夏休み“菌のインバウンド”に要注意 海外旅行中に6割が下痢に! 海外旅行中の下痢・腹痛、薬の取り扱いについてアンケートを実施
海外で薬を飲んで薬剤耐性菌が国内へ流入?!
AMR臨床リファレンスセンターでは、特に薬剤耐性菌が多いといわれている東南アジア、南アジアへの海外旅行経験を有する一般人331人を対象に、海外旅行中の下痢や腹痛の有無、薬の取り扱いについてアンケートを行いました。
■海外旅行緊急調査レポート発表
感染症治療の切り札といわれる抗菌薬が効かない薬剤耐性(AMR)の問題が世界中で深刻化しており、日本でも新たな薬剤耐性菌を増やさない、また発生してしまった菌を拡散させないよう取り組みが始まっています。しかし、旅行先で現地の薬剤耐性菌に感染し、自覚がないまま日本へ持ち込んでしまうケースが増え、大きな問題となっています。
今回のアンケートの結果、現地で多くの人が下痢をしていること、薬剤耐性の問題を引き起こす原因となりかねない抗菌薬(抗生物質)を海外に持参または、服用している人が20代男性では8割もいることがわかりました。さらに専門医の解説から、旅行者が現地での下痢に抗菌薬を乱用することによって、海外から薬剤耐性菌を持ち込む結果を招いている姿が浮き彫りになりました。
楽しい海外旅行で、恐ろしい薬剤耐性菌を日本に持ち込むことがないように、海外旅行で抗菌薬を服用するデメリットを知り、薬剤耐性菌対策に関する正しい知識を一人ひとりが身につけることが大切です。
■調査SUMMARY<サマリー>
・海外旅行中に下痢や腹痛を起こした経験がある人は63%、20代男性は85%も!
・8割強が海外旅行に薬を持って行く
・4割が海外旅行に抗菌薬(抗生物質)を持参または服用、20代男性では約8割も!
・海外旅行で抗菌薬を服用するデメリットがあることを知る
・海外旅行先で薬剤耐性対策のために私たちができること8か条
サンプル:東南アジア、南アジアへの海外旅行経験のある一般人 331名
男女 各50%、20代~60代年代別に調査
調査期間:2019年6月
■途上国への旅行では「旅行者下痢症」に注意
途上国に1カ月間旅行へいくと、2~6割が旅行者下痢症になるという報告があります。旅行者下痢症とは、旅行者が海外滞在中に発症する下痢症状のこと。さまざまな原因が考えられますが、多くは食べ物についた病原性大腸菌、キャンピロバクター、サルモネラ菌などの細菌や、ノロウイルスなどのウイルスによって起こります。今回の調査でも東南アジア、南アジアへ旅行経験がある人の63%が下痢や腹痛を起こしていたことがわかりました。途上国への旅行は旅行者下痢症の対策を行うことが大切です。
しかし、その対策に抗菌薬は万能薬といった間違った認識が多く、海外にいる薬剤耐性菌を国内へ持ち込む結果となり大きな問題となっています。そこで、国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 国際感染症センター 忽那 賢志(くつな さとし)先生に、調査結果の考察と旅行者下痢症の正しい対策方法、さらに薬剤耐性菌を国内に持ち込まない方法を伺いました。
先生によると、途上国に多くみられるESBL産生菌などの薬剤耐性菌の国内への持ち込み事例が、近年増えており、この菌に感染すると、尿路感染症、腎盂腎炎、肺炎などを引き起こす可能性があります。薬剤耐性菌ですから薬が効かないうえ、国内で他の人に広がることも脅威です。
■3人に2人が海外旅行先で下痢・腹痛に
「海外で下痢・腹痛になったことがありますか?」という質問に、約63%が「はい」と答え、ほぼ3分の2の人が下痢や腹痛を起こしていたことがわかりました。特に20代男性は、85%と多くが下痢や腹痛を起こしています。
途上国はまな板や包丁が汚染されている場合が多く、サラダやカットフルーツなどには食中毒を起こす菌が付着している可能性が高く、ときには薬剤耐性菌が体内に入る機会にもなりえます。また、屋台での食事もリスクが高いと忽那先生は指摘します。
■海外旅行へ薬を持参する人は8割以上
「海外旅行に薬を持っていきますか?」という質問に、84%と高い割合で持っていくことがわかりました。海外の薬局で薬を購入したり、病院にかかることはハードルが高いと考えるからかもしれません。
市販の薬や医師に処方された薬を、万が一のために持って行くのは悪くありませんが、問題とされるのは使用法です。特に抗菌薬においては、以前処方されて余った薬を持参し自己判断で中途半端に服用することは、絶対にいけません。薬剤耐性菌をつくってしまうことにつながるからです。
Q2 海外旅行に薬を持っていきますか?
■3人に2人が海外旅行先で下痢・腹痛に
「海外旅行に抗生物質(抗菌薬)を持参したり、服用したりしたことがありますか?」という質問に、約43%が持参または服用しており、特にバックパッカーが多い20代の男性は78.8%と約8割にものぼりました。この結果には忽那先生も驚きを見せました。
抗菌薬の服用にはメリットとデメリットがあることを、頭に入れておくことが重要です。
Q3 海外旅行に抗生物質(抗菌薬)を持参したり、服用したりしたことがありますか?
