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治療法のなかった不定愁訴の治療に突破口  原因不明の体調不良「不定愁訴」発症に 頚部筋群の緊張の関与を報告

2020.01.14 09:00

脳神経と自律神経の診療を専門に行う東京脳神経センター(所在地:東京都港区、理事長:松井 孝嘉)の研究チームは、原因不明の体調不良『不定愁訴』で入院した患者1,863名に対して頚部筋群への局所療法を行なった結果、退院時には全28のすべての症状が50%以上の回復率を示したことを研究論文にまとめ、そのメカニズムとして、頚部筋群の中を通っている副交感神経の関与の可能性を示しました(European Spine Journal 日本時間2020年1月14日に掲載)。

本研究は、全身の不定愁訴の発症に頚の筋肉の緊張が関与していることを示した知見であり、その治療法開発の突破口となるものと考えます。



【研究の背景】

「不定愁訴」とは、動悸、発汗、頭重、不眠、胃腸障害、慢性疲労、血圧の不安定、気分障害など、全身の多岐にわたる自覚症状の訴えがあるものの、複数の医療機関で検査をしても原因となる病気(器質的疾患)が見つからない病態を指します。多くの患者は具体的な治療法のないまま心因性と診断され、メンタルクリニックや精神科を紹介されますが、そこでの治療も効果がなく長期に渡って苦しんでいるのが現状です。

東京脳神経センターでは、松井病院(香川県観音寺市)との共同研究で、この原因不明の不定愁訴の病態解明と治療法の確立を目指して臨床研究を続けてまいりました。その結果、全身の不定愁訴を訴える患者の多くが、頚の疾患(変形性頚椎症、椎間板ヘルニア、むち打ち症など)や頚のコリを合併していることに注目し、2012年に「頚性神経筋症候群(cervical neuro-muscular syndrome)」という疾患概念を提唱*1しました。また、2019年には、この不定愁訴を長期に訴え続ける難治性むち打ち症患者の症状が、首への局所的な物理療法によって著明に改善することを報告*2しています。


*1 Matsui T, et al. Neurol Med Chir 52:75,2012

*2 Matsui T, et al. BMC Musculoskelet Disord 20:251,2019



【研究成果の概要】

2006年5月~2017年5月までの11年間に、頭頚部系、心血管系、消化器系、精神神経系など計28愁訴(表1)の内、頚と肩以外に2つ以上の症状を訴えて、東京脳神経センター(以下 当センター)または松井病院を受診した頚部疾患患者の中で、通常の外来治療では治癒せず入院となった患者全1,863名(男698名、女1,165名:平均年齢47.6歳)を対象としました。

全患者に対して、頚部に対する物理療法(低周波電気刺激療法と遠赤外線照射)を1日に2~3度行いました。本治療法は、頚部の筋肉の緊張を改善させることが実証されています。他の薬物療法などの治療は一切行いませんでした。上記の28愁訴を対象として、入院時と退院時(平均入院日数:92.2日)における問診票に基づき、全愁訴数、および治療による不定愁訴の回復率を解析しました。

全患者の愁訴数は、入院時は17.8±5.7(平均±標準偏差)でしたが、退院時には7.4±6.0にまで減少しました(P<0.0001)。入院時に10以上の愁訴を訴える患者数は91.1%に上りましたが、退院時には29.3%にまで減少しました。更に、8.2%の患者は退院時には全くの無症状(愁訴数ゼロ)にまで回復しました(図1)。

愁訴別の患者数を入院時と退院時で比較すると、28愁訴すべてが50%以上の回復率を示しました(図2)。これは、頚部筋群への直接的・局所的な治療効果に加えて、頚部筋群の緊張の緩和が間接的に全身の不定愁訴を改善させるというメカニズムの存在を示唆するものと考えられます。

そこで我々は、このメカニズムとして、頚部筋群の間を通って全身に分布している副交感神経(図3)の関与の可能性を検討するために、少数の患者さんに瞳孔機能検査を行いました。対象は、2016年1月から2017年5月までの1年4か月間に、入院中に28愁訴中15愁訴以上回復を示して検査の同意が得られた著明回復群4名です。これにより、すべての症例において、光刺激前の直径(D1)、刺激後の収縮率(%CR)、収縮速度(VC)のすべての指標が著明に改善していることが確認されました(図4)。



【今後の展望】

本研究は、全身の不定愁訴の発症に頚の筋肉の緊張が関与していることを示した知見であり、その治療法開発の突破口となるものと考えます。また、そのメカニズムとして、頚部筋群を通り全身に分布している副交感神経の関与の可能性が示唆されたものと考えます。

しかしながら、本研究で用いた平均92.2日に及ぶ入院治療は、患者への負担、および医療経済的観点からも現実的とは言えません。外来通院でも可能な筋弛緩薬による局所療法(湿布や軟膏など)、更には、より大規模な研究で副交感神経の関与が確認されれば、副交感神経標的薬剤であるコリン作動薬およびムスカリン受容体刺激薬による、世界に先駆けての大規模な産学連携による臨床開発研究を見据えています。



【発表媒体】

European Spine Journal 電子版 日本時間2020年1月14日

※ 論文タイトル「Cervical muscle diseases are associated with indefinite and various symptoms in the whole body」



【参考URL】

European Spine Journalホームページ: https://www.europeanspinejournal.org/



【参考資料】

表1. 全身の不定愁訴(28愁訴:頚および肩の症状を除く)


頭部領域異常 :頭痛・頭重感

        めまい

        立ちくらみ

        眩しい

        目が見えにくい

        目が疲れやすい

        目が乾燥する

        口が乾く・唾が出ない

心血管系異常 :動悸

        胸部圧迫感

        体温調節異常

        血液循環不全

        血圧不安定

消化器系異常 :吐き気・胃部不快感・食欲不振

        下痢・便秘

全身性異常  :全身倦怠感

        発汗異常

        冷え性

        不明熱

精神神経系異常:うつ症状

        不眠・寝つきが悪い

        横になりたい

        無気力・意欲が出ない

        天候依存

        気分が晴れない・気が滅入る

        不安感・恐怖感

        異常に過敏・集中力低下

        焦燥感・イライラ


図1:治療前後における症状数(横軸)別の患者数(縦軸)の推移

図2:各症状の改善率

図3:頚を通る副交感神経の全身への分布

瞳孔機能検査(副交感神経機能の評価)


すべての著明改善症例(n=4)において、光刺激前の瞳孔の直径(D1)、刺激後の収縮率(%CR)、収縮速度(VC)のすべての指標が改善している。



【東京脳神経センター 施設概要】

2006年5月、専門的な脳の病気全般と全身の不定愁訴の診療を目的に開設した医療施設。「今までどこの病院でも治せなかった病気を治す」という使命のもと、東京大学医学部出身の脳神経外科医・神経内科医・整形外科医・婦人科医が集結して診療を行っています。


■理事長: 松井 孝嘉

■所長 : 嘉山 孝正(元・国立がん研究センター理事長・総長・院長)

■所在地: 〒105-0001 東京都港区虎ノ門4-1-17

■TEL  : 03-5776-1200

■URL  : http://tokyo-neurological-center.com/

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