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岩塩構造酸化マグネシウム亜鉛を用いたUV-Cランプを試作  ―波長190nmから220nmでの発光を実証―

工学院大学(学長:伊藤 慎一郎、所在地:東京都新宿区/八王子市)と株式会社オーク製作所諏訪工場(社長:藤森 昭芳、所在地:長野県茅野市)による研究グループは、発光層に岩塩構造酸化マグネシウム亜鉛を適用することで、190nmから220nmの波長域で発光するUV-Cランプの構築に成功しました。



■ポイント

●新しい超ワイドバンドギャップ半導体として注目を集める「岩塩構造酸化マグネシウム亜鉛」を用いたUV-Cランプを世界に先駆けて試作し実証した。

●波長202nmをピークとするUV-C発光を観測した。酸化マグネシウム亜鉛の混晶比を変化させることで、更に短波長域のランプへの展開が期待される。

●「水銀に関する水俣条約」により使用制限に向けた取り組みが求められる低圧水銀灯の代替光源や、環境と人にやさしいUV-C光源として社会応用が期待される。



■研究代表者

工学院大学先進工学部応用物理学科 尾沼 猛儀 教授

株式会社オーク製作所研究開発部 芹澤 和泉 部長



■背景

波長280nm以下のUV-C光は、酸素やオゾンにより吸収されるため地表に降り注ぐ太陽光には存在しませんが、殺菌、水処理、空気清浄、微細加工、半導体プロセス、オゾン清浄、医療などに幅広く利用されています。最近では、207~222nmの深紫外光を選択的に照射することで、人の組織を損傷することなく空中浮遊のウィルスを不活化できることが解明され、人にやさしいUV-C光源として注目されています[1]。コロナ禍を経て、エアコン、空気清浄機などへのUV-C殺菌灯の普及が急激に進みました。地球温暖化によるここ数十年の気候変動は、人間の生活や自然の生態系にさまざまな影響を与えており、SDGsの取り組みの一環として、新たなウィルスの襲来に備える必要性が高まっています。

殺菌用として265nmや285nmの深紫外発光ダイオードが利用されています。これらのLEDは、窒化アルミニウムガリウム系の半導体を使って製作されています。窒化アルミニウムガリウムは210nmまで発光可能な材料ですが、実用に耐える外部量子効率(※1)が得られる波長域は230nm以上に制限されています。このため波長220nm以下の光源としては、低圧水銀灯やエキシマランプなどの放電ベースの光源が未だに主流となっています。前述の、人にやさしいUV-C光源(波長207~222nm)も、エキシマランプが採用されています[1]。低圧水銀灯は特例として認められているものの、水銀に関する水俣条約により将来的な使用制限に向けた取り組みが強く求められています。また、低圧水銀灯やエキシマランプは、元素により得られる波長が制限されます。このような背景から、環境と人にやさしい220nm以下の波長域の新たな光源の構築が求められています。



■研究の意義と成果

発光を担う材料には、新しい超ワイドバンドギャップ半導体(※2)として世界中から注目を集める「岩塩構造酸化マグネシウム亜鉛」を採用しました。岩塩構造(Rocksalt structured:RS)酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)は、酸化マグネシウム(MgO)と酸化亜鉛(ZnO)の混晶であり、混晶比を変化させることで、発光波長をUV-C域で自在に変化させることができます。結晶は、石英ガラス基板上へ堆積させますが、京都大学工学研究科 藤田 静雄 教授、金子 健太郎 講師にご助言を頂き[2]、「ホットウォール方式ミストCVD法」を使用しました。この方法は大気圧下で高品質な薄膜が成膜できることが特徴です。このとき、原料のマグネシウムと亜鉛のうち、マグネシウムのモル比(※3)は95%としました。

石英ガラス製のランプバルブを製作し、ランプバルブの開口端部にフリットガラス材を用いてRS-MgZnO多結晶膜を溶着しました(図1)。溶着後、放電ガスとしてKrガスを300Torr封入しました。製作したランプに9 kVp-pの電圧を印加し、誘電体バリア放電(※4)によりKr2エキシマ光(波長146nm)を発光させ、これを励起光としRS-MgZnO発光層から放出された光を裏面側から外部へ取り出しました。

