世界初! GSアライアンスが量子ドットを用いた“光る肥料”を開発
2023.02.15 11:00
脱炭素、カーボンニュートラル社会構築のための最先端技術を研究開発するGSアライアンス株式会社の森 良平博士(工学)は、水菜の発芽段階において、当社で合成している量子ドットを合成最適化して、肥料として用いて、植物を紫外線照射下で発光させることに成功しました。量子ドットは、肥料の代表的な成分である窒素、リン、カリウムの成分が含有された組成で合成されています。
紫外線照射下における、通常の肥料で成長した水菜(左)と、量子ドット型ナノ肥料で成長した水菜(右) 1本の水菜の比較写真
紫外線照射下における、通常の肥料で成長した水菜(左)と、量子ドット型ナノ肥料で成長した水菜(右) シャーレを用いた発芽実験
■開発の背景
人口爆発に伴う食糧問題は世界中で深刻になりつつあり、ロシア、ウクライナ戦争危機が1つの引き金になった原油、食糧価格高騰は大きな問題で、今後、地球の人口増加に伴う食糧価格高騰は大変な問題です。食糧と同じく、農産物を育てる豊かな土壌にするために必要な肥料の価格も高騰しています。肥料の重要な元素は3つあり、リン、窒素、カリウムで、日本はこれらの元素を含む肥料の原料をほぼ全て海外から輸入しており、自国内に原料が無いことが懸念されています。
現在使用されている一般の肥料は、例えば雨が降った場合、土壌中の肥料が水へ溶解して流れ出してしまったり、大気中に揮発、拡散してしまったりして、環境汚染の原因になったり、散布された肥料の大部分が無駄になってしまっているとも言われています。土壌中の肥料が、微生物により分解され、小さくなってからでないと、植物が肥料栄養分として吸収できないので、その前に拡散して失われてしまうわけです。
■ナノ肥料について
ところで近年、ナノ肥料というものが研究開発されています。肥料がナノサイズになると、細胞と細胞の間を通り抜けることが可能になり、微生物に分解されずとも植物が吸収できるようになるので、栄養分が拡散して失われてしまう前に、植物が取り込むことができます。そうすると、一般の肥料に比べて養分の利用率が向上し、収穫量が向上するので、一般の肥料に比べて投入肥料量を減らして収穫量を増やすことが可能になります。ナノサイズなので、一般の固形肥料と比較して、質量に対する表面積が非常に大きいので、これも植物から吸収される確率が飛躍的に向上する原因になります。さらに、根だけでなく、葉からも植物体内に取り込むことが可能になります。固形の肥料ではなく液体の肥料を使用すれば、植物体内に取り込まれる事は可能ですが、ナノ肥料の場合は、ナノ微粒子内や表面に、肥料成分のみならず農薬、殺虫剤、除草剤、必須金属などの成分、組み換え用遺伝子などを含有、担持させることが可能になるので、それらを植物に取り込ませ、これまでより効率良く吸収させる事も可能になります。
■量子ドットについて
一方で、量子ドットとは、量子化学、量子力学に従う光学特性を持つシングルナノスケール(0.5~9nm)の超微細構造の最先端材料です。量子ドット1個あたりの原子、分子数は数個~数千個といわれており、人工原子、人工分子とも言われています。物質がこのサイズになってくると、量子封じ込めと言われる物理化学的効果により、量子ドットにおいての電子エネルギー準位は連続ではなく、分離が生じ、光の励起による発光波長が量子ドットのサイズに依存するような現象を示すようになります。
この度、当社の森良平博士(工学)は、肥料成分(窒素、リン、カリウム)を含有して、かつ発光するグラフェン量子ドットを合成し、それを肥料として水菜を発芽させ、さらに、水菜の発芽した植物体を紫外線照射下で蛍光(発光)させることに成功しました。肥料として種子が吸収した量子ドットが、水菜の植物体の中で発光しているものと推測できます。
これまで海外の大学で、量子ドットをナノ肥料として用いて、植物の成長を促したり、動物や菌類の培養細胞に対して、量子ドットを用いて目視、顕微鏡観察レベルで発光させた研究報告例はありますが、植物そのものを目視で認識できるぐらいに、紫外線下で蛍光発光させることに成功したのは、世界初と思われます(当社調べ)。(量子ドットによる発光ではなく、植物体内にナノ微粒子や発光バクテリアを人為的に導入して発光する植物や、オシロイバナなど稀ではあるが、いくつかの植物では、花弁が蛍光を発することが知られている)。
