明治大学ガスハイドレート研究所 シュナイダー・グレンらの研究チーム 「ガスハイドレート中に生命の痕跡:ガスハイドレートの微小空隙中の微生物活動によるマイクロドロマイトの生成」を世界で初めて発見
明治大学研究・知財戦略機構ガスハイドレート研究所のシュナイダー・グレン研究推進員らのチームはこのたび、ガスハイドレートのコアを採取・分解し、分解後に残ったハイドレート融解水中に、「中心部分に暗黒有機物質と生命活動の痕跡を包含する微小なマイクロドロマイト」が残されていることを発見しました。
本研究成果は科学雑誌:『Nature Scientific Reports』へ2020年2月5日 (日本時間19:00)に公開されました。(DOI:10.1038/s41598-020-58723-y)
要旨
海底直下におけるガスハイドレートの急速な成長によりオイルや海水がハイドレート中の微小空隙にトラップされた。トラップされた微生物の主要なものはphylum Bacteriodetes である。塩水に満たされた微小空隙内での微生物活動によりマイクロドロマイトが形成された。ハイドレートが海底下深く埋没する過程で、微生物の餌となっていたオイルなどは分解して消滅した。このような微生物活動とマイクロドロマイトの形成は、日本海だけでなく、ガスハイドレートが分布する海域に広く認められる可能性がある。
背景
ガスハイドレート(メタンハイドレートとも呼ぶ)は水とメタンガスから成る固体物質であり、将来のエネルギー資源として期待される一方、地球温暖化への影響や海底地すべりなどネガティブなインパクトも懸念され、近年、世界的に調査研究が進んでいる。日本では30年ほど前から学術研究が始まり、多くの知見を集積しており、2001年からは南海トラフで、2013年からは日本海で国のプロジェクトとして集中的な探査と研究が始まった。明治大学ガスハイドレート研究所は国立研究開発法人 産業技術総合研究所からの再委託事業として日本海の表層型ハイドレートの探査と資源量評価を実施した。本研究成果に供したハイドレートは2015年の上越沖掘削調査で得られたものである。
マイクロドロマイトとは、微小なドロマイト結晶(30ミクロン程度)を指す。ドロマイトとはマグネシウムとカルシウムから成る炭酸塩鉱物 CaMg(CO3)2で地球上のさまざまな時代に大量に見られるものであるが、その生成に相応しい環境条件がどのように実現したかについては依然として謎が多い。今回の研究では、「ガスハイドレート中の微小空隙という特異な場所で微生物の働きによって生成した」とする新しいモデルを提起した。
研究者コメント:本研究について
メタンと水から成る氷のような固体物質 ガスハイドレート(あるいはメタンハイドレートとも言う)は地球環境変動やエネルギー資源に関わり、私たち人類の未来に密接に関与する。一方、生命の起源、初期生命の解明は地球科学、生命科学において第一級に重要な課題と考える。微生物活動は高温の温泉水、氷河、深海堆積物など様々な場所で見つかっているが、ガスハイドレート結晶中に高塩分微小空間が存在し、その中で微生物が代謝を繰り返していたとは研究チームの誰もが予想していなかった。私たちは新潟県沖上越堆積盆で、長い連続的なガスハイドレートのコアを採取・分解し、分解後に残ったハイドレート融解水中に、幸運にも、中心部分に暗黒有機物質と生命活動の痕跡を包含する微小なマイクロドロマイトが残されているのを発見した。その後の分析と研究により、ハイドレートの微小空隙中では微生物がオイルのような複雑な有機物質を代謝し、その活動の副産物として微小のマイクロドロマイトが形成され続けたことが明らかになった。生命活動の記録媒体であるハイドレート中のドロマイト結晶は、地球上の他の場所や他の惑星でも見つかる可能性がある。私たちは生命の起源と進化を研究する新たな手段を手にした。
今回の研究の核はハイドレートからのマイクロドロマイトの発見である。重要な成果をあげることができたのは、調査航海で厚いハイドレート層を掘削し回収したこと、船上で速やかに処理したこと、調査後、分解してとけ残り(残渣)を詳細に観察して、微小、微量のドロマイト結晶を回収したという一連の作業のチームワークによるところが大きい。ラボでの分析作業は、明治大学ガスハイドレート研究所のほか、千葉大学、東京大学の共同研究者との協業に負っているところが大きい。
研究者コメント:今後の期待
ハイドレート結晶中に塩水が取り込まれ、その中で微生物活動・代謝が起こり、ドロマイトが形成されたのは、今回の上越沖が世界初である。ハイドレートの生成環境や深度によってどのような違いがあるか知るため、永久凍土のハイドレート、深部の砂層型ハイドレートなどで同様の研究が必要である。マイクロドロマイトについては、同様な形状の結晶が地球史を通じて知られており、それらの成因論に一石を投じた。このような視点からのドロマイト研究が重要である。近年、火星大気は微量なメタンを含み、火星には水も存在した可能性が指摘されている。とすれば、上越沖ハイドレート中の微生物活動のような場が、火星に準備されていたかもしれない。マイクロドロマイト研究を通じて、火星の微生物活動、生命活動を探ることができるかもしれない。
論文情報
論文タイトル:
Evidence in the Japan Sea of microdolomite mineralization within gas hydrate microbiomes
著者:Glen Snyder, Ryo Matsumoto , Yohey Suzuki , Mariko Kouduka , Yoshihiro Kakizaki , Naizhong Zhang , Hitoshi Tomaru , Yuji Sano , Naoto Takahata , Kentaro Tanaka , Stephen Bowden , Takumi Imajo
掲載雑誌:Nature Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-020-58723-y
公開日:2020年2月5日 (This paper is under strict embargo until release at 19:00 Japan Time)
URL:http://www.nature.com/articles/s41598-020-58723-y
参考図
図1:海底から回収されたガスハイドレート:ほぼ連続的な長さ5mのほとんど純粋なガスハイドレートが上越沖の海鷹海脚から回収された。
図2:楕円体状のマイクロドロマイト結晶:マイクロドロマイトの電子顕微鏡写真。直径約30ミクロン。
図3:マイクロドロマイト結晶中の暗黒物質:光学顕微鏡で見た暗黒物質を持つマイクロドロマイト結晶。暗黒物質の他に、海水を取り込むマイクロドロマイトもある。
図4:微生物DNA:蛍光顕微鏡によるマイクロドロマイトの観察。明るい傾向は結晶中に微生物DNAが存在することを示す。このことは、マイクロドロマイト中にオイルのような有機物質が生成・保存されていたことを示唆する。
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