―薬剤耐性菌パンデミックの回避に向けた新薬開発へ― 細菌の薬剤排出ポンプにおける阻害剤結合部位の特性を解明
2022.10.28 13:00
分野 :生命科学・医学系
キーワード:感染症、薬剤耐性菌、多剤耐性菌、MDR、抗生物質、抗菌薬、緑膿菌、MDRP、薬剤排出ポンプ、SDGs
【研究成果のポイント】
◆ 細菌の薬剤排出ポンプ※1における、阻害剤※2結合部位の空間的な特性を解明
◆ タンパク質の構造解析だけでなく、多数の変異型ポンプの構築によって解析可能に
◆ 薬剤耐性菌※3パンデミックの回避に向けた、世界初となる薬剤排出ポンプ阻害剤の実用化に期待
図1 薬剤排出ポンプにおける阻害剤結合の概要 (a)薬剤排出ポンプ全体における阻害剤の結合位置 (b)薬剤排出ポンプ内部における阻害剤結合部位の位置 (c)阻害剤結合部位のスペースを形成する各アミノ酸の配置
図1 薬剤排出ポンプにおける阻害剤結合の概要
(a)薬剤排出ポンプ全体における阻害剤の結合位置
(b)薬剤排出ポンプ内部における阻害剤結合部位の位置
(c)阻害剤結合部位のスペースを形成する各アミノ酸の配置
● 概要
大阪大学 高等共創研究院の山崎 聖司准教授(産業科学研究所・薬学研究科 兼任)、産業科学研究所の西野 邦彦教授(薬学研究科・感染症総合教育研究拠点 兼任)らの研究グループは、細菌の薬剤排出ポンプにおける、阻害剤結合部位の空間的な特性を明らかにしました(図1)。大規模な薬剤耐性菌パンデミックの回避に向けた新薬の開発に、明確な道筋が示されました。
これまでに当研究グループは、細菌に存在する薬剤排出ポンプが、細菌の薬剤耐性化に大きく寄与していることを解明してきましたが(Nature 480:565-9, 2011、Nature 500:102-6, 2013等)、薬剤排出ポンプ阻害剤は未だ実用化されておらず、阻害剤結合部位の特性も不明でした。
今回、当研究グループは、人工的にアミノ酸を変異させた多数の変異型ポンプの解析により、阻害剤が結合するためには、阻害剤結合部位の上部・中部・下部それぞれの空間的スペースが重要であることを明らかにしました。実際に当研究グループは、本研究成果をもとに新規阻害剤の開発を進めており、早期実用化が期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Antimicrobial Agents and Chemotherapy」に、10月27日(木)23時(日本時間)に公開されます。
● 研究の背景
世界中で薬が効かない薬剤耐性菌が出現し、大きな問題となっています。これまでに山崎准教授・西野教授らの研究グループは、細菌に存在する薬剤排出ポンプが、細菌の薬剤耐性化に大きく寄与していることを明らかにしてきました(Nature 480:565-9, 2011、Nature 500:102-6, 2013、Nature Communications 9:124, 2018等)。しかしながら、薬剤排出ポンプ阻害剤は未だ実用化されておらず、阻害剤の結合部位の特性も不明でした。
図2 変異型ポンプを用いた阻害剤結合部位の空間的スペースの解析 (上段)阻害剤ABI-PPを水色棒、変異アミノ酸側鎖を白色球で示す。 (下段)縦軸は培養液の濁度、横軸は培養時間、各色ラインは抗菌薬エリスロマイシンと各濃度のPP(阻害剤ABI-PP)併用時における各変異型ポンプ発現株の増殖度合いを示す。阻害剤が結合できる場合は、阻害剤濃度を高めるとポンプが阻害され抗菌薬が排出できなくなり、菌の増殖が抑えられる(赤矢印)。
図2 変異型ポンプを用いた阻害剤結合部位の空間的スペースの解析
(上段)阻害剤ABI-PPを水色棒、変異アミノ酸側鎖を白色球で示す。
(下段)縦軸は培養液の濁度、横軸は培養時間、各色ラインは抗菌薬エリスロマイシンと各濃度のPP(阻害剤ABI-PP)併用時における各変異型ポンプ発現株の増殖度合いを示す。阻害剤が結合できる場合は、阻害剤濃度を高めるとポンプが阻害され抗菌薬が排出できなくなり、菌の増殖が抑えられる(赤矢印)。
● 研究の内容
