こんにゃくセラミドの摂取による アルツハイマー病の発症予防効果を確認
ダイセル社と北海道大学との共同研究で解明
2019.12.19 17:00
こんにゃくセラミド健美肌プロジェクトを立ち上げた株式会社ダイセルと、国立大学法人北海道大学 五十嵐靖之招聘客員教授、湯山耕平特任准教授ら研究チームとの共同研究において、機能性食品素材である植物性(こんにゃく由来)のセラミド(以下「こんにゃくセラミド」)の、アルツハイマー病の発症を予防する効果が確認されました。
早急な予防法・治療法の確立が望まれているアルツハイマー病の発症は「アミロイドβペプチド」が脳内に過度に蓄積することが原因の一つと考えられています。本研究では、アミロイドβペプチドが「エクソソーム」という物質と結合することで分解・除去されることが解明されました。エクソソームの量を増やすことでアミロイドβペプチドの蓄積を抑止でき、アルツハイマー病の発症防止につながる可能性があります。
<アミロイドβペプチド斑の減少>※グルコシルセラミド投与群では、発症原因の一つとされるアミロイドβペプチドが減少していることが確認された
<こんにゃく由来セラミド経口投与のアルツハイマー病モデルマウスにおける効果>
こんにゃくセラミドは経口で摂取することにより、全身のうるおいを保つ効果を持ち、美容サプリメントや飲料などに活用されています。研究チームはこれまでに、アミロイドβペプチドがエクソソームと呼ばれる細胞外小胞と結合することによって分解除去されることを明らかにしてきました。本研究では、エクソソーム分泌を促進させる分子の探索を行い、その結果、こんにゃくセラミドがエクソソーム産生を促進する作用をもつことを発見しました。
今回の研究では、アミロイドβペプチドが過剰に発現したマウスに対し、こんにゃくセラミド 1mg/日の経口投与を2週間継続したところ、短期記憶の改善や脳内のアミロイドβペプチド濃度の低下、血液・脳内のエクソソーム量の上昇などが確認され、こんにゃくセラミドにエクソソームの分泌を促す作用があることが確認されました。エクソソームの量を増やすことでアミロイドβペプチドの蓄積を抑止でき、アルツハイマー病の発症を防止につながる可能性があります。
【背景】
アルツハイマー病(AD)は主要な老年期の認知症性疾患であり、現在早急な予防法・治療法の確立が望まれています。AD発症には様々な要因が関与していますが、脳内でのAβ(アミロイドβペプチド)蓄積増加が主な原因と考えられており、脳内Aβレベルを制御することが治療・予防戦略の一つとして有望視されています。五十嵐教授らの研究グループはこれまでに、神経細胞から放出される二重膜で構成されたナノ顆粒「エクソソーム」がAβを除去する能力をもつことを培養細胞とADモデルマウスを用いた実験で明らかにしてきました。これらの知見から、本研究グループではエクソソーム依存性Aβ分解系の促進というアプローチを用いたAD予防法の確立を目的に研究を進めており、本研究では新たに発見したエクソソーム産生を促進する分子の一つである植物セラミドの効果をADモデルマウスを用いた実験で検証しました。
【研究手法】
研究グループは、実験材料の植物性セラミドとしてこんにゃく芋から精製したセラミド(グルコシルセラミド)を用いました。こんにゃく芋由来セラミドは機能性食品素材として美肌目的のサプリメントや飲料に配合されている脂質成分です。また、ADモデルマウスには脳内でAβを過剰発現するAPPトランスジェニックマウスを使用しました。このマウスに植物セラミド1日1mg量を2週間継続的に経口投与した後、Aβ病理とエクソソーム量を解析しました。
【研究成果】
ADモデルマウスに植物セラミドを経口投与すると、大脳皮質や海馬領域でAβ濃度の低下とアミロイド斑(老人斑様のAβ沈着)が減少していました。また、海馬領域ではシナプス障害の抑制も観察され、行動実験では短期記憶の改善が認められました。さらに、同じ脳標本中のエクソソームを解析したところ、神経細胞由来のマーカータンパク質の増加がみられました。
今回の実験で、植物セラミドの経口摂取によってADのようなAβ関連病理が低減することが実証され、また、植物セラミドの作用でエクソソーム依存性Aβ分解を促進させる可能性を示唆する結果が得られました。
【今後への期待】
脳内Aβ蓄積の抑制はAD予防の有効な戦略とされており、本研究で得られた新たな知見は機能性食品素材や新薬開発に繋がる可能性があります。今後研究グループでは、ヒト介入試験による植物性セラミドの認知機能改善効果の検証を実施する予定です。
【論文情報】
論文名:Plant sphingolipids promote extracellular vesicle release and
alleviate amyloid-β pathologies in a mouse model of Alzheimer’s disease
(植物スフィンゴ脂質は細胞外小胞放出を促進し
アルツハイマー病モデルマウスにおいてアミロイドβ病理を軽減する)
著者名:湯山耕平、高橋香織、臼杵靖剛、三上大輔、孫慧、花松久寿、
古川潤一、向井克之、五十嵐靖之
【アミロイドβペプチドについて】
アミロイドβ前駆体タンパク質から切断されて産生される約40アミノ酸からなる生理的ペプチド。アルツハイマー病では、このペプチドの過剰な蓄積がアルツハイマー病発症の引き金と考えられている。
【エクソソームについて】
様々な種類の細胞から分泌される直径50~150nm程度の細胞外小胞。特定の分子を包含し、細胞間で受け渡すキャリアーの役割を担う。神経細胞由来エクソソームは表面膜の糖脂質でAβを捕捉しグリア細胞に運搬することでAβ分解を促進させる。
【「こんにゃくセラミド」について】
群馬県をはじめとしたこんにゃく生産において、一般的なこんにゃくを作る過程で取り除かれてしまう「飛び粉」からダイセル社独自の技術によって抽出された「こんにゃくセラミド」は、新たな価値をもった素材として、単なる素材の原料化、その再利用ではなく付加価値の高い製品を生み出すアップサイクル素材として注目されています。
【「こんにゃくセラミド健美肌プロジェクト」について】
バリア機能が高い美しく健康的な肌に必要不可欠な成分「セラミド」の経口摂取について理解を深め、こんにゃくセラミドにより肌に関わる不調を軽減、日本全国の健康的な肌を維持するための啓発活動プロジェクト。
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