たった一つの表でわかる 「日本に財政問題はない」 髙橋 洋一 著『99%の日本人がわかっていない新・国債の真実』より
金融市場では、日本国債ほど安牌と見られている商品も珍しいといえる。
だから国債そのものの金利も低いし、破綻時に損失保証するCDSの保証料率も低い。すべてが「日本国債は安全」ということを示している。
すなわち、日本の財政破綻のリスクは今のところ、ほとんどないと見ていいということだ。少なくともそれが、金融市場の見方である。
いっておくが、市場ほど明瞭に、世の中の実相を映し出すものはない。
都合のいいことも悪いことも、すべて明らかにしてしまう。
そういう意味では非情ともいえるが、うがった見方や忖度(そんたく)など働く余地もない、正直な世界なのである。その市場が、日本の財政破綻リスクは低いと見ているわけだ。 そして、そういう見方は、後で述べる日本政府の統合政府(日銀などいわば連結子会社ともいえるものを含めたもの)のバランスシートで見れば正当化できる。
それなのに、
すなわち、日本の財政破綻のリスクは今のところ、ほとんどないと見ていいということだ。少なくともそれが、金融市場の見方である。
いっておくが、市場ほど明瞭に、世の中の実相を映し出すものはない。
都合のいいことも悪いことも、すべて明らかにしてしまう。
そういう意味では非情ともいえるが、うがった見方や忖度(そんたく)など働く余地もない、正直な世界なのである。その市場が、日本の財政破綻リスクは低いと見ているわけだ。 そして、そういう見方は、後で述べる日本政府の統合政府(日銀などいわば連結子会社ともいえるものを含めたもの)のバランスシートで見れば正当化できる。
それなのに、
単なる官僚の都合で「財政難だから増税」と繰り返す財務省、その肩をもつ(というか、理解できないから財務省のいうことを鵜呑みにする)マスコミのせいで、根拠のない財政破綻論が根強く流布されている。
これは受け取る側のリテラシーが問われていると考えたほうがいい。
流言飛語に惑わされるのは、危機感とは呼べない。単なる雰囲気で怖がっているだけだ。
金融市場は、日本の財政破綻のリスクはきわめて低いと見ている。
市場は世の中の実相を非情なまでに映し出すといったが、今度は実相そのものに目を向けてみよう。
日本の財政は、実際のところ、どうなっているのか。じつはたった一つの表――「バランスシート」で、国の財政状態がわかるのだ。
バランスシートとは「貸借対照表」、つまり組織の「資産」と「負債」のバランスを1枚の表にまとめたものだ。要するに1枚の表で財務状態がわかる、非常に便利で重要な書類なのである。
企業であれば、バランスシートは必ず作らなくてはならない。
国の財政状態も、バランスシートを見れば一発でわかる。
流言飛語に惑わされるのは、危機感とは呼べない。単なる雰囲気で怖がっているだけだ。
金融市場は、日本の財政破綻のリスクはきわめて低いと見ている。
市場は世の中の実相を非情なまでに映し出すといったが、今度は実相そのものに目を向けてみよう。
日本の財政は、実際のところ、どうなっているのか。じつはたった一つの表――「バランスシート」で、国の財政状態がわかるのだ。
バランスシートとは「貸借対照表」、つまり組織の「資産」と「負債」のバランスを1枚の表にまとめたものだ。要するに1枚の表で財務状態がわかる、非常に便利で重要な書類なのである。
企業であれば、バランスシートは必ず作らなくてはならない。
国の財政状態も、バランスシートを見れば一発でわかる。
ちなみに20年ほど前の1995年ごろ、最初に政府のバランスシートを作ったのは私だ。
信じがたいことに、それまで大蔵省はバランスシートで財政状態を把握してこなかったのだ。私が作った後も10年ぐらいは公表せずお蔵入りにされたが、小泉政権になってようやく公開された。
さて、政府と中央銀行のバランスシートを合体させた「統合政府バランスシート」を見れば、日本に財政問題がないことは明らかだ。
にもかかわらず「財政問題がある」と主張する人は、いったい何を根拠にしているのだろうか。
会計学では、負債の総額を「グロス」、負債から資産を引いた額を「ネット」という。このうちどちらに着目するかが、ポイントだ。
ひとことでいえば、財政問題があるといっている人たちは、政府のバランスシートの右側(負債)だけ、つまりグロス債務またはグロス債務残高の対GDP比を見ているのだ。
