
「オリジナル木製スプーンをつくってみよう」(京都造形芸術大学との共同プロジェクト)
会場 :特別展示館2階
日時 :9月22日(土)、9月29日(土)、10月13日(土)、10月21日(日)、
11月3日(土・祝)、11月18日(日) 各日11:00~15:30(15:00受付終了)
※ワークショップ開催日は、13:00より日高真吾(本館准教授)による
ギャラリートークをおこないます。
対象 :子どもから大人まで(未就学児は保護者同伴で参加のこと)
参加方法:当日受付(各日定員80名)、要特別展示観覧券
■開催概要
展覧会名:特別展「工芸継承―東北発、日本インダストリアルデザインの原点と現在」
会場 :国立民族学博物館 特別展示館
(〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1)
アクセス:大阪モノレール 万博記念公園駅より徒歩約15分
会期 :2018年9月13日(木)~11月27日(火)
※2019年1月11日(金)~2月28日(木)、
金沢美術工芸大学にて一部巡回展を開催
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 :水曜日
観覧料 :一般 830円(560円) 高校・大学生 450円(250円) 中学生以下 無料
※本館展示もご覧いただけます。
*()内は、20名以上の団体、大学等
(短大・大学・大学院・専修学校の専門課程)の授業での利用、
リピーター、満65歳以上の方の場合の料金。
主催 :人間文化研究機構 国立民族学博物館
共同企画:東北歴史博物館
共催 :金沢美術工芸大学
特別協力:静岡文化芸術大学
協力 :株式会社三英
後援 :朝日新聞社、京都新聞社、産経新聞社、日本経済新聞社、
毎日新聞社、読売新聞社
■実行委員長 日高真吾(国立民族学博物館准教授)
東海大学文学部歴史学科日本史専攻卒業(1994年)。博士(文学)(東海大学2006年)。元興寺文化財研究所研究員を経て、現在、国立民族学博物館人類基礎理論研究部准教授。主な著書に『災害と文化財』(国立民族学博物館、2015年)、『女乗物 その発生経緯と装飾性』(東海大学出版会、2008年)、編著書に『記憶をつなぐ―津波被害と文化遺産』(千里文化財団、2012年)、『博物館への挑戦―何がどこまでできたのか』(園田直子と共編 三好企画、2008年)がある。
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