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外国語学習は何歳から? 将来の英語力は、学び始めた年齢だけでは決まらない

言語習得における年齢の影響に関する記事公開

「小さいころから英語を学び始めれば、将来、高い英語力を身につけることができますか?」

0~6歳までを主な対象とした早期英語教育、早期バイリンガル教育に関しては様々な意見が交わされています。そこで、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、保護者の皆様や教育関係者の皆様から寄せられる疑問に対し、先行研究を基にお答えする記事を定期的に公開しています。今回は言語習得における年齢の影響について全3回にわたりお答えします。

<今回の悩み・疑問>

 「小さいころから英語を学び始めれば、将来、高い英語力を身につけることができますか?」

<バイリンガル サイエンス研究所の回答>

 日常生活で第二言語に触れる環境であれば、触れ始めた年齢が低い人のほうが最終的に高い能力を身につけている傾向にあります。特に、ネイティブ・スピーカーと同レベルの発音を身につけられるかどうかは、年齢から影響を受けやすいと考えられます。しかしながら、発音も含め、第二言語習得には年齢以外にもさまざまな要因が影響する可能性があります。そのため、特に英語が日常的に使われていない日本の場合は、必ずしも英語に触れ始めた年齢だけで英語力が決まるわけではありません。

第二言語習得にも臨界期はある?

第二言語習得においても臨界期(※1)は存在するのか、存在するとしたら何歳までなのか、といった点も、臨界期仮説が提唱された当初から長年に渡って研究されてきました。例えば、国勢調査を基にした研究(調査対象者:アメリカに10年以上在住の移民およそ230万人)(Hakuta, Bialystok, & Wiley,  2003)や、第二言語の能力テストを基にした研究(調査対象者:スウェーデンに10年以上在住の移民195人)(Abrahamsson  & Hyltenstam, 2009)があります。


これらの先行研究から言えることは、第二言語の熟達度に学習開始年齢が影響する可能性は高いものの、思春期を過ぎたらネイティブ並みの能力は身につけられないということは十分に証明されておらず、臨界期の終わりが何歳ごろなのかもまだ明らかになっていない、ということです。また、言語能力には、発音や語彙、文法、というように、いくつかの側面があり、もし臨界期があるとしたら、それぞれに異なる臨界期がある、または、臨界期から受ける影響の程度がそれぞれ異なると考えられています(Eubank & Gregg, 2014; Granena  & Long, 2013; Huang, 2014; Long, 1990, 2005)。


(※1)臨界期仮説(Critical Period Hypothesis)は、ある一定の年齢を過ぎるまで(臨界期)に言語に触れる機会がないと、その言語を完全に習得することが難しくなる、という考え方 。臨界期の時期についてはさまざまな見解があるが、脳の発達の観点から思春期に入る前とした研究者もいる。臨界期の存在をはっきりと証明する研究結果はまだ不十分である(Eubank & Gregg, 2014)。

発音の習得に年齢は影響する?

移民のケースのように、日常的に触れる環境で第二言語を学ぶ場合は、音声習得における臨界期の存在は否定できず(Long, 1990, 2005; Patkowski, 1990)、発音に関しては学び始める年齢は早いほうが良いという考え方は広く認められています(Flege, 2014)。

その理由については、母語の音声体系が確立されると、それを第二言語に当てはめてしまい、幼いときに発揮していた音の微妙な違い(例:音の強弱や高低の違いなど)を認識する能力を使うことが難しくなる、という説が提唱されています(Flege, 1995; Wode, 1994)。


しかしながら、早くから第二言語に触れ始めることが必ずしもネイティブ並みの発音習得を保証するわけではありません(Flege et al, 1995; Flege, Frieda, &  Nozawa, 1997; Flege, Yeni-Komshian, & Liu, 1999; Lee, Guion, & Harada, 2006; Piske, MacKay, &  Flege, 2001; Yeni-Komshian, Flege, & Liu, 2000)。また、全体からすると少数ではありますが、思春期以降から第二言語に触れ始めてもネイティブ並みの発音を習得できるケースも報告されており、年齢だけではなく、多様な要因が発音の習得に影響する可能性があります(Moyer, 1999; Yeni-Komshian et al.,  2000; Piske et al., 2001; Abu-Rabia, 2004; Birdsong, 2007; Bongaerts, 2014)。

文法の習得に年齢は影響する?

