徳島大学の研究チームが宇宙環境でも使える ナノ周期構造を用いた光による磁場検出技術を開発 ~高ノイズ環境下でも動作可能な集積型磁場センサーの期待~
徳島大学大学院社会産業理工学研究部の高島 祐介助教、徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所の原口 雅宣副所長、および直井 美貴教授(併任)の研究チームは、ニッケル(Ni)で構成された光の波長以下の周期を持つナノ周期構造(以下、Niナノ周期構造(注1))と銀(Ag)薄膜の複合構造を用いて簡便かつ汎用性の高い磁場検出技術の開発に成功しました。
光を利用した磁場検出方法は、光が電気的に中性であるため電気ノイズの影響を受けにくく、電気配線なども不要といった特徴があり工場内や宇宙環境、放射線施設など高ノイズ下でも動作可能な磁場センサーとして期待されています。しかし、現在の光学式磁場センサーの多くは光ファイバーや光干渉計などを磁性流体と組み合わせたものであり、光の入射システムやパッケージが複雑になることから汎用性に課題がありました。
上記の課題解決に向け、本研究グループは、磁性体であるNiによるナノ周期構造とAg薄膜を利用し、汎用性の非常に高い光学式磁場センサーを開発しました。本構造に光が入射した際、Niナノ周期構造とAg薄膜表面に光の電界が集中する現象を利用することで、わずかなNiの磁化を光の反射率変化として検出できます。Niナノ周期構造が光の結合器の役割も果たすため、構造に光を垂直に入射させるだけの非常に簡便かつコンパクトなシステムによってmTオーダー磁場の検出が可能です。本手法によって非常に簡便かつ汎用性の高い光学式磁場検出が可能になり、宇宙資源開発や医療用磁場センサー等に役立つと期待されます。
<学術誌等への掲載状況>
本研究成果は、2020年11月9日19時(日本時間)に「Scientific Reports」で公開されました。
<研究背景>
磁場検出技術は、位置・角度検出素子やエンコーダーとして多様な電化製品に搭載されており、現代社会において欠くことのできない技術の一つです。高電気ノイズ環境下において動作可能な磁場センサーが開発できれば、宇宙環境や原子力施設などでも高S/N比(注2)な磁場検出が期待できます。しかし、現在広く普及しているホール素子などの半導体を用いた電気的な磁場センサーは、電気ノイズの影響を受けやすいといった課題がありました。一方、光を利用した磁場検出方法は、光が電気的に中性であるため電気ノイズの影響に強く、電気配線なども不要といった特徴がありますが、光学式磁場センサーの多くは光ファイバーや光干渉計などを磁性流体と組み合わせたものであり、光の入射システムやパッケージが複雑になることから汎用性に課題がありました。
<内容と成果>
上記の課題解決に向け、本研究グループは、磁性体であるNiによるナノ周期構造(注1)とAg薄膜を利用し(図1)、汎用性の非常に高い光学式磁場センサーを開発しました。本構造に光が入射した際、Niナノ周期構造とAg薄膜表面に光の電界が集中する現象を利用することで、わずかなNiの磁化を光の反射率変化として検出できます。さらにNiナノ周期構造が光の結合器の役割も果たすため、構造に光を垂直に入射させるだけの非常に簡便かつコンパクトなシステムによって6.4mTから39.5mTの磁場検出に成功しました。本手法によって非常に簡便かつ汎用性の高い光学式磁場検出が可能になり、宇宙資源開発用センサー等に役立つと期待されます。
<今後の展望>
本技術によって、高電気ノイズ環境下でも動作可能かつ汎用性に優れた磁場検出が可能になりました。高い電気ノイズ耐性と汎用性を生かし、今後は工場や放射能環境におけるロボットなどへの実装が期待されます。さらに本センサーは、非常にコンパクトであることから内視鏡先端等に容易に取り付けが可能であり、医療用デバイスへの展開についても期待されます。
<参考図>
・用語説明
(注1) ナノ周期構造
ナノ周期構造とはナノ(10-9メートル)オーダーの周期を持った構造物です。人間の目に見える光(可視光)の波長は380から780ナノメートル程度であり、ナノ周期構造は光の波長程度もしくは、それ以下の寸法を持っています。
(注2) S/N比
S/N比とは、センサー信号とノイズの比を表すものです。S/N比が高いほどノイズの影響が少ないことを表しており、より精密な測定が可能になります。
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号18K04238)および内閣府 地方大学・地域産業創生交付金事業「次世代“光”創出・応用による産業振興・若者雇用創出計画」の支援を受けて行われました。
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