ゲームは英語学習のつまらないを「楽しい」に変える
~岐阜大学 瀧沢准教授インタビュー~
2021.01.20 12:30
教師も親も、子どもたちには楽しく英語を学んでほしいと願うもの。では英語の授業で「楽しい」と感じるのは、どんなときでしょうか。
ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、ゲームを活用した楽しい授業を数多く提案する瀧沢広人准教授(岐阜大学)にお話を聞き、子どもの英語学習におけるゲームの効果についてまとめました。
ゲームに必要な「3つの要素」と「5つの法則」
“Repeat after me.”と、教師のあとについて繰り返させたり、文中の単語を別のものに置き換えて言わせてみたり、疑問文などに変形させたりする「パターン・プラクティス(文型練習)」だけでは、「子ども同士が会話する」活動がなかなかうまれません。瀧沢准教授は小中学校で教えるうちに、まずは「楽しい」、その次に「力がつく」ことが大事だと思いながら授業をするようになっていったと言います。
では、ゲームを授業に取り入れる場合、どのような要素が含まれている必要があるのでしょうか。瀧沢准教授によれば、スポーツのように、やっている本人が「楽しい」上に、「競争相手」がいて、「得点」がつけられることが条件であり、この3つがあれば、いつもやっているドリル学習や反復練習も、必然的に楽しくなると言います。
また瀧沢准教授は、ゲームを楽しくするための5つの法則を見つけました。
(1)意外性をもたせる
(2)ジャンケンをさせる
(3)カードの奪い合いをさせる
(4)得点を与える、
(5)グループ対抗にする
(1)は淡々と流れてしまう授業の中で、「あれ?これから何か楽しいことが起こりそうだぞ」と思わせる仕掛け。「例えば、場所を表すカードを配るときに『いま配ったのは、みんながこの夏行くところだよ』と言う。すると、カードの中にはMr. Takizawa’s house(先生の家)とかToilet(トイレ)とかがあって、『えー!なんでー?』と笑いが起きる」と瀧沢准教授。センテンスをドリル的に単純に繰り返し練習するのではなくて、“Where will you go?”(どこに行くの?)─ “I will go to Mr. Takizawa’s house!”(先生の家に行く!)─“Me, too!”(私も!) というおもしろいやりとりをしながら練習することができると言います。
(2)はジャンケンできる楽しさに加え、おとなしい子でも平等に参加できるという良さがあり、「ゲームは英語学力とは関係なく、英語ができる子もできない子も対等に同じ土俵に立って活動できる」と言います。また(3)~(5)はゲームを盛り上げ継続的に意欲を掻き立てる秘訣。グループ対抗にすれば団結力も生まれます。
ゲームの効果:単調な「練習」が楽しくなる
文部科学省では「外国語で表現し伝え合うため、外国語やその背景にある文化を、社会や世界、他者との関わりに着目して捉え、コミュニケーションを行う目的や場面、状況等に応じて、情報を整理しながら考えなどを形成し、再構築すること」と方針を出しています。このためゲームは「遊び」と捉えられ以前より実施されなくなったと瀧沢准教授は指摘。一方で、「意味のある言語活動」であればゲームは英語を学びたいというモチベーションにつながるともいいます。
「なぜゲームをやるかというと、楽しくない活動を楽しくしたいからです」と瀧沢准教授。「一番大切なことは、『子どもがどうやって学んでいるか』という姿だといつも思っています。いくら学習指導要領に沿った授業をやっていても、子どもがつまらなそうな顔をしていたら意味がありません」
ゲームは「手続き的知識」の習得に有効
知識には、「宣言的知識」と呼ばれる、いわゆる学校で学ぶような知識と、言葉では説明できないけれどやり方がわかる「手続き的知識」があると瀧沢准教授。
「自転車に乗れるようになったりピアノが弾けるようになったりすることは、手続き的知識です。母語を身につけるときのことを考えると、ことばの学習も手続き的知識が多い。特に、聞けるようになること、話せるようになることは手続き的知識なので、繰り返しやりながら無意識に覚えていく方法としては、ゲームは効果的だと思います」
「つまらない」を「楽しい」に変えるゲーム
パターン・プラクティスは、機械的な暗記や反復練習になってしまうことによって、英語学習への興味を失わせる、コミュニケーション能力につながらない、などの問題点が指摘されてきました。しかし、外国語学習において有効である、という見解は依然として残っており、やり方の工夫やほかの指導方法との組み合わせによってコミュニケーション能力につなげようとする研究(平嶋, 2007; 江口・早瀬, 2018)や英語学習への動機づけにつなげようとする研究(井上, 2017)も行われています。
的確なゲームを取り入れることは、パターン・プラクティスの問題点を克服する方法の一つになり得るのではないでしょうか。今後は、パターン・プラクティスの意義を見直す動きとともに、その「練習」を工夫する方法として、ゲームの効果が再検討されていくかもしれません。
家庭では「遊び」を大切に~瀧沢准教授から親御さんへのアドバイス~
「家庭で英語を使ったゲームをするときには、『勉強させよう』という気持ちを入れずに、『親子で遊ぶ』ということを前面に出すとうまくいきます。例えば、我が家では、娘がまだ小さかったころ、家の中で娘を肩車したときは、“Go straight!” と言われたらまっすぐ歩いて、“Turn right!” と言われたら右を向いて、というふうに遊びました。子どもと遊ぶことが先にあって、そこに英語がくっついてくる。親子での遊びに英語をちょっとだけ入れてやってみる。そういう視点が大切だと思います。親は遊び心を大切にしたいものですね」
詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。
■ゲームは、英語学習の「つまらない」を「楽しい」に変える ~岐阜大学 瀧沢准教授インタビュー~
■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所(World Family's Institute Of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)
設 立:2016年10 月