英語が使えない原因は「考える」プロセスの欠如
実社会での英語の使い方が身につくCLIL教育~上智大学 池田教授
子どもたちが社会で実際に英語を使えるようになるには、どのような学び方をすればいいのでしょうか?
ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>は、日本の学校教育でも少しずつ取り入れられるようになってきた「CLIL(Content and Language Integrated Learning:内容言語統合型学習)」の理論について、池田真教授(上智大学)にオンライン取材を行いました。
CLILの理論はシンプルで実践的
CLILは、何かのテーマや教科(=内容。例えば算数、理科、社会など)と、「言語」(外国語)の学習・指導を組み合わせる教育アプローチ(日本CLIL教育学会, 2017)のことで、ヨーロッパで普及しています。
日本では、小中高の学習指導要領で英語教育とほかの教科(国語科や音楽科、図画工作科など)を結びつける工夫が求められています(文部科学省, 2017)。約10年間にわたり、CLILの日本での指導方法や教員養成、教材開発について研究してきた池田教授は、この方針はCLIL的な発想だと指摘。すでに小学5、6年生の検定教科書にもCLILの考え方が取り入れられてきています。
池田教授によれば、CLILは「Content」(科目の内容)、「Communication」(読み書きのスキル、単語や文法、発音などの言語知識)、「Cognition」(思考力)、「Culture」(多様な文化的背景の人たちとコラボレーションすること)という「4つのC」にまとめられます。そして「『4つのC』を教材づくりや授業の実践、評価にバランスよく取り入れると、すごく良い教育ができる」といいます。
CLILの内容について|4つのC(Image by Makoto Ikeda)
英語が使えない原因は「考える」プロセスの欠如
外国語の語彙を習得するには、インプットが不可欠であり、量と質の両方が重要だと言われています(Webb & Nation, 2017)。池田教授はCLIL授業と従来のPPP(※)授業を比較する研究を行った結果、CLIL授業のほうがインプットの質が高いと考えられるといいます。
※Presentation、Practice、Productionの略。使う単語や表現などの言語材料が提示され(Presentation)、次に覚えた単語や表現を練習し(Practice)、最後に自分で文をつくりペアやグループで会話する(Production)、という小学校や中学校でよく使われる英語教育方法。
例えばある小学校で行われたPPP授業(通常の英語授業)では、多くの単語を扱ってはいても、それは家の中にあるものなど、限られた単語だけ。すると先生もこの中に「何が見える?」「いくつある?」といった、答えが決まりきっている単純なものばかりになりました。一方、同じ小学校で行われた算数のCLIL授業では、単語数はそれほど多くないものの、「ほかに違うやり方(計算の仕方)はあるかな?」「どういうふうに8をばらせるかな?」(例:4+4、2+6)というように、生徒に考えさせる質問など、質問のバリエーションが多様でした。
「CLILの授業では、『いかに考えさせるか』を意識したインプットをたくさん与えます。『考えさせる内容』をインプットすることで、実際のコミュニケーションと同じような英語の使い方(思考の入ったアウトプット)が引き出せます」(池田教授)。そして、英語を学ぶときに、この「考える」プロセスが抜けていることが、日本人が英語を使えない原因の一つだと言います。
日常生活で使う英語も文法もCLILで学べる
教科を英語で学ぶとなると、これまでの教科英語で重視されてきた「日常的な英語」は身につくのかと気になるかもしれませんが、これも心配無用です。
「例えば、高校1年生の『科学と人間生活(Science and Human Life)』というCLIL授業では、教科的な英語は、conduction(伝導)、convection(対流)、radiation(輻射)といった、熱の伝わり方に関するものです。ただ、エアコンや灯油ストーブ、ホットカーペット、床暖房などがどの熱伝導の仕組みを使っているかを調べさせたり、それぞれの暖房器具の長所・短所を比較させたり、自分だったらどの部屋にどの暖房器具を置くか考えさせたりするので、そうなると日常的な単語や表現が出てきますよね」(池田教授)
文法についても、実生活と結びつければ、十分学習できると池田教授。現行の中学2年生用の検定教科書には、池田教授がつくった日本の歴史を英語で学ぶページがあるといい、これを使って、生徒は歴史上の人物が何をしたのかを動詞の過去形を使って表現。最後には、歴史上の人物を一人選んで調べて、いつ生まれていつ亡くなって、その人物の影響は何かということを説明する「談話」を考えてつくるといいます。過去形の規則活用・不規則活用も歴史の知識も、おのずと頭の中に入る。 「文法」を学ぶというよりは、内容を理解したり表現したりするために必要なものとして「文法」が自然に身についていくわけです。
池田教授は現状や将来を見据えて「小学生以降は何か一つでも英語で学ぶ、ということを強くおすすめします」とも。小さいころから英語で学んで考える体験をしておくことは、ただ英語にふれる機会を増やすだけではなく、グローバル社会で実際に英語を使う力につながるからです。これからは、高校や小・中学校でも、英語だけではなく、そのほかの教科やさまざまな内容を英語で教えられる教師も必要になってくるのではないでしょうか。
詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。
■実社会での英語の使い方が身につくCLIL教育~上智大学 池田教授インタビュー~(前編、後編)
■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所(World Family's Institute Of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所 長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)
設 立:2016年10 月URL :https://bilingualscience.com/
- カテゴリ:
- 調査・報告
- タグ:
- 教育 子育て・保育 その他ライフスタイル
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