【名城大学】Applied Physics Express の 「Spotlights 2023」に選出--半導体プロセスに導入しやすい加熱・加圧した水を使用して基板からAlGaN半導体層を剥離する技術とメカニズムを解明
2023.10.30 17:00
名城大学理工学部材料機能工学科の岩谷素顕教授、竹内哲也教授、上山智教授、名城大学理工学部応用化学科の丸山隆浩教授、三重大学大学院工学研究科の三宅秀人教授の研究グループは、高光出力の深紫外LEDや深紫外半導体レーザーを実現するために不可欠である、縦型AlGaN系深紫外半導体レーザーの開発に成功。さらに、半導体プロセスに導入しやすい加熱・加圧した水で基板剥離する技術を開発し、その基板剥離メカニズムも解明しました。
本研究成果は、2023年 10月11日に応用物理学会の国際論文誌「Applied Physics Express」に掲載されるとともに、同誌の“Spotlights 2023”に選出されました。Spotlightsは、応用物理学コミュニティの興味を引く可能性の高い論文を特別に紹介するもので、例年、20数件の論文が選出されています。なお、Applied Physics Expressに受理される論文数は、毎年350件前後です。
本研究成果は、2023年 10月11日に応用物理学会の国際論文誌「Applied Physics Express」に掲載されるとともに、同誌の“Spotlights 2023”に選出されました。Spotlightsは、応用物理学コミュニティの興味を引く可能性の高い論文を特別に紹介するもので、例年、20数件の論文が選出されています。なお、Applied Physics Expressに受理される論文数は、毎年350件前後です。
【本件のポイント】
・AlGaN半導体の半導体プロセスに導入しやすい加熱・加圧した水で基板剥離する技術を開発
・基板剥離メカニズムを解明
・本剥離技術はウェハーサイズの縦型デバイスプロセスが可能なため、高出力な深紫外LEDや深紫外半導体レーザーの実現につながることに期待
・AlGaN半導体の半導体プロセスに導入しやすい加熱・加圧した水で基板剥離する技術を開発
・基板剥離メカニズムを解明
・本剥離技術はウェハーサイズの縦型デバイスプロセスが可能なため、高出力な深紫外LEDや深紫外半導体レーザーの実現につながることに期待
【研究の背景】
波長が100~380 nmの電磁波は「紫外線」、波長が300 nm以下のものは「深紫外線」と呼ばれ、紫外線を放射するLEDや半導体レーザーは「紫外LED」「紫外半導体レーザー」と呼ばれます。これらの半導体デバイスは、殺菌、医療、バイオ、紫外線加工など多くの応用分野で使用され急速に高性能化が進んでいます。
LEDと半導体レーザーの特長は、コンパクトなサイズ(数mm程度)、長寿命、低消費電力、高効率、任意の波長のレーザー光を生成できること、希少材料を必要としないことなど、優れた特性を持っています。一方で、光出力は1つのチップで最大数百mWに制限されており、この光出力をどのように増強するかが重要な課題となっていました。
波長が100~380 nmの電磁波は「紫外線」、波長が300 nm以下のものは「深紫外線」と呼ばれ、紫外線を放射するLEDや半導体レーザーは「紫外LED」「紫外半導体レーザー」と呼ばれます。これらの半導体デバイスは、殺菌、医療、バイオ、紫外線加工など多くの応用分野で使用され急速に高性能化が進んでいます。
LEDと半導体レーザーの特長は、コンパクトなサイズ(数mm程度)、長寿命、低消費電力、高効率、任意の波長のレーザー光を生成できること、希少材料を必要としないことなど、優れた特性を持っています。一方で、光出力は1つのチップで最大数百mWに制限されており、この光出力をどのように増強するかが重要な課題となっていました。
LEDや半導体レーザーなどの半導体発光素子の光出力は、電子から光子に変換され、半導体外部に取り出される効率(これを量子効率と呼びます)と注入電流に依存します。デバイスへの電流注入を増加させるには、デバイスのサイズを拡大する必要があります。
現在のAlGaN系紫外半導体レーザーは、高品質の結晶を確保するためにサファイアやAlNなどの絶縁材料を使用し、またデバイス内で薄膜のn型AlGaNを横方向に電流が流れる図3のような横型デバイスを用いています。このようなデバイスでは、電流を均一に流すことが難しく、その結果、大型化しても注入電流を増加させることが難しい状況となっています。
現在のAlGaN系紫外半導体レーザーは、高品質の結晶を確保するためにサファイアやAlNなどの絶縁材料を使用し、またデバイス内で薄膜のn型AlGaNを横方向に電流が流れる図3のような横型デバイスを用いています。このようなデバイスでは、電流を均一に流すことが難しく、その結果、大型化しても注入電流を増加させることが難しい状況となっています。
