世界初、海中音響通信技術活用による1Mbps/300m伝送を達成し 完全遠隔無線制御型水中ドローンを実現

~6G-IOWNがめざす「超カバレッジ拡張」に向けて前進~

 日本電信電話株式会社(代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)、株式会社NTTドコモ(代表取締役社長:井伊 基之、以下「ドコモ」)、NTTコミュニケーションズ株式会社(代表取締役社長:丸岡 亨、以下「NTT Com」)は、海中での高速無線通信の実現をめざし、海中音響通信技術(※1)(以下、「本技術」)を用いた共同実験を行い、世界初の海中音響通信による浅海域(水深30m程度)での伝送速度1Mbps/300mを達成する伝送実験(以下、「本実験」)に成功しました。

 本実験は、NTTが独自に研究開発した海中音響通信の高速化を実現する時空間等化技術(※2)と安定化を実現する環境雑音耐性向上技術(※3)を用いて、世界で初めて浅海域における伝送速度1Mbps/300mに達し、既存技術の10倍の伝送速度となる無線伝送実験に成功したものです。また、本技術に対応した世界初完全遠隔無線制御型水中ドローン(以下「本水中ドローン」)を実現しました。

 NTTとドコモは、「5G Evolution & 6G powered by IOWN」の超カバレッジ拡張を実現する非地上ネットワーク(Non-Terrestrial  Network、以下「NTN」)(※4)に本技術を適用し、高速無線通信の未踏領域である海中までカバレッジを拡張する検討を開始いたしました。また、NTT、ドコモ、NTT Comは、本水中ドローンを用いて、海中設備点検を想定した岸壁の劣化状況をリアルタイムに確認する実証実験を、静岡県静岡市で実施します。

 なお、本技術は2022年11月16日(水)~18日(金)に開催する「NTT R&Dフォーラム ― Road to IOWN 2022」(※5)にて一般公開します。


1.背景

 NTTグループは、2019年に提唱したIOWN構想(※6)の具現化に向けて、研究開発を推進しています。その営みの一つ「5G Evolution & 6G powered by IOWN」における空・海・宇宙などあらゆる場所への「超カバレッジ拡張」の実現に向けて、NTN技術がめざす未踏領域の一つである海中における高速無線通信の実現が期待されています。

 海中の無線通信は、「電波を利用する低周波電磁界通信」、「光を利用する光無線通信」、「音波を利用する音響通信」の三つに大別されますが、NTTは浅海域でも安定して長距離通信が可能な音響通信に着目し、さらなる長距離化・高速化に取り組んでまいりました。海中の高速無線通信の実現により、高精細な海中映像伝送や水中ドローンの遠隔制御が可能となり、海中工事・漁業などにおける作業性・効率性が飛躍的に高まると考えられています。


2.海中音響通信技術の概要

 図1に、本実験における伝送実験系の構成図を示します。送信機は海中に固定した共振周波数の異なる5素子の送波器アレー(図1右写真)と海上の音響通信装置から構成され、広帯域の変調信号が合計10素子の送波器から海中に送信されます。受信機は16個の受波器アレー(図1左写真)と海上の音響通信装置により構成され、受波器アレーで受信した変調信号を音響通信装置で信号処理を行い復調します。

 海中における無線通信においては、陸上と比較し、20万倍も低速となる遅延波の影響により、正常な通信が困難でした。また、テッポウエビなどの海洋生物が発する海中特有のインパルス性雑音(※7)の影響や、浅海域特有の揺らぐ海面の反射波によるドップラーシフト(※8)の影響を受けやすく、高速・安定化を妨げる要因の一つとなっていました。

 本技術においては、受信機の音響通信装置の受信回路において、この遅延波の影響を除去する時空間等化技術と、環境雑音耐性向上技術を組み合わせることで、世界初となる浅海域における伝送速度1Mbpsの300m無線伝送実験に成功しました。

    これは、従来の10倍以上高速となる伝送速度であり、SD画質(圧縮方式H.264・480p・30fps)の映像のストリーミング再生に必要な伝送速度に相当します(図2)。海中の設備や岸壁を撮影した映像を伝送することでリアルタイム劣化診断などへの適用が考えられます。  


              図1 伝送実験系の構成


              図2 本成果の位置づけ


3.完全遠隔無線制御型水中ドローンの実現

 NTTは、本技術を搭載した世界初となる海中音響通信による完全遠隔無線制御型水中ドローンを実現しました。図3に水中ドローンを制御するシステム構成図を示します。海上では水中の映像を確認しながら水中ドローンを操作することが可能です。海上にある音響通信装置が水中ドローンに対して制御信号を送信します。水中ドローンは制御信号に従い移動・撮影し、撮影した映像ストリーミングデータを海上にある音響通信装置に送信します。こうした無線制御の実現により、従来の有線制御型の水中ドローンでは航走が困難であった岩礁や構造物が入り組んだ狭いエリアにおいても、海上から水中映像を確認しながら水中ドローンを遠隔操作することが可能となり、水中ドローンを使った海中設備点検などの作業性向上や効率化が期待できます。