政府のグロス債務残高は1000兆円、これはGDPの2倍である。だから「日本は大変な財政問題を抱えている」「財政再建が必要だ」「そのためには増税と歳出カットだ」と主張しているわけである。
これほどの財政難のなかで借金がさらに増えては困る(国債をたくさん発行しては困る)から、増税で税収を増やす一方、政府の支出を減らそう、もっと倹約しようというわけだ。
これの何がおかしいか。
さて、政府と中央銀行のバランスシートを合体させた「統合政府バランスシート」を見れば、日本に財政問題がないことは明らかだ。
にもかかわらず「財政問題がある」と主張する人は、いったい何を根拠にしているのだろうか。
会計学では、負債の総額を「グロス」、負債から資産を引いた額を「ネット」という。このうちどちらに着目するかが、ポイントだ。
ひとことでいえば、財政問題があるといっている人たちは、政府のバランスシートの右側(負債)だけ、つまりグロス債務またはグロス債務残高の対GDP比を見ているのだ。
政府のグロス債務残高は1000兆円、これはGDPの2倍である。だから「日本は大変な財政問題を抱えている」「財政再建が必要だ」「そのためには増税と歳出カットだ」と主張しているわけである。
これほどの財政難のなかで借金がさらに増えては困る(国債をたくさん発行しては困る)から、増税で税収を増やす一方、政府の支出を減らそう、もっと倹約しようというわけだ。
これの何がおかしいか。
彼らは、「借金」だけを見て騒いでいるのである。 大事なのはグロスではなくネット、つまり負債の総額ではなく負債と資産の差し引き額だ。バランスシートの右側の数字から左側の数字を引いてみると、本当の財政状態が見えてくるのである。
たしかに政府の債務残高1000兆円はGDPの2倍だ。
ただ一方で、政府には豊富な金融資産がある。さらに政府の「子会社」である日銀の負債と資産を合体させれば、政府の負債は相殺されてしまう。
したがって、増税の必要も歳出カットの必要もない。じつに単純な話である。
伝統的な財政の考え方では、政府のグロス債務、またはグロス債務残高の対GDP比に着目する。バランスシートの右側だけを見て、借金がどれだけあるか、その借金がGDPに占める割合はどれくらいか、ということだ。
ただし、借金だけを見るのは一面的過ぎて、本当の財政状態はつかめない。それを、まずバランスシートの右側と左側の両方を見よう、しかも日銀のバランスシートも合体させて見よう、というのが「統合政府バランスシート」だ。
これは私が勝手にいっていることではない。
ただ一方で、政府には豊富な金融資産がある。さらに政府の「子会社」である日銀の負債と資産を合体させれば、政府の負債は相殺されてしまう。
したがって、増税の必要も歳出カットの必要もない。じつに単純な話である。
伝統的な財政の考え方では、政府のグロス債務、またはグロス債務残高の対GDP比に着目する。バランスシートの右側だけを見て、借金がどれだけあるか、その借金がGDPに占める割合はどれくらいか、ということだ。
ただし、借金だけを見るのは一面的過ぎて、本当の財政状態はつかめない。それを、まずバランスシートの右側と左側の両方を見よう、しかも日銀のバランスシートも合体させて見よう、というのが「統合政府バランスシート」だ。
これは私が勝手にいっていることではない。
一国の財務状態を「統合政府バランスシート」で考えるのは、海外では当たり前なのである。何も私が無理筋を通そうとしているのではなく、しごくまっとうな見方だと思ってほしい。
「政府の借金が増えているから問題」という偏った批判がある一方で、「日銀が大損をするから問題」という偏った批判もある。
これも見当違いな批判であることを、説明しておこう。
まず「日銀が大損をする」というのは、次のようなことだ。
日銀が、民間金融機関から高値で大量に国債を買っているが、景気がよくなれば国債価格は下落する。そこで金融緩和策から金融引き締め策へと転じれば、日銀には逆ザヤとなって巨額の損失が出てしまう。
要するに、日銀が高値で買った国債は、いずれ価格が下落するだろうから、大きな評価損が生じる(下がった差額分、損をする)、といいたいわけだ。
じつは15年ほどまえから、こうした議論はあった。
元アメリカ財務長官のローレンス・サマーズ氏や、FRB前議長のベン・バーナンキ氏が来日したときにも、日銀関係者などから「日銀の評価損は問題ではないか?」という質問が出ている。