この問題を解決するためには、図4に示すようにpn接合に対してp電極とn電極を対向配置した縦型デバイスの開発が必要でしたが、本研究グループがレーザーリフトオフ法を用いてUV-B LEDやUV-B半導体レーザーの開発に成功しています。(プレスリリース2023年10月17日配信
https://www.meijo-u.ac.jp/news/asset/a4e3f08ca263273c1a3edfd3dd9e9abd.pdf, 学術論文:https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/ad03ac)しかし、より大口径でかつ簡便な手法の確立が求められていました。
本研究では、加熱・加圧した水を使用することにより、図1のようにAlGaNやAlNをエッチングし、安定した剥離が可能であることを発見。さらに、この研究により、図2のようにそのメカニズムも解明しました。
【研究内容】
AlGaN系深紫外LEDや半導体レーザーの開発において、主要な課題は絶縁性基板からデバイスを剥離する技術の不確立でした。同じ材料系のGaNに対しては広く使用されているレーザーリフトオフ法がありますが、AlGaN系ではレーザーにより析出したアルミニウムの融点が高いため、安定な剥離が難しいという問題があり、新しい剥離方法の開発が必要でした。
本研究グループは、AlNをナノインプリント法により規則的に配置したパターンマスクを形成し、それをプラズマエッチングして周期的に配置されたAlNナノピラーを生成し、それの上にAlGaNを成長させる技術を開発しました。このAlGaNは高品質の結晶であり、UV-B領域の半導体レーザーなどに応用されています。
本研究では、AlNナノピラーを用いたAlGaNを、1.5気圧・135℃で加圧・加熱した水を使用して剥離する方法が可能であることを示しました。走査電子顕微鏡を用いて解析したところデバイスのサイドに相当するm面やa面のAlNやAlGaNは加圧・加熱した水によりエッチングされます。一方、デバイス表面に相当する+c面に関しては走査電子顕微鏡では全く反応は確認されませんでした。さらに試料表面の化学的な反応を原子レベルで解析することができるX線光電子分光法による詳細な分析により、+c面は加圧・加熱した水には反応しないことが解明されました。
つまり、デバイスの表面から水が結晶にほとんど影響を与えないにも関わらず、サファイア基板を剥離することが可能であることが明らかになりました。さらに、この手法は半導体プロセスで一般的に使用される水による洗浄を利用しており、プロセス温度は通常の半導体プロセスよりも低温(約135℃)で行えるため、高い汎用性があることも確認されました。
これらの成果はAlGaN系紫外発光素子の性能向上を可能にするプロセスと考えられ、そのために本論文は注目を浴びる価値のある研究としてSpotlightsに選ばれました。
【今後の展開】
縦型AlGaN系深紫外LEDや半導体レーザーは、デバイス・サイズを大きくしても均一に電流を流すことができ、1素子から1ワットを超える極めて高出力なレーザー光を得ることが期待できます。また、これらを集積化することで数十ワット~数百ワットの超小型光源の提供が可能で、バイオテクノロジー、皮膚病治療などの医療用途や、UV硬化プロセス、レーザー加工など工業分野への応用が期待されます。本研究の基板を剥離する技術により、高出力な深紫外LEDや深紫外半導体レーザーの実現につながるだけではなく、パワーデバイスやその他の技術への拡張も期待されます。
この成果の一部は、環境省「革新的な省CO2型感染症対策技術等の実用化加速のための実証事業/高効率・長寿命深紫外LEDの技術開発と細菌・ウイルス不活化および脱炭素効果の実証」、「JSPS科研費 22H00304」、「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」、「JST 研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム A-STEP 産学共同(本格型) JPMJTR201D」の支援を受けたものです。
【用語の解説】
1) LED(Light Emitting Diode):電圧を順方向(電流が流れやすい方向)に加えたときに発光する半導体デバイスの一種。LEDから放射される光は、波長や位相が一致しない自然光である。