 

 また、NTT、ドコモ、NTT Comは、本水中ドローンを用いて、海中設備点検を想定した岸壁の劣化状況をリアルタイムに確認するための実証実験を、静岡市の海洋実証フィールド(※9)にて実施します。


【各社の役割】

NTT
海中音響通信技術を搭載した完全遠隔無線制御型水中ドローンの実現と実証実験における水中ドローンの運用
ドコモ
「5G Evolution & 6G powered by IOWN」のNTN技術における海中音響通信技術の適用性検討
NTTCom
実証フィールドにおける実験実施に向けた環境整備
海中通信の事業化を見据えたサービス性の評価

           図3 水中ドローンのシステム構成


 4.今後の展開

 NTTとドコモは本実験を通して各種条件に応じたデータの取得を進め、さまざまな条件に対応可能な通信方式などの技術を高度化させることで、さらなる高速化、長距離化の達成をめざします。

 NTT Comは、本技術の水産分野(例.養殖業での海洋環境調査など)における実用化をめざし、水産業に留まらず、港湾施設点検や、ダイビングをはじめとするエンターテイメント業界など、水中ドローンの導入が進んでいる他分野への拡大にむけて、技術の幅広い活用をめざします。

 NTTグループは、最先端のテクノロジーでイノベーションを加速し、IOWN構想の具現化をめざし、あらゆる場所の「超カバレッジ拡張」の実現に向けて引き続き取り組んでまいります。  


【用語解説】

(※1) 海中音響通信技術:

スピーカーから出る音に通信ができる特殊な音(トリガー音)を乗せ、音の聴こえる範囲にある様々なデバイスに情報を伝えることができる音響通信技術を水中に適用した技術です。別名、水中音響通信技術ともいいます。

 

(※2) 時空間等化技術:

海面や海底で反射する海面反射波の一部を複数の受波器を用いるアレー技術にて空間領域で抑圧することで、海面反射波による通信品質劣化を抑圧する技術です。

参考:電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン/15巻 (2022) 4号 p. 284-297

解説論文:水中音響通信の高速化に向けた時空間等化技術

             https://doi.org/10.1587/bplus.15.284

 

(※3) 環境雑音耐性向上技術:

水深数十m程度の浅海域エリアにおいて高頻度で観測される、テッポウエビが発生する破裂音や船の航走音、湾岸設備に用いる重機の作業音などの環境雑音が引き起こす特性劣化を抑圧する技術です。

参考:日経ビジネスコミュニケーション 2022年 Vol.59 No.9 p. 26-29

         海中音響通信の高速化を実現する独自技術「時空間等化技術」のさらなる進化

         https://www.bcm.co.jp/site/2022/09/mirai-net/2209-mirai-net-01-03.pdf

 

(※4) 非地上ネットワーク(NTN):

衛星やHAPSなどの非地上系媒体を利用して、通信エリアが地上に限定されず、空・海・宇宙などあらゆる場所に通信エリアが拡張されたネットワークです。


(※5) NTT R&Dフォーラム 2022 Road to IOWNのホームページ

    URL:https://www.rd.ntt/forum/


(※6) IOWN:

NTTニュースリリース「NTT Technology Report for Smart World:What's  IOWN?」の発表について

https://group.ntt/jp/newsrelease/2019/05/09/190509b.html

 

(※7) インパルス性雑音:

すべての周波数帯域で一様な電力密度をもっているランダム性雑音に対し、時間的、周波数的に突発的に発生する雑音です。浅海域エリアの海中音響環境ではテッポウエビが発生する破裂音が該当します。

 

(※8) ドップラーシフト:

音や光のような波を発する物体が移動する場合、送波する側と受波する側との相対的速度差によって、周波数がシフトする現象です。接近する場合には波長が圧縮されて周波数が高くなり、遠ざかる場合には波長が伸長されて周波数が低くなります。

 

(※9) 静岡市の海洋実証フィールド:

静岡市の清水周辺海域が海洋ロボットの開発拠点となる事を目指し、実証フィールドを利用しようとしている企業・団体に対して、ワンストップサービスを提供するもので、静岡商工会議所  新産業開発振興機構(新産機構)、一般財団法人マリンオープンイノベーション機構(MaOII機構)及び静岡市海洋産業クラスター協議会(MICCS)の3者が支援するものです。

詳細は以下のHPを参照してください。

https://www.across.jp/nio-s/fieldc/index.html

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