効果的な英語指導のカギは学級担任の「言語活動」 「小学校文化」に根づいた外国語教育が日本の強み
文部科学省 初等中等教育局 視学官 直山 木綿子氏インタビュー
2022.03.29 18:00
小学校の英語教育では、現場の先生や保護者の方々の間に数多くの疑問や不安があるようです。そこで今回、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、文部科学省にて小学校外国語教育の推進に携わってこられた直山視学官にお話を伺い、小学校外国語教育の改革意義や、日本の強み等についての記事を公式サイトにて公開しました。
<インタビューサマリー>
●高校卒業時の英語レベルの差が広がっているのは課題だが、自信をもって英語を使うためにも、中学生のときにきちんと英語力をつけることが重要
●小学校の先生は知識やアイデアの引き出しが豊富で、「小学校文化」に根づいた授業づくりができるのが、日本の小学校英語教育のよさであり、強みといえる
●効果的に英語の「言語活動」を行うには、「コミュニケーションを行う目的や場面、状況等を授業の中で明確に設定すること
直山視学官は、小学校時代に英語を始めた当初、「英語ができなければ好きなことができない」という経験をしたそうですが、徐々に英語のルールや意味が理解できるようになり、周りにほめられることで「英語って楽しい!」と主体的に学習をすすめ、英語の先生を目指すようになったと言います。中学校の英語教諭時代は、家庭で子ども達へのバイリンガル教育を熱心に行っていたということですが、ちょうどその時期に小学校の英語教育が導入され、教材やカリキュラム作成に携わることになります。現在は、文部科学省の視学官として、学習指導要領の内容を全国の教育委員会の方々や先生方に伝える活動をされている直山氏に、小学校の外国語教育について伺いました。
日本の英語教育の要は、中学校で英語力の差ができないようにすること
「私が中学生・高校生のときと比べて、現在の日本の英語教育はずいぶん変わってきましたし、英語力が高い子どもの割合も増えてきました。一方、高校卒業時点での英語力の差が広がっていることは課題だと思います。
高等学校で英語コースや国際コースに通っている生徒たちは、英語の授業時数が断トツ多く、ネイティブ・スピーカーの先生とも接する機会も多いので、英語力が高くて当たり前。でも、普通科や、英語以外の専門学科の高校に通っている生徒たちは現状よりも英語力を身につけられることが期待されます。」と直山氏は話します。
「彼らは、高校卒業後に就職するケースが多いですから、仕事で英語を使えるようになる必要性が高いと思います。この子たちがどのように英語力をつけるか、どのように自信をもって英語を使えるようになるか、ということが大きな課題だと思っています。そのためには、中学生のときにきちんと英語力をつけることが重要です。」とのこと。
直山氏のお話から、中学校の英語教育が重要ということがわかりました。小学校で英語の授業を行うことには、どのような意義があるのでしょうか?
日本の小学校英語教育の良さは、「小学校文化」に根づいた授業
直山氏は、「児童期は、音声を聞く力に柔軟性がある、何でも新しいことには興味をもって動こうとする、といった特徴があります。何のために小学校で英語をやるのかというと、そういう児童期に『英語』という新しい言語に触れさせることで、子どもたちの視野を小さいころからぐっと広げるためです。視野が広がれば、英語力だけではなく、感受性や他教科等にも及ぶ興味・関心・意欲を高めることができます。」と言います。
「そして、日本語でのコミュニケーション力にも良い影響を及ぼすと考えています。これが日本の小学校英語教育の特徴です。技能ばかりに特化していない、ということですね。小学校の先生方の自由な発想を活かして授業をつくる。私はこれを「小学校文化」と呼んでいます。小学校の先生方は、小学校文化に根づいた英語の授業をしてくださっていますし、それが日本の小学校英語教育の良さだと考えています。」と直山氏。
さらに続けて、「また、日本の小学校の先生は、全教科等を指導しているので、知識やアイデアの引き出しが多いです。算数の授業や総合的な学習の時間と結びつけて英語を指導したりすることがとても上手なんです。こういうことは、中学校や高校の先生は苦手です。小学校の先生方の能力は、英語のスキルだけではなく、子どもたちにほかのいろいろな興味・関心・意欲を耕していける英語授業づくり、という日本の英語教育の良さに関係していると思っています。」とのご意見。
続けて直山氏に伺いました。限られた授業時数の中でもできる限り効果を高めるために、学校ではどのような工夫が必要でしょうか?
効果的な指導のカギとなる「言語活動」は、小学校教員の得意分野
直山氏は、「学習指導要領を読んでもらうと、小学校中学年の外国語活動、小学校高学年の外国語科、中学校の外国語科、高等学校の外国語科、この4つすべての目標として共通して記されていることがあります。それは『言語活動を通して』ということばです。小学校における言語活動とは、実際に英語を使って自分の考えや気持ちを伝え合うことです。先生が “Repeat after me.” と言って子どもたちに繰り返し練習させることは、やってはいけないということではありませんし、言語活動を成り立たせるために練習も必要ですが、それが授業の中心になってはいけません。」と言います。
「また、学習指導要領に記されていますが、言語活動を成り立たせるためには、「コミュニケーションを行う目的や場面、状況など」が必要です。何のために誰に向けてどういう場面・状況で伝え合うのか、ということを授業の中で明確に設定することです。」と言っています。
出典:文部科学省(2020)
「小学校では、他教科等も指導している担任の先生が英語を指導していることが多いですね。担任の先生は、常に目の前の子どもたちと一緒に過ごしているので、子ども理解がとても深いです。小学校の先生は、その子ども理解に基づいて、「こんな活動をしたら算数が嫌いな○○さんも喜んでやるかな」、「このアニメを題材にしたら、社会や国語のときにつまらなそうにしている○○さんも興味をもつだろうな」と考えることがとてもお得意です。」
「子どもたちが思わずやりたくなるような活動を、子どもたちが最も興味・関心をもつ題材で、自分の考えや気持ちを伝え合う。そのような言語活動を授業の中心に据えることで、子どもたちがコミュニケーションを図る力をつけていくことにつながります。」
今回のインタビューでは、直山氏に小学校の英語教育について、様々なお話を伺うことができました。現状、小学校では、英語授業の7割が主に学級担任によって行われています(文部科学省, 2019a)。英語力に自信がない、英語指導の経験がない学級担任が子どもたちに英語を教える、という状況は、教員にとっても、保護者にとっても、大きな不安要素の一つでしょう。
しかし、直山視学官のお話によると、2011年から全国で実施されてきた小学5・6年生の外国語活動のなかで、学級担任は自然と自らの強みを活かして、英語力に限らない子どもたちの興味・関心・意欲を高める「言語活動」を実施してきた、という実績があります。そして、「子どもたちの目線に立つ」という点においては、学級担任ほど優れた力を発揮できる人材はいません。
直山視学官の想いが一人でも多くの先生方に届き、学級担任が自信をもって英語の授業に取り組めるようになれば、英語が好きな子どもたち、英語を使える子どもたちを今後さらに増やしていくことができるのではないでしょうか。
詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。
■<文部科学省 初等中等教育局 視学官 直山木綿子氏>インタビュー〜
前編:https://bit.ly/3JwqT9f 後編:https://bit.ly/3uE5QLF
■ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所
(World Family's Institute Of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所 長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7
パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10 月 URL:https://bilingualscience.com/