「立川レモンプロジェクト」事業での スマート農業実証実験への技術協力について
2019.01.18 10:00
株式会社テクサー(本社:東京都、代表取締役社長:朱 強、以下 テクサー)、株式会社エネルギア・コミュニケーションズ(本社:広島市、代表取締役社長:熊谷 鋭、以下 エネコム)およびシリコンテクノロジー株式会社(本社:東京都、代表取締役社長:四方堂 第五郎、以下 シリコンテクノロジー)は、「立川レモンプロジェクト」事業に最新の農業用IoT技術を提供するなど、このプロジェクトへの協力を開始しました。
図1 実証実験の実施場所
【背景と経緯】
「立川レモンプロジェクト」は、東京都立川市商店街連合会の役員で構成する「たちかわ商店街研究会」のメンバーが中心となり、立川の名産品として「瀬戸内レモン」の生産を試みる事業の一環として実施されています。このプロジェクトは、「ひろしまサンドボックスプロジェクト」(*1)およびレモンの加工品を製造販売する「一般社団法人とびしま柑橘倶楽部」(広島県呉市、以下 とびしま柑橘倶楽部)(*2)、呉市と立川市の農家などと連携して行なわれています。「立川レモンプロジェクト」では、2020年をターゲットの一つとして立川レモンのブランディングをもとにして売上げと集客の向上などの地域活性化を目指しています。
このプロジェクトで採用されたのはレモン栽培発祥の地である、とびしま海道の大崎下島で栽培されている「とびしまレモン」で、特長は「レモン丸ごと皮まで安心して食べられる」ことです。一般にレモンの木はマイナス3度以下の気温が数日続く環境では栽培困難とされていますが、とびしまでのオリジナルの栽培方法により寒冷な気候にも強いので、立川での栽培を目指して実証実験を開始するに至りました。レモンの品種として「とびしまレモン」を選んだ背景には、西日本豪雨災害で被災した呉市に対する復興支援の気持ちもあったとの事です。
とびしま柑橘倶楽部は、エネコムと共に「ひろしまサンドボックス事業」に参画し、「島しょ部傾斜地農業に向けたAI/IoT実証事業~ICT(愛)とレモンで島おこし~」事業において「レモンビジネスコンソーシアム」(*3)のメンバーとして実証事業を行ってきました。
この事業の中でエネコムは、テクサーおよびシリコンテクノロジーと共に、島しょ部傾斜部の圃場(ほじょう)環境の見える化への取組みをおこなってきました。見える化を実現するために、圃場内のレモン植栽地の気温・湿度、土壌の温度、水分量、電気伝導度などの情報をテクサーが提供するセンサを用いて取得し、IoT向きの無線データ通信ネットワークであるLPWAN(*4)の最新規格であるZETA(*5)を用いてクラウド上のサーバに転送しています。
【実証実験の目的と実施体制】
本実証実験では、瀬戸内海よりも寒冷である立川市でレモンを栽培するために最新の農業用IoT機器を設置してレモンの苗木の栽培環境の見える化を行い、取得された情報を活用した栽培環境の最適コントロールを行うことを目指しています。これにより、これまで困難とされていた寒冷地でのレモン栽培技術を高度化するとともに、得られた知見を汎用化し、我が国の農業技術の高度化に貢献することを目指しています。
実証実験は、ZETAの普及を促進するZETAアライアンス(*6)の支援のもとに、テクサー、エネコムおよびシリコンテクノロジーの三社が協力して実施します。
【実証実験の実施場所】
実証実験は、立川市の農家のご協力のもとに圃場の一部を使わせていただいて実施しています。実証実験を行っている圃場の上空からの写真を図1に示します。レモンの苗木は同図の左上の圃場内に植栽してあります。温湿度センサおよび土壌センサは図2に示すようにそれぞれ1個が設置されています。また、基地局(AP)は図1の右下の位置に設置されています。センサで取得されたデータは基地局に集められ、公衆無線電話回線を経由してクラウド上のサーバに送られます。基地局の設置状況を図3に示します。
図1 実証実験の実施場所
図2 温湿度センサと土壌センサの設置状況
図3 基地局(AP)の設置状況
【実証実験で取得されるデータの可視化】
本実証実験で取得中の温湿度センサ(大気の温度および湿度)のデータの一部を図4に示します。
図4 温湿度センサで取得されたデータの例
また、土壌センサ(土壌の温度および水分量)のデータの一部を図5に、電気伝導度(EC)のデータの一部を図6に示します。電気伝導度は土壌中の塩基濃度の目安であり、高い値であるほど土壌の栄養分が多いので、肥料を与えるための尺度として使われます。
図5 土壌センサで取得された土壌の温度および水分量のデータの例
図6 土壌センサで取得された土壌の電気伝導度のデータの例
