英語学習をやり抜く脳はスモールステップによる達成感で育つ

英語学習をやり抜く脳は スモールステップによる達成感で育つ

~幼児期の「やり抜く力」は親の「やり抜く力」と相関していた~ 東北大学大学院 細田 千尋 准教授 インタビュー記事公開

私たちの脳は、英語を学習することによってどのように変化するのでしょうか?今回、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、このような疑問について探るべく、脳の研究をご専門とし、英語学習に関する研究結果も発表されている細田准教授(東北大学)にお話を伺い、公式サイトにて記事を公開しました。英語学習と脳の関係、親が子どもに与える影響などについて紹介します。


<インタビューサマリー>

●英語を学習すると、英語力が高くなるだけではなく、英語力が高い人の脳構造に近づく(右の前頭前野が大きくなる)。

●英語学習を継続できる人とできない人は、「やり抜く力」に関わる前頭極の大きさが異なる。

●スモールステップで達成感を多く得られる方法で学習すると、英語学習を継続できるようになるだけでなく、「やり抜く力」が高い人の脳構造に近づく(前頭極が大きくなる)。

●幼児期の「やり抜く力」は、親の「やり抜く力」と相関している。子どもにやり抜く習慣をつけさせるためには、まずは親の行動を見直すこと、そして、子どもが自己効力感を保てるようサポートすることが重要。

 細田 千尋 准教授


細田先生は、大学時代に第二言語学習について学び、バイリンガルの人は脳損傷や脳卒中などで脳の一部が壊れてしまうと片方の言語しか話せなくなるという研究結果を目にしたことがきっかけで、英語学習と脳の関係について研究を始めたそうです。細田先生の話によると、第二言語の能力が高い人は、第二言語を使うときに活動する脳の範囲が比較的少ないということがわかっています。では、英語力の高さによって脳の構造にも何か違いが出るのでしょうか?細田先生にご専門の脳研究について詳しく伺いました。

英語を学習すると脳の構造が変化する


「生まれたときの脳が英語の能力を決めているのかどうかを調べた研究があります。まず、TOEICのスコアと相関している脳の場所を明らかにしました。これは、右の前頭前野で、先ほど、英語力が高いほどたくさん活動する、とお話ししていた場所です。そして、TOEICのスコアが200もいかないような、英語力が低い人たちは、英語学習のトレーニングを受けたら脳の構造がどうなるか、ということを見ました。


結果、TOEICのスコアが30%くらい伸びた人は、右の前頭前野が大きくなっていました。」と細田先生。続けて「でも、実験後、英語を学習せずに1年が経過すると、TOEICのスコアも右の前頭前野の大きさも元に戻っていました。英語の能力は生まれたときの脳で決まるわけではなく、訓練することによって脳の構造も英語力も変化するということです。」とのこと。

 

ただし、この実験(英語のトレーニング)に参加した人の半数くらいが最初の10日間くらいで参加をやめてしまったことから、細田先生は、英語学習を成功させる鍵として、非認知能力の一つである継続力に着目します。

英語学習を継続できる人とできない人は、脳の構造に違いがある


英語学習を継続できた人とできなかった人では、脳に何か違いがあったのでしょうか?


細田先生の話では、「英語のトレーニング中に脱落してしまった人たちと最後までちゃんとやり切った人たちは、英語力やIQ、性格特性には大きな違いが見られませんでした。でも、トレーニング開始前に撮った脳画像を比較したところ、違いが見られました。」ということです。また、「最後までやり切った人たちのほうが、おでこのすぐ後ろに位置する脳の『前頭極(ぜんとうきょく)』と呼ばれる場所がトレーニングを開始する時点で発達していたんです。」と言っています。


さらに、細田先生は「前頭極の発達を見れば、90%くらいの確率で、その人が最後までやり切れる人なのか、途中で脱落してしまうのかを予測できることがわかりました。」と話します。


それでは、前頭極があまり発達していない人(継続力が低い人)が英語を学習するとき、達成感を与えるには、どのような方法があるでしょうか?


スモールステップ学習で「やり抜ける脳」に変化する


「前頭極が小さくて途中で投げ出しやすい人は、特に、スモールステップをたくさん用意して、ステップごとに達成したことを認めていってあげると、学習を継続しやすいです。教える側は、『これはできて当たり前』と思わずに、小さなことでも一つひとつ達成感を与えることが大事ですね。」「また、学習を開始する時点での初期値(英語力)によって、どのようなステップを与えるかは変わってきますから、そこはパーソナライズする必要があります。」ということです。


細田先生は続けて、「効果的なフィードバックの与え方は、人によって異なります。ほめるという方法、『あなたはいま何位ですよ』と他者と比較する方法、『前回から〜ポイント上がりましたよ』と変化を数値で見せる方法などがありますが、それぞれ、性格特性として向いている人、向いていない人がいます。」と言います。「ですから、事前に一人ひとりの学習者の特性を知ったうえで、達成感を与える方法を考えたほうがいいと思いますね。」ということです。



画像提供:細田千尋氏 Hosoda et al. (2020)


子どもの「やり抜く力」のために親ができること


続けて、細田先生に、子どもの「やり抜く力」について伺いました。「最近、親子を対象とした実験をしているのですが、子どもの非認知能力は親の非認知能力から予測できます。」とのこと。「その要因が遺伝なのか環境なのかはまだわかりませんが、特に母親の非認知能力と相関していました。ですから、親は、子どもにばかり『やり抜きなさい』と言うのではなく、普段の生活を省みて、自分自身も変容していく必要があると思います。子どもは、親が思っている以上に、親の中に規範を見つけて、無意識に真似するからです。」と話しています。


そのほかにも、子どものやり抜く力を育てるため大切なこととして、以下の点を挙げていただきました。


・親が子どものことをよく見て、その子どものタイプに合った学習方法にすること

・特に発達段階にある幼児期については、愛着形成をメインに考えること

・幼児期を過ぎた子どもについては、親が承認して、自己効力感を保てるようにケアしてあげること


今回の細田先生のお話から、親が子どもの英語学習について心がけるべきポイントが二つあると考えられます。


1.英語習得のカギは、一人ひとりの「やり抜く力」に合った学習方法にすること

2.特に幼児期は、「やり抜く力を育てなければ」と焦って子どもに何かを強制しないこと


やり抜く力に関わる脳部位は、思春期の手前までにかけてゆっくりと発達していきます。また、細田先生の研究結果が平均年齢20歳代の成人を対象とした実験から得られているため、大人になってからであっても、経験によって脳もやり抜く力も変化することは明らかです。さらには、子どものやり抜く力は親のやり抜く力と相関しています。

子どもに「最後までやりなさい」と言い聞かせようとするよりも、まずは親が何かをやり抜く姿を見せ、さまざまな体験や声かけを通じて「自分は目標のために努力できる」という自信を少しずつつけさせてあげるほうが、英語学習を続けられる子どもに育てることにつながるのではないでしょうか。


詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。

■<医学博士・東北大学大学院 情報科学研究科 細田 千尋 准教授>インタビュー〜

前半: https://bit.ly/3KgSxqk  後半: https://bit.ly/3sesB8D


■ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(World Family's Institute Of Bilingual Science)

事業内容:教育に関する研究機関

所   長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)

所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7 

パシフィックマークス新宿パークサイド1階

設   立:2016年10 月  URL:https://bilingualscience.com/

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