大人の英語学習も暗記型から双方向型へ
周囲のものや人との関わりを通じて子どもと同じように学ぶ
子どもたちは、周囲のものや人との関わりを通じて、自然に母語を学習します。長い間、英語など外国語は「暗記型」で学習する傾向がありましたが、そのような社会的にインタラクティブ(双方向)な状況が外国語学習にとっても重要であることが明らかになってきています。
ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、社会的相互作用をベースにした新しい第二言語学習のアプローチを提案する論文に関する記事を公開しました。
該当論文は「The social brain of language: grounding second language learning in social interaction. (2020)(言語に関わる社会脳 ~社会的相互作用を基盤とする第二言語学習~)」(著者はPing Li, & Hyeonjeong Jeong、ジャーナル「Science of Learning 5(8): 1-9」)です。
この論文では以下の内容について述べています。
●社会的相互作用をベースにした新しい第二言語学習のアプローチを提案。年齢問わず、学習者は第二言語の能力向上が可能。その言語の話者と同じような能力習得の可能性がある。
●成人が第二言語の学習中に周囲のものや人との関わりを体験する際、子どもが言語を習得するときと同様の脳領域が活動。
●テクノロジー(例:VR技術や映像)の活用で、周囲との関わりを体験しながら第二言語にふれる環境をつくり、学習効果を高められる可能性がある。
SL2アプローチ(社会的第二言語学習法)とは?
第二言語(以下「L2」)学習のための、新しく包括的なアプローチ、「ソーシャルL2ラーニング(社会的第二言語学習)」(以下「SL2」)では、学習、認知、行動を結びつける社会的相互作用が重要です。
社会的相互作用とは、学習者と社会(周りのものや人)が相互に関わり合うことです。学習者は、周囲の環境からさまざまな情報を受け取り、それらの情報を利用・統合しながら学習していきます。
L2学習に関わる神経ネットワークについての研究の大半は、言語に関与する脳領域や、記憶に関与する脳領域に焦点を当てており、これらは言語発達のために重要です。しかし、第一言語(以下「L1」)習得においても、L2習得においても、脳の右半球が従来考えられていたよりも重要な役割を果たしていることが明らかになってきています。
今回紹介する論文では、このSL2アプローチで第二言語を学習しているときの大人の脳活動が調べられました。調査対象の脳領域には、言語・記憶に関する領域のほか、社会的相互作用との関連性が高い領域も含まれています。
すなわち、視空間学習に関与する(Verga and Kotz 2019)領域である、縁上回(えんじょうかい)(SMG)、角回 (かくかい)(AG)(Jeong et al. 2010; Legault, Fang, et al. 2019)、右舌状回(みぎ・ぜつじょうかい)(LG)、右尾状核(みぎ・びじょうかく)(CN)です。
※図はLi and Jeong 2020を出典とし、同論文で提唱されているSL2アプローチに関与する脳領域を大まかに示した図(本記事の著者Paul Jacobsによる手描き図)
※左は脳の右半球。Social Learning(社会的学習)に関わる脳領域を示している。IFG:下前頭回(かぜんとうかい)、SMG:縁上回 (えんじょうかい)、AG:角回 (かくかい)、LG:舌状回(ぜつじょうかい)
※右は脳の左半球。Lexical-Semantic Processing(語彙の意味処理)に関わる脳領域を示している。IFG:下前頭回 (かぜんとうかい)、MTG:中側頭回 (ちゅうそくとうかい)
大人の言語学習には社会的な関わりが欠けている
子どもが周囲との関わりを頼りにしてL1を学習していることは明らかであり(Kuhl 2007)、L2学習においてもそのような社会的相互作用が重要であることがより明らかになってきています(Lytle, Garcia-Sierra, and Kuhl 2018)。
子どもは家庭を中心とした自然な環境でL1を学んでおり、例えば、コップから飲みものを飲むときに「コップ」という音声を聞くことは、子どもにとって、その単語とそれが表す対象物を結びつけるのに役立ちます。このプロセスには、脳内の言語ネットワークと感覚運動ネットワークの両方が関与します。母語は、これらの神経ネットワークが相互に作用することによって発達するのです。
一方大人が言語を学習するときは、その言語が使われる文脈から切り離された状況での文法学習が中心になっていることが一般的です。この学習では、L2の語彙の意味を思い出すときにL1に依存(寄生)してしまう、という状態を生じさせます。論文の著者らはこれを「parasitic lexical representation(寄生的な語彙表象)」と呼んでいます。
「寄生的な語彙表象」が生じるもう一つの原因は、L2を習得する際に社会的文脈と感情の結びつきが弱いことにあります。言語は、意味が符号化されたものであり、ある出来事のエピソード記憶と深く結びつくものです。しかし、自分で単語を学習しているときや教室で授業を受けている場合、その単語が使われる文脈や関連する出来事・感情とのつながりが弱いため、まずはL1の単語を思い出して、その訳語としてL2の単語を思い出す、という結果になるのです。
SL2アプローチはどのように大人の「寄生的な語彙表象」を回避するのか?
論文の著者であるLi & Jeongは、大人の言語学習において語彙と意味の結びつきが弱いという問題の克服方法について調査した先行研究に基づき、実践的な提案を行っています。目標言語(学習対象の言語)での直接的な社会的相互作用が非常に限られている場合(例:英語が外国語である日本のような「EFL:English as a Foreign Language」環境)には、
1)映像で社会的関わりを体験しながら学ぶ
2)ジェスチャーで身体を動かしながら学ぶ
3)VR(バーチャル・リアリティ)映像で身体を動かしながら学ぶ
といった提案がなされています。
結論:社会的相互作用を通じてL2を学習する方法とその利点
著者らは、結論として、社会的相互作用を通じてL2を学習する方法には、次のような利点があると考察。
a) L1を習得するときの脳の働きとより密接に関連している。
b)学習内容がより長く記憶に残る。
c)L1に直訳せず学ぶことでL1の干渉を受けにくくなる。
この学習方法は、あらゆる年齢層の学習者がL2能力を高め、あるいはL2話者と同じような能力を習得するために役立つ可能性があります(Zhang et al. 2009)。
詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。
■周囲のものや人との関わりを通じて子どもと同じように学ぶ
■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所(World Family's Institute Of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所 長:大井静雄(脳神経外科医・発達脳科学研究者)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7 パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10 月
記事掲載数No.1!「@Press(アットプレス)」は2001年に開設されたプレスリリース配信サービスです。専任スタッフのサポート&充実したSNS拡散機能により、効果的な情報発信をサポートします。(運営:ソーシャルワイヤー株式会社)