【実証実験に用いた無線通信インフラZETAの特長】
従来型のLPWANの規格であるLoRaWANおよびSigfoxでは、基地局(AP)とセンサの間の通信はスター型のネットワークによって直接行われるので、山間部などの複雑な地形の場所では電波の不感地帯が発生しやすいという問題があります。これら従来の方式で電波の不感地帯をカバーするためには、多数の基地局を設置せざるを得ません。しかし基地局には商用電源の供給が必要なので、基地局を設置可能な場所は限られることになり、山間部の圃場などでの無線通信方式としては適していません。
今回の実証実験で採用したZETAは、これらの方式とは異なり、中継器を用いてデータを複数回中継しながら通信が行えるという特徴を持っています。そのため、基地局からの直接の電波の不感地帯が生じても中継器を適切に設置することによって不感地帯の解消が容易に行えます。
中継器は電池によって数年間の稼働が可能で商用電源の敷設が不要で、中継器の価格が基地局の価格の10分の1以下であることから、IoT用の無線通信ネットワークの構築のための初期コストを1/5程度に抑えることが可能です。さらに、公衆回線の使用料が発生する基地局の台数が減ることから、ネットワークの運用コストも低く抑えられます。
【今後の予定】
2018年10月17日に行われた植樹式では、西日本豪雨災害で土砂が流入した呉市から3本のレモンの苗木が移植されましたが、2019年3月までには約20本の苗木が移植され、3年後の収穫に向けて本格的な栽培実験に入る予定です。
また、農業用センサから取得された各種のデータはクラウド上のサーバに蓄積され、ビッグデータとして解析することによって収穫されるレモンの品質と収量の最適化を行うための環境のコントロールに役立てることが可能になると期待できます。さらに、育成中の農業製品の品質と収量の予想が得られれば、農業の第六次産業化のための重要な情報を提供することも可能になります。
今後はこのような取組を通じて、我が国の農業の高付加価値化と優良産業化の一助となるべく貢献して行きたいと考えています。
【参考資料】
(*1) ひろしまサンドボックス事業については次のURLをご覧下さい。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/259/hiroshima-sandbox.html
(*2) 一般社団法人とびしま柑橘倶楽部については、次のURLをご覧下さい。
http://tobishima.hiroshima.jp/tobishima-cc/
(*3) 「レモンビジネスコンソーシアム」のメンバーは、とびしま柑橘倶楽部、呉広域商工会、M-Cross International Corporation、株式会社竹中工務店、エネコム、株式会社ウフルで、レモン生産の拡大、消費者へ安全安心なレモンの提供、農業就労環境・労働生産性の改善、地域課題の解決と活性化、耕作放棄地のリノベーションを目的としています。コンソーシアムのレモン収穫量の目標は、現在の年間収穫量約200トンを10年後にはその2倍の約400トンに増やすことです。
(*4) LPWANは、低消費電力広域無線通信ネットワーク(Low Power Wide Area Network)の略称です。
(*5) ZETAは、2013年に英国ケンブリッジで創業されたベンチャーであるZiFiSense社によって開発されたIoT向きの無線通信の新しい規格です。ZETAの特長は、低消費電力で双方向通信が行えること、中継器を用いてメッシュ状のアドホック無線通信ネットワークを構築してマルチホップ通信(最大4ホップ)が行えること、中継器は小型軽量で電池駆動が可能であり設置場所の選択範囲が広いことなどです。
これらの特長から、ZETAは高層ビルが林立する大都市中心部、島しょ部傾斜地や山間部など複雑な地形の場所でのIoT向けの無線通信インフラとして適しています。ZiFiSense社のURLは次のとおりです。
URL: http://www.zifisense.co.uk/
(*6) ZETAアライアンスは、ZETAの活用推進と普及促進を図るために、テクサーが凸版印刷株式会社(本社:東京都)、株式会社QTnet(本社:福岡市)、アイティアクセス株式会社(本社:横浜市)と共に2018年6月に設立した協業組織(エコシステム)です。ZETAアライアンスは、ZETAを用いたIoTシステムを様々な社会課題に対して適用を進めることにより、Society5.0で提唱されている超スマート社会の実現に貢献することを目指しています。
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