また、量子ドット組成を調整することにより、市販の肥料と同等の肥料としての能力を持つ、量子ドット肥料を作ることにも成功しました。
このように植物体内に取り込まれ、発光する量子ドット型ナノ肥料は、肥料としての効果以外にも、以下の利点が期待できます。
■量子ドット型ナノ肥料の利点
1. 植物が何らかの外部環境(疫病、天候、飢餓状態)が原因でストレス下に置かれる状況で、これまでは農作物が弱くなっても見かけではわからずに、農作物が育たず無駄になってしまうことがあります。しかしながら、この量子ドット型ナノ肥料がストレスにより発生している植物体内の物質(H2O2 、Ca2+、NOなど)に対して結合すれば、紫外線照射下で発光しなくなったり、スペクトルの状態が変化するので、外見ではわからなくても、早めに作物のストレス状態を検出することができるようになります。そうすると、早めに対策を取ることができ、農作物を失わずに収穫期まで健康状態よく育ち、収穫することが可能になります。これらの発光現象を検出すれば、スマート農業、リモート農業に応用できます。
2. 農業において殺虫剤、除草剤、抗菌剤は非常に重要ですが、過剰で土壌中に余った残留している農薬、殺虫剤、除草剤、抗菌材成分は食品安全、生態環境、人間の健康の観点から有害です。クロマトグラフィー、電気泳動、質量スペクトルなどの機器を用いて、残留農薬分などを測定することは可能ですが手間がかかります。これらの残留農薬成分を検出する例として、ダイアジノン、グリホサート、セミカルバジドの残留物が、量子ドットの蛍光を消失させ、センサーとして応用できたという研究報告があります。この実験においては、クロマトグラフィーの検出限界にも匹敵する0.25、0.5や2ng/mLぐらいの濃度でも検出可能であることも明らかになりました。他にも、トリアジン、芳香族含有殺虫剤成分、また重金属も炭素系ナノ材料で検出できたという報告もあります。つまり、この量子ドット型ナノ肥料を用いると、有毒、過剰な残留農薬、除草剤、重金属などを検出することが可能です。
3. 植物の生育に必要なZn(亜鉛)、Cu(銅)やFe(鉄)などの、金属元素成分を量子ドット型ナノ肥料に含有、担持させ、効率良く植物内に取り込ませることができます。
4. 増大する人口に対して、遺伝子組み換え食品は1つの選択肢です。遺伝子導入の方法としては、パーティクルガン法、アグロバクテリアによる形質転換などの手法がありますが、これらの手法が有効な作物種が限られている、細胞壁による形質転換の効率の低さ、植物組織へのダメージなどの課題があります。これに対し量子ドット型ナノ肥料を用いると、組み換え遺伝子、核酸を効率良く植物細胞内に届けることが可能になり、かつ発光するので追跡することも可能になります。プラスミドDNAやsiRNAを担持したナノ微粒子を、効率良く植物細胞内に導入できた研究報告もあります。
5. 葉の表面にある量子ドットが、太陽光中の紫外線の光を、より植物の成長が加速する青色や赤色の光に変換させ、植物の成長を加速できる可能性があります。
GSアライアンスとしては、この量子ドット型ナノ肥料の安全性の確認、及び上述の利点などを生かすべく、今後も研究開発を続けて、量子ドット型ナノ肥料の実用化、事業化を目指していきます。
■会社概要
商号 : GSアライアンス株式会社(冨士色素株式会社グループ)
代表者 : 代表取締役 森 良平博士(工学)
本社所在地: 〒666-0015 兵庫県川西市小花2-22-11
事業内容 : カーボンニュートラル、脱炭素、SDGs課題に取り組む環境、
エネルギー分野の最先端技術の研究開発
(国連のスタートアップ企業支援プログラムUNOPS GIC KOBEに2020年に採択)
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