真空紫外分光光度計(VUV-201、分光計器株式会社製)を使用し、Kr2エキシマ励起RS-MgZnOランプの試作品の発光特性を調べました(図2)。Kr2エキシマ光源からの漏れ光とともに、RS-MgZnOの微結晶由来の発光が観測されました。この発光のピーク波長は202nmでした。さらにこのピーク波長がRS-MgZnOの微結晶由来の発光であるかどうかを確かめるため、真空紫外分光システム(図3)を使用し、ランプで使用した膜と同条件で成膜した石英ガラス基板上のRS-MgZnO薄膜の、室温でのカソードルミネセンス(※5)を測定しました。比較から、カソードルミネセンスの発光波長はランプの発光波長とほぼ一致していることが分かりました(図4)。これらの結果から、RS-MgZnOを発光層としたUV-Cランプの動作実証に成功したことを確認しました。



■今後の展開

本研究の成果より、RS-MgZnOのUV-C発光材料としてのポテンシャルの高さを示すとともに、RS-MgZnOを応用したUV-C光源を世界に先駆けて試作し実証しました。今回はピーク波長202nmでしたが、岩塩構造酸化マグネシウム亜鉛の混晶比を変化させることで、更に短波長域のランプへの展開を目指します。また、環境と人に優しいという利点を生かし、医工連携事業などへの展開も行いたいと考えています。


本研究成果の一部は工学院大学総合研究所プロジェクト研究、科研費(#22K04952)、並びに京都大学工学研究科 藤田 静雄 教授、金子 健太郎 講師らとの研究グループで実施した科研費(#20H00246)の成果として得られたものです。


参考文献

[1] D. Welch, M. Buonanno, V. Grilj, I. Shuryak, C. Crickmore, A. W. Bigelow, G. Randers-Pehrson, G. W. Johnson, and D. J. Brenner, Sci. Rep. 8, 2752 (2018).

[2] W. Kosaka, S. Hoshi, K. Kudo, K. Kaneko, T. Yamaguchi, T. Honda, S. Fujita, and T. Onuma, Phys. Status Solidi B 259, 2100354 (2022).



■講演情報

本研究成果は、2024年3月22日から25日に開催される第71回応用物理学会春季学術講演会において、注目講演に選出されました。


講演番号:23a-31A-7

題目  :190-220nmで蛍光するKr2エキシマ励起岩塩構造MgZnOランプの開発

所属  :1.工学院大、2.オーク製作所、3.京都大

著者  :小川 広太郎1,2、矢島 英樹2、小林 剛2、高坂 亘1、日下 皓也1、

     三富 俊希1、山口 智広1、本田 徹1、金子 健太郎3、藤田 静雄3、

     芹澤 和泉2、尾沼 猛儀1


応用物理学会のプレスリリースは下記をご参照ください。

https://meeting.jsap.or.jp/highlighted



■用語解説

(※1) 外部量子効率:LEDの発光層に注入される電子・正孔数に対する外部へ放出される光子数の割合

(※2) 超ワイドバンドギャップ半導体:バンドギャップが4eV(電子ボルト)以上の半導体

(※3) モル比:原料の元素をモル数で表したものの割合

(※4) 誘電体バリア放電:絶縁体である誘電体の間に交流電圧を印加し放電する方法

(※5) カソードルミネセンス:Cathodoluminescence:CL、物質が電子のエネルギーを受けて発光する現象


図1. Kr2エキシマ励起RS-MgZnOランプの構造。

図2. 真空紫外分光光度計による発光スペクトルの測定。

図3. RS-MgZnO 膜のCL スペクトル測定で使用した真空紫外(Vacuum ultraviolet: VUV)分光システム。

図4. (a) Kr2 エキシマ励起RS-MgZnO ランプの発光スペクトルと、(b) 石英ガラス基板上に成長したRS-MgZnO 膜のCL スペクトルの比較。

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