オンライン授業づくりは「壊す」ことから始める
音声はYouTubeやTikTokなど動画も活用~早稲田大学 保崎教授インタビュー~
2020.12.02 09:30
新型コロナウイルス感染症の影響で注目度の高まるオンライン授業について、効果的なプログラムを継続していくためのポイントとは何でしょうか。ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>は、教育コミュニケーションや外国語教育を専門とする保崎 則雄教授(早稲田大学)にお話を伺い、考察しました。
保崎教授は2003年開設され、ほとんどの課程をeラーニングで行う日本初の通信教育課程である、早稲田大学のeスクールで、約18年間、メディアコミュニケーションの授業をオンライン、オンデマンドで行っています。
ポイント1:自己授業分析を徹底的にしてみる
オンラインも対面も原点は動きや表情など、身体などを駆使して教える、伝えるという活動を真剣にやることだと保崎教授。「自分の表情や動き、紹介や展開の仕方、指名や板書の仕方なども含めていろいろな角度から分析して、オンラインというメディア(媒体)でどうやるのかを考える。『これはやめよう』『これは変形させよう』といった自己授業分析なしにオンラインでやろうとしても、1、2回はできたとしても、1学期は続きません。先生もつらくなるし、生徒にとってもつまらない授業になってしまいます」
ポイント2:小学生は視覚刺激を中心に、音声はYouTubeやTikTokなど動画活用
対面式でやっていることをそのままオンライン式でやろうとして、失敗して苦しんでいるケースは多いそうです。
「オンラインでは、音声情報が伝わるまでのタイムラグがわずかにあります。大人は、情報のタイムラグを自分で補正できますが、小学校の中学年くらいまでは、その微妙なズレはマイナスに影響します。それから、子どもは自分の顔が画面に映っているとそちらを見てしまいます。だから、オンライン授業では、音を学ぶということは原則せずに、音声指導は短時間でも対面で行ったほうがいいと思います。オンライン授業では、音声ではなく視覚刺激(見てわかるもの)を中心に授業をするといいと思います」
では対面を行わない期間は、どう音声を学べばいいのでしょう。
「専用の教材や、TED talks、YouTubeやTikTokの動画を見て学ぶこともできるので、それを『見てごらん』と紹介して自分で練習させたほうが、よほど英語の音に敏感になるし楽しいと思います」
ポイント3:「英語教師」のイメージを壊してみる
また保崎教授は「英語教師」のイメージを壊すことも必要だといいます。
「発音なら、英語を教えているのだから、自分が発音を教えなければいけないと考えてしまうから先生が大変になりますし、そういう思い込みは却って学習者を不幸にするかもしれません。先生が一生懸命やるのはいいことですが、教育で肝心なことは、学習者である児童・生徒がどれだけ学んで身についているかです」
そして、先生が曝け出すこと、観察することが大切だといいます。
「身の回りにあるものすべてが教材になる。そこからストーリーが展開して、英語の単語や文章を教えることにつながっていきます。例えば、『この紙はどれくらいの重さだと思う?』と類推させるような質問をすると、子どもからいろいろな答えが返ってくる。『じゃあ、重さをはかってみよう』と測り方を考えてみる。『100枚で測って、その100分の1が1枚の重さだね』と算数が出てくる。すると、割り算で使う英語表現も出てくる。知識がどんどんつながっていくんです」。ことばは状況の中で生まれてくるものなので、英語の教員は、その状況をいかに伝えるか、ということも大切だといいます。
ポイント4:対面とオンラインでは授業デザインが違う
対面と違い、オンラインでは距離ができ、生徒がスマホをいじっていてもわかりません。だからこそ先生が20分も30分もレクチャーする、というやり方ではなく、先生のレクチャーは5~10分の動画にして、それをもとに学習者側が書き込んだり、話し合ったりしながら学びにつなげていく、という授業デザインが必要だといいます。
「小学校高学年以降だったら多少は書き込めると思いますから、書くことの楽しさも教えてあげることができます。書くことは認知負荷が高いので、強要する雰囲気になってしまうと学ぶこと自体が嫌になってしまいますが、ゲーム感覚にできるといいですね。
あるいは先生が画面のこっち側から消えたのに、反対側から出てきたら、子どもたちは『何だろう』と思いますし、“enter(入る)”、“entry(入ること、登場)”、“exit(出ていく、退場)” といった英単語も紹介できますよね。こういうところで、対面授業とデザインの違いが出ると思います」
ポイント5:「授業はこうでなければならない」を崩してみる
対面よりオンライン授業のほうがラフな(形式ばらない)雰囲気ですが、「それもあり」だと保崎教授。例えば小学生のオンライン授業なら、「いまから1分間はお水やお茶を飲む時間だよ」といった時間があると、授業のアクセントになったり、子どもが「オンライン授業って楽しい」と思えたりするかもしれません。
「授業はこうでなければいけない、ということを一回崩してみて、自分の授業を徹底的に分析してみると、いろいろな抜けとか特色が見えてきたり、『自分はこれが得意だな』とわかってきたりします。すると、オンラインでうまくできるかどうかも見えてきますよね」
オンライン授業は、いままでの授業を改善するきっかけにもなる
保崎教授の話からは、オンライン授業だからと、最新の機能を学ぶことや使いこなすことに力を注ぐのではなく、まずは、いままで対面で行ってきた授業デザイン、「英語教師」というイメージ、「授業はこうでなければならない」というイメージを一度壊してみて、それらを構成しているパーツが何なのか、どれが効果的で、どれがそうではないのかを整理して新たに組み立てる必要があるとわかります。
実際にオンライン授業を経験した場合、オンラインでうまくいったこと、やはり対面がいいもの、どちらがいいかわからないもの、この3つのことを記録しておくことが大切だと保崎教授はいいます。2020年は、オンライン授業と対面授業を行き来した記録をしっかり残すことができれば、日本の遠隔教育だけではなく、対面授業の改善にとっても、大きな転換期になるのではないでしょうか。
詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。
■オンライン授業づくりは、従来のものを「壊す」ことから始める~早稲田大学 保崎教授インタビュー~
■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所(World Family's Institute Of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所 長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)
設 立:2016年10 月