外界からの捕食から逃れるために 野生マウスは短期間で遺伝的変異を起こし、 体毛色を外界からの保護色になるように変化させることを実証
藤田医科大学 若松一雅特任教授は、アメリカのハーバード大学、カナダのマギル大学らと国際共同研究を行いました。
この研究成果は、国際的な総合科学ジャーナル『Science』オンライン版(アメリカ東部時間2019年1月31日)に掲載されます。
<研究のポイント>
・シカネズミのアミノ酸のセリン欠損変異(ΔSer)が、フェオメラニンの産生の減少を引き起こし、全体的に体毛をより明るく見せる原因となることを証明。
・定常的な遺伝的変異が利用可能である場合、自然淘汰が急速な表現型の変化をもたらし得ることを実証。
<本研究成果の内容>
遺伝的変化が自然淘汰の対象となる形質に影響を及ぼすと、適応進化が起こることが知られています。選択は決定論的プロセスですが、遺伝子型、表現型、および適応度の間の機能的関連が複雑であるため、適応を予測するのは困難な場合があります。
本研究では、野生の脊椎動物の単一研究で、形質適応を推進する生態学的および分子生物学的メカニズムの両方を同定するために、異なる生息地におけるシカネズミの野生集団を用い、実験室における遺伝的および分子生物学的試験と大規模な野外実験を組み合わせました。これらの正確なメカニズムのつながりを見ることは、自然集団における環境変化の進化的影響を予測するのに役立ちます。
アメリカ・ネブラスカ州のサンドヒルズは、約1〜8万年前の明るい色の石英でできています。この砂丘の生息地は周囲の生息地とは物理的性質が異なり、最も顕著なのは土壌の色です。サンドヒルズは地質学的には若く、そして生態学的に異なっているので、この地域に生息するシカネズミ個体群は、進化し、強く選択されたこの新しい環境への適応を有することが期待されます。そのような適応の1つの顕著な例は色素沈着です。古典的な自然史研究では、シカネズミの背面の体毛は基質の色と強く相関していると説明されており、この表現型の変化に対する主な仮説は、鳥類の捕食者に対する保護色の選択でありました。生息地の種類による色素沈着の違いは、脊椎動物における黄色の色素(フェオメラニン)の産生を仲介する遺伝子座であるアグチ内の複数の突然変異に特に関連しています。
捕獲されたマウスをそれぞれ、明るい囲い地と暗い囲い地に入れ、14ヵ月後、生存率を求めたところ、明るい囲いと比較して暗い囲いの方が2倍高くなりました。明るい囲いでは、生き残ったマウスは元々の母集団の平均マウスより背側の色が平均して1.44倍明るかったが、暗い囲いでは平均して1.98倍暗くなりました。暗い囲い地では、アグチ遺伝子座の対立遺伝子頻度の変化が自然淘汰と一致していることがわかり、遺伝子レベルのパターンと表現型レベルの変化はパラレルでありました。背面の明るさと生存の間の有意な関連性が、顕著な色素沈着を有するマウスでは、より高い鳥の捕食率によって引き起こされる可能性が高いことを示唆されています。
アグチにおけるアミノ酸のセリン欠損変異(ΔSer)に焦点を合わせ、実験を行ったところ、実験開始3ヵ月後、ΔSerマウスが野生型マウスの毛髪よりも有意に少ない量のフェオメラニンを有することを見出しました。また、暗い囲い地より明るい囲い地のマウスの方が、アグチの突然変異頻度が大きいことがわかりました。これらの結果は、シカネズミのΔSerがフェオメラニンの産生の減少を引き起こし、それにより全体的に体毛をより明るく見せる原因となることを示しています。
定常的な遺伝的変異が利用可能である場合、自然淘汰が急速な表現型の変化をもたらし得ることを実証しました。これらの結果は、コロニー形成集団における遺伝子型、表現型、および適応度の間の機能的関連についての知識が、定義された生態学的条件下で将来の進化を予測するのに役立つ可能性があることを示唆しています。
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