2) 半導体レーザー:半導体に電流を流すことによって、光の波長や位相がそろったコヒーレンス(可干渉性)なレーザー光を放出できる半導体デバイス。コンパクト(~数mm)、長寿命(通常数万時間)、低消費電力、高効率、任意の波長のレーザー光が得られるなど、他のガスレーザーや固体レーザーに比べて優れた性能を有している。
3) 縦型デバイス:デバイスに対して電流を縦方向に流すデバイスのこと。電流を横に流す横型デバイスに比べ、電流経路が短く且つ素子に対して均一に電流を流せるため、レーザーに限らずLEDやパワーデバイスなど高出力化が必要な多くの半導体デバイスに適用されている。
4) 加圧・加熱した水:水の沸点は大気圧(1気圧)では100℃である。しかし、加圧すると沸点は上昇し、1.5気圧では約135℃である。よって、1.5気圧・135℃で加圧・加熱した水は液体状態であり且つ化学的に非常に活性な状態で存在している。
5) AlGaN:アルミニウム、ガリウム、および窒素を用いた化合物である。高品質な単結晶を得ることにより波長210 nmから365 nmの紫外線を放射することができ、近年紫外LEDや紫外半導体レーザー材料としてその応用が期待されている。
【論文情報】
掲載誌: Applied Physics Express
掲載日: 2023年10月11日
https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/acfec9
論文タイトル:Exfoliation mechanism of AlGaN-based thin films using heated-pressurized water
著者:Ryoya Yamada, Eri Matsubara, Ryosuke Kondo, Toma Nishibayashi, Koki Hattori,
Yoshinori Imoto, Sho Iwayama, Tetsuya Takeuchi, Satoshi Kamiyama, Takahiro Maruyama,
Hideto Miyake and Motoaki Iwaya
【お問い合わせ先】
名城大学 理工学部材料機能工学科 教授 岩谷 素顕
〒468-8502 名古屋市天白区塩釜口一丁目501番地
TEL:052-838-2430
E-mail:iwaya@meijo-u.ac.jp
三重大学 大学院工学研究科 電気電子工学専攻 教授 三宅 秀人
〒514-8507 三重県津市栗真町屋町1577
TEL:059-231-9401
E-mail:miyake@elec.mie-u.ac.jp
https://www.meijo-u.ac.jp/news/asset/a4e3f08ca263273c1a3edfd3dd9e9abd.pdf, 学術論文:https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/ad03ac)しかし、より大口径でかつ簡便な手法の確立が求められていました。
本研究では、加熱・加圧した水を使用することにより、図1のようにAlGaNやAlNをエッチングし、安定した剥離が可能であることを発見。さらに、この研究により、図2のようにそのメカニズムも解明しました。
【研究内容】
AlGaN系深紫外LEDや半導体レーザーの開発において、主要な課題は絶縁性基板からデバイスを剥離する技術の不確立でした。同じ材料系のGaNに対しては広く使用されているレーザーリフトオフ法がありますが、AlGaN系ではレーザーにより析出したアルミニウムの融点が高いため、安定な剥離が難しいという問題があり、新しい剥離方法の開発が必要でした。
本研究グループは、AlNをナノインプリント法により規則的に配置したパターンマスクを形成し、それをプラズマエッチングして周期的に配置されたAlNナノピラーを生成し、それの上にAlGaNを成長させる技術を開発しました。このAlGaNは高品質の結晶であり、UV-B領域の半導体レーザーなどに応用されています。
本研究では、AlNナノピラーを用いたAlGaNを、1.5気圧・135℃で加圧・加熱した水を使用して剥離する方法が可能であることを示しました。走査電子顕微鏡を用いて解析したところデバイスのサイドに相当するm面やa面のAlNやAlGaNは加圧・加熱した水によりエッチングされます。一方、デバイス表面に相当する+c面に関しては走査電子顕微鏡では全く反応は確認されませんでした。さらに試料表面の化学的な反応を原子レベルで解析することができるX線光電子分光法による詳細な分析により、+c面は加圧・加熱した水には反応しないことが解明されました。
