夏に気をつけたい感染症は「夏かぜ」「とびひ」「食中毒」 夏か...

夏に気をつけたい感染症は「夏かぜ」「とびひ」「食中毒」  夏かぜに抗菌薬は効果がありません  ~大野研究員が、身近な感染症やその予防策について解説を公開~

昨年は新型コロナウイルス感染症対策が功を奏してか、夏の感染症は際立った流行が見られませんでした。

最近は人込みに出かけたり、人が集まって活動することも増えてきました。

今回は「夏に気をつけたい感染症」をテーマに、「細菌」や「ウイルス」が原因で起こる身近な感染症やその予防策についてAMR臨床リファレンスセンター大野研究員の解説を公開します。



■夏に多くみられる感染症

●夏かぜ

「かぜ」の原因となるウイルスはさまざまで、一年中だれでもかかる疾患です。特に夏に多く流行るものを「夏かぜ」といいます。代表的なものは「咽頭結膜熱」、「手足口病」、「ヘルパンギーナ」です。子どもの間で流行ることが多いですが、大人もかからないわけではありません。


「咽頭結膜熱」は高熱、咽頭炎、結膜炎の症状に加えて、腹痛、下痢などの症状をきたすこともあります。感染力が比較的高く、またウイルスの排出が長引くこともあり、学校保健安全法では「主要症状が消退した後2日経過するまで」を出席停止期間の基準として定めています。


「手足口病」は発熱と咽頭痛に続き、主に手のひらや足の裏、口の中などにぶつぶつとした発疹が出ます。口の中の粘膜に発疹ができると痛みを伴うことがあり、その痛みで食欲が落ちることもあります。


「ヘルパンギーナ」は高熱と咽頭痛、また口の中の粘膜に発疹ができます。口の中の痛みや咽頭痛で食事が摂りにくいときは、辛いものや熱いものなど刺激になるものは控え、喉を通りやすい食事にするなどの工夫をしましょう。しっかり水分を摂ることも大切です。


●伝染性膿痂疹(とびひ)

夏に多い細菌感染症の一つとして「伝染性膿痂疹(とびひ)」があります。肌荒れや虫刺されなどを掻き壊したところについた細菌が感染を起こし、さらに掻きむしって傷ついた周囲の皮膚に手指を介して感染が広がります。火事で火の粉が飛んで離れたところにも広まる飛び火になぞらえて「とびひ」と呼ばれます。発疹の中にいる細菌を広げないように、掻き壊さないようにしましょう。プールの水を介してうつることはありませんが、直接肌と肌が触れることで自身の症状が悪化したり、他の人にうつす恐れがありますので、プールなどでの水泳や水遊びは治るまでやめましょう。*

普段から手洗いをしっかりすること、皮膚を清潔にして、肌荒れのない状態に保つことが重要です。


* http://jspd.umin.jp/pdf/info/130522_3.pdf


●食中毒

「食中毒」は細菌、ウイルスや寄生虫などが原因となりますが、特に夏に多いというわけではありません。ただ、暑さで食物が腐敗しやすく、黄色ブドウ球菌の出す毒素が腐敗を招く原因となります。また、バーベキューなどで、加熱が不十分な食肉や魚を食べて、腹痛や下痢症状をきたす食中毒も夏になると多くなりがちです。鶏肉に多く含まれるカンピロバクターや魚に多く含まれるビブリオ菌、大腸菌O-157やサルモネラ菌などが原因として挙げられます。中まで十分に加熱しましょう。常温で保存したカレーや、シチューなどの煮込み料理などはウエルシュ菌の温床となり、通常の加熱では死滅しないことがあるので注意が必要です。

生鮮食品、デリバリー料理や弁当は消費期限内に早めに食べきって、常温での長時間保存は避けるようにしましょう。

調理の際にも注意が必要です。生肉などには病原菌がついていることがあります。包丁やまな板などの調理器具などはしっかり洗い、乾かしてから片付けましょう。こまめな手洗いも大切です。



■夏かぜに抗菌薬は効果がない

夏かぜの原因はほとんどがウイルスです。抗菌薬(抗生物質)は、細菌に作用する薬なので、夏かぜの時に抗菌薬をのんでも効果はありません。早く治ることはありません。

「かぜ」の原因となるウイルスは数多く存在します。ウイルスはどんどん変異します。インフルエンザや新型コロナウイルス感染症など、一部の感染症には抗ウイルス薬が開発され、使用されていることもあります。しかし、かぜの場合は、免疫力が十分にある人は自然に治っていく疾患であるため、原因となるウイルスを特定したり、その一つひとつのウイルスに対する抗ウイルス薬を開発することは現実的ではありません。


かぜをひいたら、つらい症状を和らげる薬(解熱剤、咳止めなど)を服用しながら、体を休めることで一番早く治ります。他の人に感染を広げないようにするために、学校や仕事を休むことも必要です。

