高分子ウィア=フェラン構造の構築に世界で初めて成功
様々な機能を持つ先端材料の開発に期待
2022.12.16 11:00
芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田 純)応用化学科・永 直文教授と北海道大学(北海道札幌市/総長 寳金 清博)触媒科学研究所・中野 環教授らの研究チームは、世界で初めて高分子によるウィア=フェラン構造の構築に成功しました。
ウィア=フェラン構造は、空間を等しい体積の多面体で充填する場合に最小の表面積となるユニークな立体構造であり、これまで有機物を用いて作製されたものはありませんでした。今回の成果は、様々な材料への応用が可能であり、予想外の機能を持つ先端材料の開発に向けて、研究の新しい方向性を切り拓くものと期待されています。
※この研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されています。
【ポイント】
●世界で初めて重合誘起相分離による高分子ウィア=フェラン構造の構築に成功
●六角形と五角形の面を持つ多面体粒子および同多面体による空間充填構造を確認
●様々な材料への応用が可能であり、予想外の機能を有した先端材料の開発に期待
図. 重合誘起相分離を利用したウィア=フェラン構造の合成
図. 重合誘起相分離を利用したウィア=フェラン構造の合成(Polymerization-induced phase separation-based synthesis of Weaire-Phelan structures.)
■研究の背景
ウィア=フェラン構造は、六角形2面と五角形12面を持つ十四面体と、五角形面を持つ十二面体の2種類のセルからなり、2つのセルの体積は等しくなっています。十四面体と十二面体のセルが3:1の割合で空間を充填するように配置されることにより、この構造が形成されます。この構造は、1993年にデニス・ウィア、ロバート・フェランによるシミュレーションにより発見され、空間充填のもっとも効率的な構造として100年以上も受け入れられてきたケルヴィン構造(切頂八面体)よりも境界面積が0.3%小さいことが分かりました。ウィア=フェラン構造はスポーツ競技場のモチーフになっているものもありますが、現実に直接観察されるものとしては洗剤の泡とパラジウム・鉛合金しか知られていません。
■研究の概要
研究チームは、重合誘起相分離を用いてネットワークポリマーを合成することにより、ウィア=フェラン構造を構築しました。このポリマーの合成には、多官能(四官能)チオールと(二官能)ヘキサメチレンジイソシアネートという2つの汎用化合物(モノマー)の重付加反応を利用しました。この合成法は、多官能モノマーを「ジョイント分子」、ジョイント分子間を繋ぐ二官能モノマーを「リンカー分子」としてポリマーネットワークを形成するジョイント・リンカーコンセプトに基づくものです。研究チームは、トルエン中でトリエチルアミンを触媒として用いて種々の条件下でポリマーの合成を検討したところ、高モノマー濃度の反応において表面に六角形と五角形の面を持つ空間充填多面体粒子を形成することを見出しました。さらに、3次元走査型電子顕微鏡を用いて多面体構造を調べたところ、これがウィア=フェラン構造の多面体に相当することが分かりました。
■今後の展望
今回合成された材料は、フォトニクス、分離、触媒、ナノ医療、構造材料などへの応用が期待されています。予想外の機能を持つ先端材料の開発に向けて、既成概念にとらわれない新しいコンセプトで検討を進めていきます。
■研究助成
本研究の一部は、JSPS科研費(24550261)、MEXT科研費(JP19H02759)、科学技術振興機構(JPMJTMl9E4)の助成を受けたものです。
■論文情報
著者 :芝浦工業大学工学部応用化学科 教授 永 直文
北海道大学触媒科学研究所 教授 中野 環
論文名:The first space-filling polyhedrons of polymer cubic cells originated from Weaire-Phelan structure created by polymerization induced phase separation
掲載誌:Scientific Reports
DOI :10.1038/s41598-022-22058-7
■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
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日本屈指の海外学生派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の理工系大学です。東京都と埼玉県に2つのキャンパス(豊洲、大宮)、4学部1研究科を有し、約9,000人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行し、従来の教育の在り方を根本から変えていきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。