世界初 バイオガスで作動する燃料電池とIoTを導入した エビ養殖システムの実証研究 工学院大学が産学連携して開始
2022.11.04 10:30
工学院大学(学長:伊藤 慎一郎、所在地:東京都新宿区/八王子市)の白鳥 祐介教授(先進工学部機械理工学科、専門分野:電気化学(燃料電池))は、参画する国際プロジェクト「地域のバイオマスを利用した省エネ型エビ養殖システム高度化実証研究(ベトナム)」において、グリーン電力が動力源となり、IoTを導入した世界初のエビ養殖技術を支援しています。同プロジェクトは、ベトナム・ティエンザン省にある養殖場を実験場所として、バイオガスで作動する固体酸化物形燃料電池(SOFC)※1)とIoT※2)を導入したこれまでにないエビ養殖技術を確立し、ビジネス化を目指す実証研究です。国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が支援する「エネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業」に採択され、2022年11月3日(木)の実施者間による科学技術共同契約(ST)に関する署名式を機に研究は加速します。
■実証するエビ養殖システムの概要
バイオガスSOFCによるグリーン電力※3供給とIoT水管理によるエビ増産システムを統合したエビ養殖システムを構築し(下図参照)、これを実証します。
バイオガスで作動する燃料電池とIoTを導入したエビ養殖システムの概要図
グリーン電力供給では、地域の未利用バイオマス(レモングラスの葉※4)とエビ養殖汚泥※5を樹脂製のメタン発酵槽に投入し、バイオガス※6を製造します。同バイオガスをSOFCに供給して高効率発電を行い、養殖池への空気供給(エビの育成に必要)の電力源として、同グリーン電力を利用する循環型システムを実証します。
一方のエビ増産システムでは、IoTを活用して養殖池の水質や養殖関連機器の常時監視・調整を行うとともに、微細な気泡で溶存酸素濃度を高めるマイクロバブルディフューザーを導入することで、エビの生存率・成長率を引き上げ、養殖生産量の最大化を図ります。IoTは、SOFCの運転管理にも活用されます。
つまり、「養殖汚泥とバイオマス廃棄物で発電」と「IoTを用いた制御によるエビ養殖」の2つを組み合わせており、このかけ合わせでの実証研究は世界で初めてです。
■実証研究の背景とポイント
経済発展と人口増加が著しいアセアン諸国では化石資源の需要が急増しており、廃棄物の処理に大きな問題を抱えています。特に、ベトナムにおける農業・水産養殖の中心地であるメコンデルタ地域においては、農業残渣(稲わら、バガス、レモングラス廃材等)や水産養殖池から排出される汚泥等のバイオマス廃棄物を効率良く電力に変換し、利活用するしくみが確立されれば、地域の持続的発展に貢献することができます。
同プロジェクトは、SDGs17の目標のうち、特に、「7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、「12 つくる責任 つかう責任」、「13 気候変動に具体的な対策を」、「14 海の豊かさを守ろう」、「15 陸の豊かさも守ろう」に貢献し、超高効率発電技術であるSOFCの用途拡大と地球規模の普及を目的とした重要な実証研究です。
<期待される成果>
・先端技術の導入による持続的水産養殖の実現
・SOFCの用途拡大と地球規模の普及
・水産養殖におけるCO2排出削減と周辺環境の保全
・国際協力による途上国農村部の生活改善
・国際交流による本邦および相手国若手人材の育成
■プロジェクトの実施体制
<事業名>
NEDOエネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業
<プロジェクト名>
地域のバイオマスを利用した省エネ型エビ養殖システム高度化実証研究(ベトナム)
<実施期間>
2022年11月1日~2025年12月31日
<実施場所>
ベトナム社会主義共和国、ティエンザン省
<代表機関および実施責任者>
裕幸計装株式会社(代表取締役:太田 隆三、本社:東京都目黒区) 太田 玄
<研究実施機関>
裕幸計装株式会社、工学院大学、九州大学、
株式会社インターネットイニシアティブ、株式会社三菱総合研究所
<現地協力機関>
ティエンザン省人民委員会、ティエンザン省農業農村開発局、
Tuan Hienエビ養殖場(実証サイト)
<参考) 先行基礎研究>
白鳥 祐介教授
「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)※7」支援研究
2022年11月3日にベトナムで行われた署名式の様子
今後新装置が設置される養殖場(ベトナム)。バイオガスで作動する固体酸化物形燃料電池(SOFC)で発電した電力により、マイクロバブルディフューザー(MBD)を稼働させて酸素を池に行きわたらせ、エビの生存率の向上とCO2の約8割削減を目指す。
※1 SOFC
セラミックス材料からなる高温作動(700~900℃)の燃料電池で、数種の燃料電池の中でも最も発電効率が高い。バイオガスを利用したオンサイト発電技術として注目されており、数kWレベルの小規模発電でも50%程度の極めて高い発電効率を示す。
※2 IoT:様々なモノ(住宅、車、家電製品、電子機器、センサー、駆動装置等)を、インターネットを介してサーバーやクラウドに接続し、相互に情報交換する仕組み。
※3 グリーン電力
太陽光、風力、バイオマス、水力、地熱等、再生可能エネルギー由来の電力
※4 レモングラスの葉
実証フィールドとなるティエンザン省の沿岸部では、レモングラス栽培が盛んに行われており、地域の主要産業となっている。レモングラスを刈り取った後、茎の内側は食品として出荷され、繊維の固い茎の外側や余分な葉は残渣となるが、これをメタン発酵の資材としてバイオガス製造に用いる。
※5 エビ養殖汚泥
メコンデルタ地域で盛んに行われている集約型のバナメイエビ養殖では、池の水質維持のため、養殖中に池の底に堆積する汚泥を定期的に排出する必要がある。この汚泥は、メタン発酵の種菌として活用できるので、地域の未利用バイオマスと混ぜてバイオガス製造に用いる。
※6 バイオガス
有機物の嫌気性分解により得られるメタン(CH4)約60%と二酸化炭素(CO2)約40%の混合ガス。数百~数千ppmの硫化水素(H2S)を不純物として含む。バイオガスを燃料として利用したカーボンニュートラルな発電は、脱炭素および資源の有効利用の観点から、近年特に注目されている。バイオガス供給時のSOFCの安定作動には、H2Sの除去(脱硫)が必要になる。
※7 SATREPS
科学技術振興機構ならびに日本医療研究開発機構と国際協力機構が協同で実施している、本邦および開発途上国の研究者が共同で研究を行う3~5年間の研究プログラム。
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