以前、当センターで行った抗菌薬意識調査*では、体調不良時に休む人は約半数でした。以前に比べると増えてきていますが、まだまだ休めない、休まない人が半数です。かぜのウイルスは、咳やくしゃみの飛沫が飛び散って広がります。体調がすぐれないときは、自分のために体を休めるだけでなく、感染を広げないように休むことも必要です。


*抗菌薬意識調査レポート 2021 https://amr.ncgm.go.jp/pdf/20211004_report.pdf


図1


<薬剤耐性>

AMR:Antimicrobial Resistance


細菌が原因となる感染症の治療薬は抗菌薬(抗生物質)です。本来であれば効果があるはずの抗菌薬が効かなくなった細菌を「薬剤耐性菌」と言います。昨今、この薬剤耐性が世界中で問題になっています。「薬剤耐性菌」がいると、細菌感染症の治療が難しくなるだけでなく、手術前の予防や抗がん剤治療などその他の医療に支障をきたすことがあるからです。薬剤耐性菌の一部は、抗菌薬を必要のない時に使ったり、適切にのまなかったことによって生じます。

抗菌薬(抗生物質)は、細菌の構造や増殖の仕組みを壊すことで効果を発揮します。そのため同じ微生物でも、細菌とは構造の異なるウイルスにはまったく効果を発揮しません。

「薬剤耐性」の問題は、人の医療だけでなく、動物や環境でも問題になっています。畜産業では、飼育の際に抗菌薬が使われています。動物においても抗菌薬の不適切な使用は「薬剤耐性菌」の増加につながります。



■今一度、だれもができる感染対策の見直しを 「咳エチケット」と「手指衛生」

暑さが続く毎日で、必要な場所でのマスクの着用や、手洗いが疎かになりがちです。

コロナだけでなく、周囲に感染を広げる感染症は多くあります。再度、感染症予防としての「咳エチケット」や「手洗い」を見直しましょう。


<咳エチケットと正しい手洗い>

かぜのウイルスは咳やくしゃみの飛沫や鼻水にいます。かぜをひいて、咳やくしゃみ、鼻水が出るときにはマスクをしましょう。マスクがなくて、咳やくしゃみが出るときにはティシュやハンカチ、袖の内側でしっかりと口や鼻を覆いましょう。手で口や鼻を押さえると、その手にウイルスがついて広めてしまいます。

手はたくさんのモノを触っています。目に見える汚れだけでなく、目に見えない細菌やウイルスなどの病原体がついています。食事の前やトイレ使用後の手洗いはもちろんのこと、正しい手洗いを身に着けて日頃から感染症を予防しましょう。イラストや動画を参照しながら正しい手洗いを覚えましょう。

アルコールによる手指衛生も、指先や指の間にもしっかりと刷り込み、よく乾かすことが大切です。


動画:正しい手洗いを覚えよう https://www.youtube.com/watch?v=GmXgJc_S5Y4


図2_咳エチケットと手洗い


■意外と知らない、「細菌」と「ウイルス」の違い

 「細菌」と「ウイルス」は大きさも増え方もまったく違う微生物です


細菌とは、肉眼では見ることはできない微生物です。大きさは1-10μm程度で、細胞膜と細胞壁に包まれた、一つの細胞から成る単細胞生物です。球形、棒状、螺旋状のものなど形もさまざまです。人や動物の細胞に付いたり、入り込んで定着することができます。感染すると細胞の栄養を取り込み、自分の力で分裂して数を増やします。これを繰り返して増殖します。

人の体に侵入して病気を起こす有害な細菌もいれば、人の体の表面や腸の中の環境バランスを整えている細菌(常在菌)もいます。抗菌薬(抗生物質)は細菌を退治するための薬です。


ウイルスは、細菌に比べるとはるかに小さく、直径は約0.1μmで、細菌の10分の1から100分の1ほどの大きさです。タンパク質でできた殻の中に、遺伝子をもつ粒子です。細菌と違い自分で増殖ができません。ウイルスは人や動物の細胞の中に入り込み、細胞の中の材料を利用して自分のコピーを大量につくります。増えたウイルスは次々と新しい細胞に入って、細胞を壊しながら増えていきます。かぜ(感冒)はさまざまなウイルスが原因となって起こりますがウイルスは構造や増え方などが細菌とは違うので、抗菌薬(抗生物質)はまったく効きません。


図3_ウイルス大きさの比較


■大野 茜子(おおの あかね)

大野先生プロフィール


国立国際医療研究センター病院

AMR臨床リファレンスセンター

特任研究員


小児科専門医

長崎大学大学院 熱帯医学グローバルヘルス研究科 MTM修了

2020年より現職

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