Q3で「はい」と答えた人の年代別グラフ
抗菌薬は医師の説明通りに正しく服用すればメリットがありますが、自己判断で服用した場合には以下のデメリットが考えられます。
■海外旅行で抗菌薬を服用するデメリット
1. 薬剤耐性菌が体内に残り、腸内で増殖し国内へ持ち込むことになる
身体に有益な菌も死に、現地で体内に入った抗菌薬が効かない薬剤耐性菌だけが残り、腸内で増殖。身体の中に持ったまま日本へ持ち込む可能性が高くなる。
2. マラリアや腸チフスなど命にかかわる感染症の診断と治療が遅れる
旅行者下痢症でない下痢の場合、抗菌薬を服用することでかえって診断や治療が遅れることがある。特にマラリアや腸チフスの場合、命にかかわることもある。
3. 抗菌薬の服用による下痢と区別がつかなくなる
抗菌薬を服用すると腸内細菌のバランスが崩れて下痢が起こることも。熱が出たからと抗菌薬を自己判断で服用すると、他の原因の下痢症と判断がつかなくなる。
■海外から持ち込むインバウンドAMR(薬剤耐性)菌が増加!
<薬剤耐性(AMR)とは?>
現在、薬剤耐性のことを世界的にAMR(Antimicrobial Resistance)と呼んでいます。
そもそも薬剤耐性とは何でしょうか?細菌などの微生物が増えるのを抑えたり壊したりする薬が抗菌薬(抗生物質)ですが、微生物はさまざまな手段を使って薬から逃げ延びようとします。その結果、薬が微生物に対して効かなくなることを「薬剤耐性」といいます。
抗菌薬が使用されると、その薬が効く菌が減少しAMRをもった菌が生き残るため、それらの菌が体内で増殖し、人や動物、環境を通じて世間に広がります。抗菌薬は大切な薬ですが、適切に使用することが大切なのです。
<国連も「2050年にはAMRで年1,000万人が死亡する事態」と警告>
国連は、このままでは2050年までにはAMRによって年に1,000万人が死亡する事態となり、がんによる死亡者数を超え、08~09年の金融危機に匹敵する破壊的ダメージを受けるおそれがあると警告しました。*1
海外から持ち込まれるAMRで、現在事例が増えているESBL産生菌(薬剤耐性菌の一種)は大腸菌の仲間なので、腸内にいる分には感染しても自分自身には症状はありません。楽しく旅行から帰ってきたものの、気が付かないうちに日本国内へAMR菌を持ち込んでいることになってしまいます。
*1 https://news.un.org/en/story/2019/04/1037471
No Time to Wait: Securing the future from drug-resistant infections
Report to the Secretary-General of the United Nations April 2019
<切り札といわれる抗菌薬が効かない菌も海外から>
切り札といわれるカルバペネム系抗菌薬に対する耐性菌も、海外からの持ち込みが報告され問題となっています。腸チフスなど命にかかわる病気の耐性菌も報告があり、海外旅行でのAMR対策は喫緊の課題とされています。日本にまだ入っていない耐性菌も欧米では、数々報告されています。
薬剤耐性菌による感染症は、薬が効かないという大変な事態に陥ります。旅行者下痢症への抗菌薬の使用が薬剤耐性菌増加の原因のひとつとされていますが、そもそも、海外で感染しないことが重要です。
■海外旅行でのAMR対策 8か条
1. 現地ではまめに手洗いを行う
感染を防ぐ手段は手洗い。海外では手洗い場が少ないが、ウェットティシュよりも水で流すことが効果的。
2. 加熱した食品を食べる
野菜サラダやフルーツなど生ものには菌がついていると考えて。特にカットされたものはリスクが大きい。
3. 屋台の食品は食べない
菌に汚染されているリスクが高く、加熱されたものでも口に入れない方がいい。
4. ペットボトルや密閉容器に入った飲料を飲む
途上国では水道水や氷は口にいれず、水分をとる場合はペットボトルや密閉容器に入ったものをとる。
5. 旅行の1カ月前にはワクチン接種を行う
ワクチンで予防できる感染症は多くあるので事前に予防接種を行う。マラリアなどワクチンはなくても予防薬がある感染症もある。トラベルクリニックを1か月以上前に受診するのがお勧め。
6. 軽い下痢なら整腸剤で様子をみる
下痢を起こしてもすぐに抗菌薬をのまずに、軽い場合は整腸剤などで様子をみる。軽い場合は2~3日で自然治癒することが多い。
7. ひどい下痢になったら現地の医療機関にかかる
下痢が重い場合は、現地の薬局で薬を買ったり、自己判断で抗菌薬を服用せず、医療機関にかかる。
8. 自己判断で抗菌薬を服用しない
熱や下痢で抗菌薬を自己判断で服用しない。抗菌薬は必ず医師の指示とおりに服用する。
■お話しを伺った先生
忽那 賢志(くつな さとし)先生
医師
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 国際感染症センター
国際感染症対策室 医長 国際診療部 副部長(併任)
国立国際医療研究センター 国際感染症センターに2012年より勤務。海外から持ち込まれる感染症、エボラ出血熱などの新興再興感染症、デング熱などの動物由来感染症を専門にしている。
忽那 賢志(くつな さとし)先生
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