今回、山崎准教授・西野教授らの研究グループでは、人工的にアミノ酸を変異させた多数の変異型ポンプの解析により、阻害剤結合部位の空間的な特性を解明しました。阻害剤の効き目に大きな影響を与えるアミノ酸変異を新たに4つ同定し(図2)、阻害剤が結合するためには、阻害剤結合部位の上部・中部・下部それぞれの空間的スペースが重要であることを明らかにしました。さらに、この空間的スペースは、菌の種類・ポンプの種類によってそれぞれ少しずつ異なるものの、共通部位に着目することで、複数の菌種・ポンプ種に同時に有効な阻害剤開発が可能であることを示しました。
● 本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、大規模な薬剤耐性菌パンデミックの回避に向けた薬剤排出ポンプ阻害剤の開発に、明確な道筋が示されました。実際に、山崎准教授・西野教授らの研究グループは、本研究成果をもとに新規阻害剤の開発を進めており、早期実用化が期待されます。
● 特記事項
本研究成果は、10月27日(木)23時(日本時間)に米国科学誌「Antimicrobial Agents and Chemotherapy」(オンライン)に掲載されます。
タイトル: “Spatial Characteristics of the Efflux Pump MexB Determine Inhibitor Binding”
著者名 : Seiji Yamasaki, Naoki Koga, Martijn Zwama,
Keisuke Sakurai, Ryosuke Nakashima, Akihito Yamaguchi,
Kunihiko Nishino
DOI : https://doi.org/10.1128/aac.00672-22
なお、本研究は、文部科学省「物質・デバイス領域共同研究拠点 COREラボ」「人と知と物質で未来を創るクロスオーバーアライアンス CORE2-Aラボ」、JST「センター・オブ・イノベーション(COI)」「戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)」、JSPS「科研費 基盤(B)・挑戦的研究(萌芽)・若手研究」、日本財団・大阪大学「感染症対策プロジェクト」、AMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」の助成を受けたものです。
● 用語説明
※1 薬剤排出ポンプ
様々な薬を菌体内から菌体外へ排出し、細菌の薬剤耐性化に大きく寄与する、細菌の膜タンパク質。
※2 阻害剤
病気に関係するタンパク質や酵素の働きを止めることができる薬。
※3 薬剤耐性菌
薬が効かなくなった細菌。多くの薬に耐性を獲得した薬剤耐性菌は、特に多剤耐性菌と呼ばれている。
【山崎 聖司准教授のコメント】
タンパク質の構造解析によって、薬剤排出ポンプの内部構造が明らかになってきましたが、各構造の役割については多くが不明のままです。この問題を解決するために、人工的にアミノ酸を変異させた多数の変異型ポンプを解析することで、阻害剤開発に直結する重要な情報を得ることができました。ウィズコロナ・ポストコロナ時代に起こり得る「耐性菌パンデミック」の回避に向け、実用化に向けた新規阻害剤の開発も現在進めており、耐性菌感染症の早期克服を目指しています。
● 参考URL
大阪大学 高等共創研究院 細菌共存学研究分野(山崎研)
山崎准教授 研究者総覧URL
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/e4dd715191e4c781.html
大阪大学 産業科学研究所 生体分子制御科学研究分野(西野研)
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/mid/
西野教授 研究者総覧URL
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/3a0a7f813552df63.html
● 本件に関する問い合わせ先
大阪大学 高等共創研究院 准教授 山崎 聖司(やまさき せいじ)
TEL : 06-6879-8546
FAX : 06-6879-8549
E-mail: seiji37@sanken.osaka-u.ac.jp
大阪大学 産業科学研究所 教授 西野 邦彦(にしの くにひこ)
TEL : 06-6879-8545
FAX : 06-6879-8549
E-mail: nishino@sanken.osaka-u.ac.jp