IEEEメンバーが提言を発表  Industry 5.0によるワークプレイスとワークスペースの変化

IEEE(アイ・トリプルイー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、さまざまな提言やイベントなどを通じ科学技術の進化へ貢献しています。今回、注目される「Industry 5.0によるワークプレイスとワークスペースの変化」に関して、IEEEメンバーである、Lee Coulter(リー・コールター)の提言を発表いたします。


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がきっかけとなり、多くの業界がテクノロジー利用の見直しと促進を迫られ、多くの企業が営業を続けながら従業員の安全を確保するためにリモートワークへ移行しました。これにより、オフィスはもはや重要ではなくなり、社会はIndustry 4.0から新たな段階であるIndustry 5.0へ進むのだろうか、と多くの人が考えました。


IEEEインテリジェント・プロセス・オートメーション(IPA)ワーキンググループの議長を務めるLee Coulter(リー・コールター)は、テクノロジーと規格への影響を把握するために、このトレンドを注視しています。現在のIndustry 4.0におけるソフトウェアベースのインテリジェント・プロセス・オートメーション(SBIPA)テクノロジーの状況を観察し、インテリジェント・プロセス・オートメーション規格グループと協力して、このテクノロジーの導入、展開、管理に関する明確で一貫性のある客観的なガイダンスとなる具体的な規格の作成に取り組んでいます。

Lee Coulterは、ある記事で次のように述べています。「SBIPAには、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)、人工知能(AI)などの各種プラットフォーム分野、コグニティブ・コンピューティング、オートノミクス、機械学習など、インテリジェント・オートメーションのすべてが含まれています。これらの関連テクノロジーはすべて、企業や政府のパフォーマンスの向上とコスト削減を後押しするために設計されています。」

今回、Industry 5.0がワークプレイスにもたらす変化と、その変化を引き起こすテクノロジーについて、Lee Coulterの意見を聞きました。



■Industry 5.0とIndustry 4.0には、どのような違いがありますか?


Lee Coulter:「Industry X.0」という表現は、一般的に、技術革新や技術開発によって人類が大きな進歩を遂げた時代を指しています。私たちがどの産業時代にいるのかについて歴史を振り返って確認すると、産業革命がIndustry 2.0、コンピューター・情報革命がIndustry 3.0、そして今のオートメーション時代がIndustry 4.0です。

現在、私たちは携帯デバイスで大規模なクラウドコンピューティング機能を利用し、機械学習によるビッグデータ分析を行ってヒューマンクラウドでは生み出すことのできない知見を得ています。4Gや5Gでクラウドインフラストラクチャに接続し、機械学習モデルで分析を行い、その結果が魔法のような精度でタイムリーにユーザーへ提供されているのです。例えば、地図アプリには、30分後や60分後に出発したら自宅に着くまでどれくらい時間がかかるかを示したり、交通事故が起こったときに別のルートを提示したりする機能があります。この機能こそ、テクノロジーコンバージェンス(技術の集束)の例であり、Industry 5.0の初期の例です。

Industry 4.0とIndustry 5.0の境界は特定のテクノロジー領域や機能領域で生まれ、それを見極めるには慎重な評価を行う必要があります。現代の加速度的な進歩の特徴は、物事が非常に早く変化することです。いわゆるIndustry 4.0からIndustry 5.0への移行も1~2年ほどの短期間で起こります。そのため、未来から過去を振り返って分析しなければ、ある産業時代から次の産業時代へいつ移行したのかを明言することはできません。つまり、Industry 5.0とは、Industry 4.0の先進的なテクノロジーを組み合わせ、人間にとって使いやすいデジタル支援機能を生み出すことを指します。



■COVID-19によってテクノロジーの進歩が加速した今、未来のワークプレイスやオフィスはどのようになると思いますか?「Industry 5.0」に分類されると思われるテクノロジーを具体的にあげていただけますか?


Lee Coulter:まず、ワークプレイスとワークスペースを区別しましょう。最近まで、この2つの言葉は同じ意味で使われていました。そして、誰もが「出勤」していました。しかし、この2つはおよそ40年の時間をかけて徐々に区別されるようになり、他の多くの物事と同じように、今ではその区別が加速度的に進んでいます。電話通信とテレコミュニケーションの着実な進歩に日進月歩のテレプレゼンス機能が加わったことで、ワークプレイスとワークスペースが明確に区別されました。感染症の流行に対応するなかで、10億もの人々のワークプレイスを即座に変え、仕事をするための十分な機能性を備えたデジタルワークスペースを生み出す方法に関心が集まりました。また、これがきっかけとなり、たくさんの関連する破壊的テクノロジーが普及する準備が整いました。