移民の人々は、入国年齢が低いほど最終的な文法能力が高いことは数多く報告されていますが、早くから第二言語に触れ始めることが必ずしもネイティブ並みの文法習得を保証するわけではありません(Granena & Long, 2013;  Hartshorne et al., 2018)。年齢が影響する理由については、例えば、人間には生まれながらあらゆる言語の文法を身につけるためのメカニズム(どの言語にも共通する「原理」と言語に特有な「パラメータ」から成る普遍文法」)が生まれつき備わっている、という仮説をもとにした考え方があります。ある年齢までにインプットを通じて母語習得に適したパラメータ設定になると、それ以降は母語とは異なる言語の特性を身につけるためのパラメータ設定に変更できなくなる(Eubank & Gregg, 2014)、という説です。


また、子どもには暗示的学習能力(ほぼ無意識のうちにパターンを見出す力)があるが、大人になるとその能力を使うことが難しくなるため、明示的学習能力(意識的に考えて規則性を明らかにする力)がない限りはネイティブと同レベルに到達することはできない(Abrahamsson & Hyltenstam,  2008; DeKeyser, 2000)という考え方もあります。思春期以降から第二言語に触れ始めてもネイティブ並みの文法能力を習得できるケースはあり、そのような人たちは言語適性(※2)が高いことを示した研究もあります(Abrahamsson & Hyltenstam,  2008; DeKeyser; 2000)。発音の習得と同様に、さまざまな影響要因が議論されていますが、少なくとも、発音より文法の能力のほうが第二言語に触れ始めた年齢の影響は小さいと考えられます(Eubank & Gregg, 2014; Huang,  2014; Long, 1990, 2005)。


(※2)音韻を記憶する、音と文字の関係を理解する、文中における語の意味や働きに気づく、文法規則を推測するなど、言語習得のスピードや最終的な到達レベルを予測できるとされる認知的な能力。

年齢の高い子どもや大人は、初期の学習スピードは速いが個人差が大きくなる

短期間での第二言語学習に関する先行研究によると、に文法学習の初期段階においては、年齢の高い子どもや大人のほうがはじめは速いスピードで学習することが報告されています(Snow & Hoefnagel-Hohle, 1978)。しかし、最終的には低年齢から学習し始めた人のほうが高い能力を身につけると考えられています(Krashen, Long, & Scarcella,  1979; Long, 1990)。


その言語が日常的に使われていない国で、主に学校の授業を通じて外国語を学ぶ場合も、はじめは年齢が高い子どものほうが学習スピードは速いと考えられます(Munoz, 2008)。外国語として学ぶ環境で低年齢から学習し始めた人が遅くから学習し始めた人の能力を追い抜くかどうかは、結論づけることはできませんが、その可能性を高めるためには、インプット量を増やすことが重要な鍵の一つです(Larson-Hall, 2008; Munoz, 2011)。


大量のインプットから無意識に学ぶ暗示的学習を得意とする低年齢の子どもは、週に数時間程度の授業だけではその学習能力を発揮しにくいため、長期的な効果はあまり期待できませんが、さいころに外国語にたくさん触れる環境をつくることができれば、遅くから学習し始めた人たちよりも、最終的に高い能力を習得できる可能性が高まると考えられます(DeKeyser & Larson-Hall, 2005;  DeKeyser, 2020; Munoz, 2008, 2011)。

早期学習の長期的な効果を出すためには、さまざまな条件が必要

低年齢から第二言語に触れ始めた人のほうが最終的に高い能力を身につける傾向にありますが、その言語が日常的に使われる環境や大量のインプットが長年に渡って続くなど、特に外国語として学ぶ場合には、年齢以外にもさまざまな条件が必要だと考えられます(Au, Knightly, Jun, & Oh, 2002; 原田,  2011;  Pfenninger, 2014; Peters, Noreillie, Heylen, Bulte,  & Desmet, 2019)。また、子どものころから二つの言語を学ぶことには、異文化への興味や理解にも良い影響を与えることが期待されているため(Baker & Wright, 2021)、早期外国語学習の価値や効果はさまざまな側面から検討する必要があります。


より詳しい内容はバイリンガル  サイエンス研究所で公開中の下記記事をご覧ください。

■小さいころから英語を学び始めれば、将来、高い英語力を身につけることができますか? 

第1回:臨界期仮説について

https://bilingualscience.com/question/2022081901/

第2回:音声や文法の習得について   

https://bilingualscience.com/question/2022081902/

第3回:外国語として学ぶ場合について

https://bilingualscience.com/question/2022081903/

 ■ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所

(World Family's Institute of Bilingual  Science)

事業内容:教育に関する研究機関

所   長:大井静雄(脳神経外科医・発達脳科学研究者)

所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7 

パシフィックマークス新宿パークサイド1階

設   立:2016年10 月  

URL:https://bilingualscience.com/  

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