それに対するサマーズ氏の答えはひとこと、「だから何?」だった。もっともな答えだと膝を打ったが、素人には何のことやらわからないだろう。
もう少し親切に説明するなら、
これも見当違いな批判であることを、説明しておこう。
まず「日銀が大損をする」というのは、次のようなことだ。
日銀が、民間金融機関から高値で大量に国債を買っているが、景気がよくなれば国債価格は下落する。そこで金融緩和策から金融引き締め策へと転じれば、日銀には逆ザヤとなって巨額の損失が出てしまう。
要するに、日銀が高値で買った国債は、いずれ価格が下落するだろうから、大きな評価損が生じる(下がった差額分、損をする)、といいたいわけだ。
じつは15年ほどまえから、こうした議論はあった。
元アメリカ財務長官のローレンス・サマーズ氏や、FRB前議長のベン・バーナンキ氏が来日したときにも、日銀関係者などから「日銀の評価損は問題ではないか?」という質問が出ている。
それに対するサマーズ氏の答えはひとこと、「だから何?」だった。もっともな答えだと膝を打ったが、素人には何のことやらわからないだろう。
もう少し親切に説明するなら、
バーナンキ氏の「日銀資産の評価損は、政府負債の評価益だから問題ない。もし気にするなら、政府と日銀の間で損失補填契約を結べばいい」という答えがわかりやすい。
サマーズ氏はちょっと意地悪だったかもしれないが、バーナンキ氏は誠実で親切丁寧な経済学者らしく、ちゃんと答えてくれたのだ。
この二人に共通しているのも、「統合政府バランスシート」で財政を見ている、という点だ。
日銀と政府は、子会社と親会社であるかのように一体である。そして資産と負債は背中合わせである。
したがって、日銀の「資産」である国債の「評価損」は、政府の「負債」である国債の「評価益」となるため、政府と日銀のバランスシートを合算すれば問題ない。
サマーズ氏もバーナンキ氏も、こういうことがいいたかったのだ。彼らにとっては常識中の常識だったから、サマーズ氏に至っては「だから何?」という答えになったに過ぎない。
「統合政府バランスシート」は、それくらいスタンダードな考え方なのである。
政府と日銀を一体と考えれば、どちらかの「資産」は、もう一方の「負債」であり、どちらかの「損」は、もう一方の「益」になる。
これは騙しのロジックでも何でもなく、もっとも財政の本当の姿がわかる見方であることを、ここで再度強調しておこう。
この二人に共通しているのも、「統合政府バランスシート」で財政を見ている、という点だ。
日銀と政府は、子会社と親会社であるかのように一体である。そして資産と負債は背中合わせである。
したがって、日銀の「資産」である国債の「評価損」は、政府の「負債」である国債の「評価益」となるため、政府と日銀のバランスシートを合算すれば問題ない。
サマーズ氏もバーナンキ氏も、こういうことがいいたかったのだ。彼らにとっては常識中の常識だったから、サマーズ氏に至っては「だから何?」という答えになったに過ぎない。
「統合政府バランスシート」は、それくらいスタンダードな考え方なのである。
政府と日銀を一体と考えれば、どちらかの「資産」は、もう一方の「負債」であり、どちらかの「損」は、もう一方の「益」になる。
これは騙しのロジックでも何でもなく、もっとも財政の本当の姿がわかる見方であることを、ここで再度強調しておこう。
【著者プロフィール】髙橋 洋一
髙橋 洋一(たかはし・よういち)
1955 年東京都生まれ。都立小石川高校(現・都立小石川中等教育学校)を経て、東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980 年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)等を歴任。小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍し、「霞が関埋蔵金」の公表や「ふるさと納税」「ねんきん定期便」など数々の政策提案・実現をしてきた。また、戦後の日本で経済の最重要問題ともいえる、バブル崩壊後の「不良債権処理」の陣頭指揮をとり、不良債権償却の「大魔王」のあだ名を頂戴した。2008 年退官。その後内閣官房参与などもつとめ、現在、嘉悦大学ビジネス創造学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。ユーチューバーとしても活躍する。
