VRなどの仮想環境を用いた外国語学習・ 効果的になるための3要素
~小学生を対象にした最新の海外研究からわかること~ IBS研究員 論文記事 公開
2022.05.19 13:00
VR(仮想現実)は、目の前に映し出された世界に入り込んだような感覚を体験させる没入型技術の一つであり、一般の人々もますます利用しやすくなってきています。そして、海外では、これらの技術を活用した外国語学習についての研究も増えてきました。そこで今回、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>は、IBS研究員(著者:ポール・ジェイコブズ Paul Jacobs・翻訳:佐藤有里)による、VRなどの仮想環境を用いた外国語学習に関する海外先行研究を要約したレビュー論文を公式サイトにて公開しました。
論文では、現時点で報告されている先行研究の結果を概説したうえで、特に小学生を対象とした研究を取り上げ、仮想環境での外国語学習が効果的になるための要素について考察しています。 以下、一部抜粋した内容をお伝えします。
<サマリー>
●VRなどの仮想環境での外国語学習は、語彙、スピーキング、ライティング、学習動機、異文化学習に良い影響があることが先行研究で示されている。
●VRなどの仮想環境での外国語学習が効果的であった要因は、「社会性」「動機づけ」「多感覚刺激と身体動作」の三つである。
●外国語学習は、確かな教授法や理論的な枠組みと組み合わせれば、VRなどの没入型技術を使って効果を高めることができる。
VRなどの没入型技術と外国語学習
AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を活用した外国語学習や外国語教育に関する研究は、ここ何年かの間で増加してきた。Li and Lan(2021) は、「Digital Language Learning(DLL)/デジタル言語学習」という用語を提唱し、ARやVR、自然言語処理(NLP)、機械学習、自動音声認識など、言語学習を支援する新しいデジタル技術について説明している。これらの技術を組み合わせることで、ユーザーは、外国語学習と関連があるオーセンティックな文脈(実際にそのことばが使われる状況)で、現実世界と同じようなやりとりを体験することができる(Nicolaidou, Pissas, Boglou 2021)。
VRなどの仮想空間における外国語学習についてわかっていること
没入型技術(VR/AR)を活用した外国語学習の研究は、主に、外国語能力の到達度、外国語学習の動機づけ、異文化知識に焦点を当てている。外国語能力の到達度については、語彙の知識、スピーキング力、ライティング力が最も多く調査されている分野である。調査対象となった全研究で得られた有意な結果が語彙、スピーキング、ライティング、学習動機、異文化学習に良い影響があることを示していた。
大学生や大学院生を対象とした研究は、調査された全研究の約50%を占め、ほかの年齢層(小学生、中学生、高校生、教師)を対象とした研究よりも割合が多かった。
小学生にとってVRなどの没入型技術を活用した外国語学習が効果的になるための3要素
1.社会性
「Sociocultural Theory(社会文化理論)」(Lantolf 2006; Vygotsky 1978)、「Usage-Based Theory((言語)使用基盤モデル)」 (Tomasello 2003)、「Comprehensible Input(理解可能なインプット)」(Krashen 1988)、「Interaction Hypothesis(インタラクション仮説)」(Long 1996)などの理論は、オーセンティックな文脈の中での社会的相互作用が言語習得につながる、という考え方において大まかに共通している。
VRは、学習していることばが実際に使われる環境に生徒を置くことで、オーセンティックな文脈をつくり出すことができる(例:空港で道を尋ねる)。そして、ほかの人やコンピュータが操作するプレイヤーとのやりとりを通じて、意味のあるやりとりを体験させることができる。VRゲームは、学習者がすぐにフィードバックを得られるように、そして、学習者の自律性や自発的な発見、反復学習、リフレクション(振り返り)を促せるように設定することができる。
2.動機づけ
学習者の動機づけは、外国語学習の成功に大きく関係する(Dornyei and Ushioda 2009; Dewaele 2022)ため、これもARやVRの技術を活用した学習が効果的であった要因であると考えられる。ゲームは、生徒の意欲や興味・関心を引き出すうえで重要な役割を果たす(Peterson 2010)。
児童たちは、仮想世界のゲームで成功体験を得たあと、間違った英語を使うことはあっても、英語でコミュニケーションをとる意欲が高まっていた。スコアやランキングを見られる機能があったことによって、このVRゲームでもっと学習したいという気持ちになった。また、ヒントカードや学習カード、スキップ機能などが取り入れられていたことで、タスクを完了しやすくなり、学習に対する不安が軽減されたことも報告されている。
3.多感覚刺激と身体動作
「Total Physical Response(全身反応教授法)」 (Asher, 1969) 、「Multisensory Structured Learning Approach /MSL(多感覚を用いた体系的な学習アプローチ)」 (Sparks et al. 1991; Nijakowska 2010) など、古くから確立された教授法がある。
MSLアプローチの考え方によると、複数の感覚(見る、聞く、動く、話すなど)を使いながら学ぶことで、情報が短期記憶から長期記憶に移りやすくなり、この長期記憶は学習した言語を使えるようになるために重要である(Kormos 2017, 128)。
VRなどの世界では、パソコンのタッチパッドを使ったり、自分の身体を実際に動かすことでアバターを操作したりして、仮想環境に存在する物体を手に取って操ることができる。
外国語学習は、確かな教授法や理論的な枠組みと組み合わせれば、VRなどの没入型技術を使って強化することができます。ほとんどの研究で、外国語学習に対する態度が大きく向上するとともに、良い学習成果につながったことが報告されました。そして、三つのカテゴリが、VRなどの参加型または交流型ゲームを使った外国語学習を成功させるための基盤となりうることが明らかになりました。「社会性」「動機づけ」「多感覚と動作」という要素です。
小学校の授業にVRなどの没入型技術を取り入れることは、特に日本のような国では大きな可能性を秘めています。メタバースのように、仮想世界で人と人がつながれるようにする技術やオンライン・ネットワークが開発されて実現するなか、今後は、教育におけるこれらの可能性を探る研究が爆発的に増えることが予想されます。
詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。
■<ワールド・ファミリーバイリンガルサイエンス研究所>IBS研究員 論文記事
■ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所
(World Family's Institute Of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所 長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7
パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10 月 URL:https://bilingualscience.com/