原子力発電所における水素爆発の被害を 低減する減災システムを開発 爆燃による建屋崩壊と大気中への放射性物質の拡散を防止
2019.09.09 10:00
芝浦工業大学(東京都港区/学長 村上雅人)工学部機械機能工学科の斎藤寛泰准教授、名古屋大学の吉川典彦名誉教授、労働安全衛生総合研究所の大塚輝人上席研究員らの研究グループは、原子力発電所(以下、原発)の原子炉建屋内における水素ガス爆燃の圧力上昇による建屋崩壊や大気中への放射性物質拡散を防止し、水素爆発の事故被害を低減する減災システムを開発しました。
この研究成果は7月発行のエルゼビア社「Journal of Loss Prevention in the Process Industries」誌Vol. 60に掲載され、直近90日に最もダウンロードされた論文、Most downloaded articlesのうちの1本に選出されました。
このシステムを用いた装置は電力を要さない機構で、電源喪失時など電力を供給できない環境下でも有効に被害低減に機能することが期待できます。
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(オープンアクセス)
【ポイント】
●水素などをエアバッグ内に閉じ込め、炎と隔離し爆燃による建屋崩壊を防ぎ、大気中への放射性物質の拡散を防止する減災システム
●電力が不要で、電源喪失時にも機能
●化学プラント、穀物貯蔵庫など密閉空間の安全システムにも適用可能
システムの概要図
・防災から「減災」へ
エアバッグで水素や放射性物質を閉じ込める
これまで原発においては、水素爆発を起こさないようにする施設の「防災」に重点を置いて、対策が施されてきました。一方で本研究は水素爆発の発生を前提とし、その被害を低減する「減災」システムを提案するものです。
このシステムを用いた装置は、建屋の外壁など表面に開口部を設けて複数取り付けることを想定しています。装置は10~20枚の細かい金網を重ねた消炎装置と、水素などのガスを逃がすエアバッグから構成されます。爆発が起きると、その熱膨張で水素を含んだ可燃性混合ガスや放射性物質をエアバッグへ押し込み、迫り来る炎を消炎装置で遮断し消炎。ガスと炎を分離することで、爆燃とそれによる建屋内部の圧力上昇を防ぎます。エアバッグに押し込まれた水素ガスは、水蒸気の凝縮によって減圧する建屋内に、徐々に引き戻されていきます。
建屋内で水素爆発が発生した場合、ガスの膨張が抑え込まれるため内部の圧力が上昇し、耐圧を超えれば建物が崩壊します。しかし、このシステムによって建屋内の圧力上昇による損壊と、大気中への放射性物質の拡散を回避できます。
2m四方(8m3)、耐圧3atmの鉄筋コンクリート製立方体
体積濃度28%の水素・空気混合気での過圧力記録
・圧力が96%減、密閉空間の安全システムにも
本研究はこれまで多くの学生も参画し、実験室内の小スケール実験から屋外での大スケール実験まで、数年にわたる実験によってその効果が実証されています。
2m四方(8m3)で耐圧3atm(およそ303kPa)の鉄筋コンクリート製立方体に取り付けて行った実験では、体積濃度28%の水素・空気混合気での爆発の最大圧力は28kPaまで減少しました。装置を付けなかった場合に過圧力で700~800kPa程度まで上昇する爆発と比較し96%減と、顕著に減少しています(図1)。
このシステムは原発のほかにも、化学プラント、穀物貯蔵施設や燃料パイプラインなどの密閉空間の安全対策システムへも適用できます。今後は原子炉建屋への装置の設置に向けて、エアバッグ部分に改良を施し、実際の建屋のサイズを想定したさらなる実験・研究を進めていきます。
ハイスピードカメラで時間を追ってとらえた水素爆発時のエアバッグ
エアバッグを用いた爆発実験の様子のビデオはこちら
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