つまり、デバイスの表面から水が結晶にほとんど影響を与えないにも関わらず、サファイア基板を剥離することが可能であることが明らかになりました。さらに、この手法は半導体プロセスで一般的に使用される水による洗浄を利用しており、プロセス温度は通常の半導体プロセスよりも低温(約135℃)で行えるため、高い汎用性があることも確認されました。
これらの成果はAlGaN系紫外発光素子の性能向上を可能にするプロセスと考えられ、そのために本論文は注目を浴びる価値のある研究としてSpotlightsに選ばれました。
【今後の展開】
縦型AlGaN系深紫外LEDや半導体レーザーは、デバイス・サイズを大きくしても均一に電流を流すことができ、1素子から1ワットを超える極めて高出力なレーザー光を得ることが期待できます。また、これらを集積化することで数十ワット~数百ワットの超小型光源の提供が可能で、バイオテクノロジー、皮膚病治療などの医療用途や、UV硬化プロセス、レーザー加工など工業分野への応用が期待されます。本研究の基板を剥離する技術により、高出力な深紫外LEDや深紫外半導体レーザーの実現につながるだけではなく、パワーデバイスやその他の技術への拡張も期待されます。
この成果の一部は、環境省「革新的な省CO2型感染症対策技術等の実用化加速のための実証事業/高効率・長寿命深紫外LEDの技術開発と細菌・ウイルス不活化および脱炭素効果の実証」、「JSPS科研費 22H00304」、「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」、「JST 研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム A-STEP 産学共同(本格型) JPMJTR201D」の支援を受けたものです。
【用語の解説】
1) LED(Light Emitting Diode):電圧を順方向(電流が流れやすい方向)に加えたときに発光する半導体デバイスの一種。LEDから放射される光は、波長や位相が一致しない自然光である。
2) 半導体レーザー:半導体に電流を流すことによって、光の波長や位相がそろったコヒーレンス(可干渉性)なレーザー光を放出できる半導体デバイス。コンパクト(~数mm)、長寿命(通常数万時間)、低消費電力、高効率、任意の波長のレーザー光が得られるなど、他のガスレーザーや固体レーザーに比べて優れた性能を有している。
3) 縦型デバイス:デバイスに対して電流を縦方向に流すデバイスのこと。電流を横に流す横型デバイスに比べ、電流経路が短く且つ素子に対して均一に電流を流せるため、レーザーに限らずLEDやパワーデバイスなど高出力化が必要な多くの半導体デバイスに適用されている。
4) 加圧・加熱した水:水の沸点は大気圧(1気圧)では100℃である。しかし、加圧すると沸点は上昇し、1.5気圧では約135℃である。よって、1.5気圧・135℃で加圧・加熱した水は液体状態であり且つ化学的に非常に活性な状態で存在している。
5) AlGaN:アルミニウム、ガリウム、および窒素を用いた化合物である。高品質な単結晶を得ることにより波長210 nmから365 nmの紫外線を放射することができ、近年紫外LEDや紫外半導体レーザー材料としてその応用が期待されている。
【論文情報】
掲載誌: Applied Physics Express
掲載日: 2023年10月11日
https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/acfec9
論文タイトル:Exfoliation mechanism of AlGaN-based thin films using heated-pressurized water
著者:Ryoya Yamada, Eri Matsubara, Ryosuke Kondo, Toma Nishibayashi, Koki Hattori,
Yoshinori Imoto, Sho Iwayama, Tetsuya Takeuchi, Satoshi Kamiyama, Takahiro Maruyama,
Hideto Miyake and Motoaki Iwaya
【お問い合わせ先】
名城大学 理工学部材料機能工学科 教授 岩谷 素顕
〒468-8502 名古屋市天白区塩釜口一丁目501番地
TEL:052-838-2430
E-mail:iwaya@meijo-u.ac.jp
三重大学 大学院工学研究科 電気電子工学専攻 教授 三宅 秀人
〒514-8507 三重県津市栗真町屋町1577
TEL:059-231-9401
E-mail:miyake@elec.mie-u.ac.jp
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