5年前まで、高速のマルチポイント・ビデオコミュニケーションは資金力のある巨大企業のためのものでした。今では、ほとんどの先進国でほぼ無料で利用できます。これに、比較的生まれたばかりのホログラフィック・ディスプレイ・テクノロジー、仮想現実、拡張現実、すでに第2世代まで進んでいる複合現実ゴーグルシステムを加え、世界中で普及しつつある超高速の5Gシステムですべてを結びつけます。これで、従来のオフィスに代わるデジタルオフィスに「出勤」できるようになります。そんなことが今まさに現実になりつつあるのです。

これは、情報を扱う仕事以外にも広がります。今、一部は現場、一部はリモートという働き方が浸透しています。企業は、ある程度ネットワークに接続できればほぼどこでも(5Gはすぐにどこでも利用できるようになります)、この新しい働き方に対応できるワークスペースをつくり、従業員を共存させることができます。このように、テクノロジーのベクトルが収束することで、ワークプレイスとワークスペースを完全に区別できるようになりつつあります。私たちは、本物のリモートワーク機能によってはじめの一歩を踏み出そうとしているのです。



■ワークプレイスで利用されているテクノロジーには、どのようなリスクやデメリットがありますか?


Lee Coulter:先日、仕事の未来についての討論会に参加したとき、2021年に企業が苦しめられる最大の課題は何かと司会者に聞かれました。私の一番の答えは文化で、その次がITとITセキュリティです。



■それらのリスクやデメリットを克服するには、どうすればよいですか?


Lee Coulter:ITとデータセキュリティについては、新しいリスク評価を行うことをおすすめします。どんなITグループも、年間の管理・監査計画の一環としてこれを行う必要があります。新しいリスク評価を依頼し、新たなアプリケーションが導入される場所や、移動されて新たな場所に置かれるデータに注意を払いましょう。新しいクラウドサービスを利用している場合は、契約書を見直し、セキュリティ証明書を確認します。最新のコピーを要求し、重要な新規ベンダーと既存ベンダーの両方と話し合いましょう。ためらうことなく、すべての最新の証明書とテスト結果を要求してください。また、信頼できる管理コンサルタントに相談し、他の企業でどのような問題が生じているかを把握します。セキュリティ管理の重要な部分の多くを外部委託している場合は、月1回以上の定例会議を行い、トレンドと自社固有の取り組みについて確認します。

今は、ワークスペースが発展する様子を目の当たりにしている面白い時代だと思います。 このような変化は、人と人の関わり方に大きな影響を与え、企業理念の価値観に従うことに対する新たな圧力を生み出します。そんな変化がまさに今起こっており、今後数年でさらに進みます。人々がこの変化を乗り越えられるようサポートすることが、なすべき重要な仕事の一つになっています。優れたテクノロジーが組み合わさり、新しいシステムや新しいデータが生まれます。私たちはIndustry 4.0に腰を据えていますが、Industry 5.0がすぐそこまで迫っているのです。



■IEEEメンバー 慶応義塾大学 西 宏章教授のコメント


勤務環境と勤務形態、ともにIndustry 5.0への移行と新型コロナショックにより大きく変革しようとしています。あらゆる業種の製造現場すべてがIndustry 5.0に移行するわけではありませんが、新たな形態として広く普及するでしょう。

ワークプレイスからワークスペースへのシフトは、新型コロナの終息とともにある程度元に戻りますが、完全に戻ることはないでしょう。

この変革において、テクノロジーリプレースではなく、これまでのレガシーな技術に加えてAIなどの新しい技術を取り入れるテクノロジーコンバージェンスから始めよう。そして、デジタルによる人間支援を目指そうというLee Coulter氏の意見は、変革の中で方向を見失いがちになる我々に対し、ライトハウスとなりえるでしょう。


同氏は、AIや5G、ビッグデータ、VR、ARさらにはデジタルオフィスなど様々な革新的技術についても触れています。それらは新たなセキュリティの議論を生み出しますが、これに対しても継続的なリスク評価が必要と説いています。

米中対立という新たな世界構造に進むなど、あらゆるモノやコトがダイナミックに変化する現代にあります。その中で氏が示したテクノロジーコンバージェンスとリスク評価は重要な鍵となるでしょう。



■IEEEについて


IEEEは、世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門会の会員を擁する非営利団体で、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、諸活動を通じて世界中の工学やその他専門技術職のための信用性の高い「声」として役立っています。

IEEEは、電機・電子工学およびコンピューターサイエンス分野における世界の文献の30%を出版、2,000以上の現行標準を策定し、年間1,800を超える国際会議を開催しています。


詳しくは http://www.ieee.org をご覧ください。

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