第17回山本七平賞を受賞した『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)、『バカな経済論』『バカな外交論』『【図解】ピケティ入門』『【図解】地政学入門』『【図解】経済学入門』『【明解】 会計学入門』『【図解】 統計学超入門』『外交戦』『【明解】経済理論入門』『【明解】政治学入門』(以上、あさ出版)など、ベスト・ロングセラー多数。
1955 年東京都生まれ。都立小石川高校(現・都立小石川中等教育学校)を経て、東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980 年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)等を歴任。小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍し、「霞が関埋蔵金」の公表や「ふるさと納税」「ねんきん定期便」など数々の政策提案・実現をしてきた。また、戦後の日本で経済の最重要問題ともいえる、バブル崩壊後の「不良債権処理」の陣頭指揮をとり、不良債権償却の「大魔王」のあだ名を頂戴した。2008 年退官。その後内閣官房参与などもつとめ、現在、嘉悦大学ビジネス創造学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。ユーチューバーとしても活躍する。
第17回山本七平賞を受賞した『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)、『バカな経済論』『バカな外交論』『【図解】ピケティ入門』『【図解】地政学入門』『【図解】経済学入門』『【明解】 会計学入門』『【図解】 統計学超入門』『外交戦』『【明解】経済理論入門』『【明解】政治学入門』(以上、あさ出版)など、ベスト・ロングセラー多数。
【書籍情報】『99%の日本人がわかっていない新・国債の真実』
書籍名:99%の日本人がわかっていない新・国債の真実
刊行日 :2021年9月9日(木) 価格:1,540円(10%税込)
ページ数:199ページ 著者名:髙橋 洋一
ISBN :978-4-86667-316-5
http://www.asa21.com/book/b589171.html
刊行日 :2021年9月9日(木) 価格:1,540円(10%税込)
ページ数:199ページ 著者名:髙橋 洋一
ISBN :978-4-86667-316-5
http://www.asa21.com/book/b589171.html
【目次】
1章 まず「これ」を知らなくては始まらない
―― そもそも「国債」って何だろう?
2章 世にはびこる国債のエセ知識
―― その思い込みが危ない
3章 国債から見えてくる日本経済「本当の姿」
―― 「バカな経済論」に惑わされないために
4章 知っているようで知らない「国債」と「税」の話
―― 結局、何をどうすれば経済は上向くのか
5章 「国債」がわかれば、「投資」もわかる
―― 銀行に預けるくらいなら国債を買え
1章 まず「これ」を知らなくては始まらない
―― そもそも「国債」って何だろう?
2章 世にはびこる国債のエセ知識
―― その思い込みが危ない
3章 国債から見えてくる日本経済「本当の姿」
―― 「バカな経済論」に惑わされないために
4章 知っているようで知らない「国債」と「税」の話
―― 結局、何をどうすれば経済は上向くのか
5章 「国債」がわかれば、「投資」もわかる
―― 銀行に預けるくらいなら国債を買え
- カテゴリ:
- サービス
- ジャンル:
- その他エンタメ その他IT・インターネット 経済(国内)
取材依頼・商品に対するお問い合わせに関しては
プレスリリース内にございます企業・団体に直接ご連絡ください。
記事掲載数No.1!「@Press(アットプレス)」は2001年に開設されたプレスリリース配信サービスです。専任スタッフのサポート&充実したSNS拡散機能により、効果的な情報発信をサポートします。(運営:ソーシャルワイヤー株式会社)