日本で英語を使う環境をつくるときに 重視したい3つのポイント
脳科学的に明らかになった「やりとり」の大切さ 記事公開
「ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所」(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>ではグローバル化社会における幼児期からの英語教育の有効性や重要性に関する情報を定期的に発信しています。
今回は、日本で英語を学ぶ人々の多くが抱える「英語の知識はあるけれど、実際にコミュニケーションの場面で使えない」という悩みの原因や解決方法について調査するため、「社会的相互作用」について脳科学的な研究をされている東北大学の鄭 嫣婷 准(ジョン ヒョンジョン)教授にインタビューを行い、記事として公開しました。
<インタビューサマリー>
●ことばは、社会的相互作用を通じて得た情報(社会的手がかり)をもとに、人の考え・気持ちなどを読み取り、意味を推測しながら学んでいく(社会的学習)。
●「社会的学習」をするときは、単に母語の訳を通じて学習するときよりも、多くの脳領域が活動することで、ことばが記憶に定着し、さまざまな状況で素早く正確に思い出す力につながる。
●日本の英語教育で「英語を使う環境づくりの効果」を高める3つのポイント。
ことばを使う力は、
たくさんの脳領域が活動する「社会的学習」のほうが身につきやすい
鄭(ジョン)教授は、語彙を実際に使うときのやりとりや場面を何種類か映像で見るグループA(社会的手がかりがある場面での言語学習)と、単にその語彙を音声で聞きながら母語の訳を文字で見るグループBの脳活動を比較する研究を行いました。結果、自分で意味を推測しながらことばを学習したグループAのほうが、かなり多くの脳領域を使って学習していたことがわかりました 。
「このような方法でことばの意味を獲得するときに活動する脳の領域は、社会認知に関わっています。人の気持ちを読むときに働く領域です。そして、そのことばが使われているときの運動、感覚、感情に関わる脳の部位も活動します」(鄭教授)
研究の結果、翻訳を通じた学習よりも社会的学習のほうが、ことばを思い出すための手がかりが脳内のいろいろな場所にあるため、よく記憶していろいろな場面で思い出せることにつながり、さまざまな状況で素早く正確にことばを使えるようになることがわかりました。
社会的情報から学んだことばのほうが使えるようになる理由
理由1 注意力が高まる:相手の目や口の動き、お互いのフィードバックといったsocial cue(社会的手がかり)を使ってことばを学習するときは、注意力が高まる。
理由2 母語を介さなくても思い出しやすくなる:身体を使って周りの人やものから感覚情報を得ながら学ぶ経験がたくさんあると、ことばが意味や概念と直接結びつく。
理由3 記憶に定着しやすい:見る、聞く、触る、動くなど、複数の感覚や動作を使って学ぶ「マルチモーダル学習」は、ことばが記憶に定着しやすく、記憶から取り出しやすくなる。
日本で「英語を使う環境を効果的につくる」ときに考えるべき3つのポイント
ポイント1
相手からのフィードバックを予想しながらことばを使う環境
(やりとりや発表の活動など)
実際の言語コミュニケーションでは、人の気持ちを読む、ことばを組み立てる、今の状況で的確なことばを発する、という活動が必要だが、やりとりの相手がいない状況で話すときには社会認知に関わる脳領域が働かない。やり取りの相手がいる状況では、スピーチ産出のための脳領域と社会的な能力に関わる脳領域が並行して活動するので、コミュニケーションができるようになるには、双方向のやりとりを経験して慣れることが大切。発表活動の場合は、質問など相手からのフィードバックがある状況にすることが「使う力」を伸ばすために重要。
ポイント2
「ことば」と「感覚」のフィードバックがある環境
(ビデオ通話やデジタル機器など)
フィードバックには、ことばと感覚の2つのフィードバックがあり、やりとりのときに両方あればとても良い。感覚のフィードバックは、対面でのやりとりだけではなく、オンラインでのビデオ通話(映像からの視覚情報)などでも得られる。タブレット端末やVRを使った学習(何か操作したときの画面や空間の反応)、ジェスチャーを使った学習(身体の動き)も効果的であることがわかっている。
ポイント3 個人の能力や不安レベルに合った環境
学習が苦手な人にとって、社会的学習は効果的だと考えられる。VRを使った学習の効果を調べた研究(Legault et al., 2019)によると、ワーキングメモリが低い人たちは、教室環境(通常の授業)での学習だと非常に成績が低いが、VR環境での学習であればワーキングメモリが高い人たちと同等の成績になることがわかった。ただし、社会的手がかりを素早くキャチして学習することが得意でない人や、英語を使うときに不安を感じて社会的能力に関わる脳領域がうまく働かなくなる人もいるので、一人ひとりに合った学習方法を考える必要がある。
まとめ:日本でも効果的な「英語を使う環境」をつくることは可能である
鄭教授の研究から、語彙は単に母語に訳して覚える学習方法よりも、実際にことばが使われる環境の中で覚える「社会的学習」のほうが記憶に定着し、いろいろな場面で素早く正確に使えるようになることが、脳科学的に解明されました。この分野の研究がさらに進めば、日常生活で英語を使う機会がない日本であっても、「周囲の環境からことばを学ぶときと同じ脳領域が働くような学習方法・活動内容を考案すれば、英語を効果的に使う環境をつくることができる」と考えられます。
【Profile】
鄭 嫣婷(ジョン ヒョンジョン)准教 ペンシルベニア州立大学 心理学客員研究員、東北大学加齢医学研究所 脳機能開発研究分野助教、東北大学大学院国際文化研究科 & 加齢医学研究所 講師を経て2019年より現職。専門は神経言語学、認知科学。脳科学的手法を用いて、第二言語習得の脳内メカニズムの研究を行う。
詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記の記事をご覧ください。
前編:https://bilingualscience.com/english/2022110201/
後編:https://bilingualscience.com/english/2022110701
■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所(World Family's Institute Of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関(https://bilingualscience.com/)
所 長:大井静雄(東京慈恵会医科大学脳神経外科教授/医学博士)
所在地 :〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7 パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10月
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