小学校英語教育、ALTの効果を明らかにする重要性

新型コロナウイルス感染症の影響でALT不足を機に考察

 小学校英語教育ではALT(外国人指導助手)の配置拡大が続いていますが、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、海外で採用した人材の入国が遅れています。


 ワールド・ファミリー  バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区  所長:大井静雄>では、ALTが予定通り授業に参加できない、という問題を出発点に、小学校におけるALTの効果について考察しました。

 英語教育改革で需要が高まるALT

 東京オリンピック開催が決まった2013年ごろから英語教育の改革が本格的に進められてきました。小学校でのALT配置拡大はその一つであり(文部科学省, 2013)、ALTの人数は2013年度から2019年度にかけて2倍近くに増加しています。


 

 ALTは、本来、授業を担当する教員(学級担任など)の指導を補助する役割を担います。しかし小学校の場合、3人に1人以上のALTは、授業を自分一人に任されていると感じており、8割を超えるALTが授業の計画・準備の大部分を任されていることが報告されました(上智大学, 2017)。

 

 小学校英語教育では、文部科学省が想定している以上に、ALTが重要な役割を担っていると推測されます。

新型コロナウイルス感染拡大による影響

 需要が高まるなか、2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響により、海外で採用したALTの一斉入国が困難となりました。東京読売新聞(2020, December 3)によると、12月初旬時点で、JETプログラム(※1)で来日予定のALT約2100人が着任できていない状況です。

※1:「The Japan Exchange and Teaching Programme」。外国青年を招致して地方自治体等で任用し、外国語教育の充実と地域の国際交流の推進を図る事業「外国語指導助手(ALT)」、「国際交流員(CIR)」、「スポーツ国際交流員(SEA)」の3つの職種で来日。

 

 全国の小学校ALTのうち、JETプログラムによるALTが占める割合は約20%(文部科学省, 2019a)と、それほど多くありません。しかし、その割合は、地域によって大きな差があります。JETプログラムによる外国人人材の要望は、大都市よりも、小・中規模の都市や小さな町・村のほうが多く(CLAIR, 2015)、JETプログラムに頼っている地域ほど影響が大きいと思われます。

 

 例えば、神戸市。任期を終えたALTが帰国する一方で9月に入国予定だった新任ALTが来日できず、兵庫県内では2020年5月時点で計409人だったALTが12月には計294人に減りました。再任用や民間派遣で人数を確保しながらも、2021年1月中旬以降に順次来日予定のALT(※2)を100人以上待っている状況です(長谷部, 2020)。

※2:複数回のPCR検査、入国後2週間の隔離生活、オンライン研修などの感染防止対策が行われている(長谷部, 2020)

英語教育におけるALTの効果とは

 では英語の授業にALTがいない場合、子どもたちの英語学習にどのような変化が起きるのでしょうか。ALTから子どもたちがどのような影響を受けるか、ALTがいる場合といない場合で学習にどのような違いが出るかに関する貴重な研究の一つを紹介しましょう。

 

 この研究は、福岡市内の公立小学校85校で行われたもの(阿部, 2008)。対象は、小学3年生~6年生の約9300人で、学校外で英語を習っている子どもは除外。年間の英語授業時数とそのうちALTが参加する授業の割合によってグループ分けし、アンケート調査の回答が比較分析されました。結果、ALTがほぼ毎回来る学校の児童は、そうでない学校の児童よりも、コミュニケーションへの関心・意欲が高いことがわかりました。また、ALTが毎回来ない学校の場合、来る頻度が2回に1回程度なのか、3回に1回以下なのか、ということによる影響の違いは見られませんでした。つまり、ALTの参加頻度が少なくても工夫次第で良い効果を生むかもしれない、ということです。

 

 子どもたちの関心や意欲には、授業時数や学年など、ALT以外の要素が影響することも示されましたが、ALTの授業参加は「英語を使って話したい」という気持ちを育てる要因の一つになることがわかります。

 

 ALTの存在がどのように子どもたちの英語学習に影響するかは、まだ広く研究されていないため、はっきりと結論づけることはできません。しかし、ALTへの親近感が英語を学びたい、使いたいというモチベーションを高める可能性は十分あると言えます。

小学校英語教育におけるALTの効果を明らかにすることが重要

 文部科学省(2020)は、入国の延期によってALTが予定通り授業に参加できない場合は、ALTの配置計画や年間の授業計画を見直すほか、実演の替わりとなる動画の撮影、ビデオ通話などによる遠隔でのティームティーチングや交流、デジタル教材の活用、英語が堪能な地域人材の採用、海外生活・勤務経験者や海外留学生への協力依頼などの対応をするよう周知しています。

 

 しかしこうした対応と同時に、人材コストや地理的な困難(過疎地域やへき地など)など、さまざまな障壁を踏まえ、小学校英語教育におけるALTの効果を明らかにすることは重要だと考えられます。

 

 ALTの確保が難しい今だからこそ、ALTの良さとは何なのか、ALTにしかできないことは何なのか、学校現場の感覚だけではなく、実証的な研究を行なったうえで考えていく必要があるのではないでしょうか。

 

詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。

 

■小学校英語教育で必要となるALTに関する研究とは~新型コロナウイルスの影響からの考察~

https://bilingualscience.com/english/%e5%b0%8f%e5%ad%a6%e6%a0%a1%e8%8b%b1%e8%aa%9e%e6%95%99%e8%82%b2%e3%81%a7%e5%bf%85%e8%a6%81%e3%81%a8%e3%81%aa%e3%82%8balt%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e7%a0%94%e7%a9%b6%e3%81%a8%e3%81%af/

         

■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所(World  Family's Institute Of Bilingual Science)

事業内容:教育に関する研究機関

所   長:大井静雄(脳神経外科医・発達脳科学研究者)

設   立:2016年10 月              

URL:https://bilingualscience.com/  

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