新しい強誘電体の開発に向けて ~高圧合成とマテリアルズ・インフォマティクスの協同~
2024.04.25 15:15
芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)工学部先進国際課程・山本文子教授らの研究チームは、一般財団法人ファインセラミックスセンター、東北大学、学習院大学、東京大学との共同研究において、多種多様な物性を示すことから「機能の宝庫」と言われるペロブスカイト型化合物に、通常では導入が困難なルビジウムという大きな金属イオンを取り込む方法を開発しました。これにより、理論的には高い性能が予想されているにもかかわらず合成が困難であった、ニオブ酸ルビジウムの逐次相転移を明らかにし、新しい誘電体や圧電体の設計指針を立てることが可能となりました。
今後、高圧合成とマテリアルズ・インフォマティクス*とを組み合わせることで、さらに新しい物質の提案を精度良く行うことができると期待されます。
※この研究成果は、「Dalton Transactions」誌に掲載されています。
ポイント
・強誘電体チタン酸バリウムと同型のペロブスカイト型ニオブ酸ルビジウムを高圧法により合成
・ペロブスカイト型ニオブ酸ルビジウムが、300-400℃で、高誘電率が見込まれる強い歪み構造であることを解明
・高圧合成とマテリアルズ・インフォマティクスの協同が材料探索に有効であることを提示
ペロブスカイト型ニオブ酸ルビジウムの加熱による結晶構造の変化 正方晶2では強い歪みによる高い誘電率が見込まれる
■研究の背景
コンデンサーは、パソコン、スマホなど多くのデバイスに欠くこのとのできない電子部品の一つです。より高い性能を実現すべく、企業を中心に研究開発が進み、国内でも大量に製造されています。現在、実用コンデンサーのほとんどはチタン酸バリウムで、約80年前に発見されて以来、これを凌ぐ物質は得られていません。製造技術や加工技術の改良は、すでに十分に行われており、ブレークスルーには別の新たな物質が必要と言えます。また、チタン酸バリウムは室温付近の特性は良いものの120℃以上で特性が低下するという結晶構造に起因する課題を抱えています。近年新たに開発された理論的、実験的手法を組み合わせることで新物質が合成され、この課題が解決されることが期待されています。
■研究の概要
山本研究室では、従来から、高圧合成法を用いた新物質開発に取り組んできました。この方法の利点は、常圧では存在しない物質を圧力下では安定化させることができる点にあります。物質を高温高圧の状態から急冷することで、高圧相を常圧下にも取り出すことが可能となります。また、通常の合成法では揮発しやすい元素(今回の場合、ルビジウム)を試料セル内に閉じ込めて揮発を抑えることもできます。本研究では、ペロブスカイト型ではない常圧相ニオブ酸ルビジウムを4万気圧、900℃、30分という条件で熱処理することにより、直方晶ペロブスカイト型のニオブ酸ルビジウムを得ました。同型のチタン酸バリウム並びにニオブ酸カリウムは強誘電体ですが、誘電特性と結晶構造が密接に関係していることが知られています。そこで今回、ペロブスカイト型ニオブ酸ルビジウムの温度変化による構造変化をマイナス268℃からプラス800℃までの広い範囲でX線回折法を用いで調べました。その結果、室温以下では構造変化はないものの[2]、220℃以上で正方晶ペロブスカイトに、300℃以上でより縦に伸びた形の第2正方晶ペロブスカイトに変化し、420℃以上では、ペロブスカイトでない常圧相へと戻りました。この一連の相転移は、第一原理計算から予測された構造安定性でよく説明でき、特に、第2正方晶は、負の圧力(熱膨張に相当)を与えた計算から得られた結晶構造と一致しました。今回得られた高圧相は、ニオブ酸カリウムと同等の強度の第2高調波発生が観察されることから、極性を有する構造であることが確認され比較的高い比誘電率も得られました。誘電率に関しては、理論計算から予想されるように、今後試料密度を高めることでニオブ酸カリウムと同等あるいは、それ以上の値が得られることが期待されます。今回、5研究機関がそれぞれの強みを生かして共同研究を行ったことにより、材料特性を総合的に評価できたことに大きな価値があります。
■今後の展望
本研究で、高圧法を用いればイオンサイズの大きいルビジウムイオンがペロブスカイト型構造に取り込まれることが確認できました。これを応用するとさらに大きいセシウムイオンの取り込みも可能となります。こうしたアプローチは、理論計算グループとの連携を深めることで効率的に実現でき、強誘電体もみならず、鉛を含まない圧電体の設計や開発にも展開が可能です。また、高圧合成で実現した物質を薄膜で安定化することができれば、その応用範囲は格段に広がります。
*機械学習や理論計算を用いることで、さまざまな材料開発の効率を高める手法
■論文情報
著者:
山本文子 (芝浦工業大学工学部先進国際課程教授)
村瀬公俊、佐藤健 (芝浦工業大学国際理工学専攻修士2年、同修了生)
杉山和正、川又透 (東北大学金属材料研究所教授、同助教)
稲熊宜之 (学習院大学理学部教授)
山浦淳一 (東京大学物性研究所准教授)
設樂一希、横井里江(一般財団法人ファインセラミックスセンター研究員)
森分博紀 (一般財団法人ファインセラミックスセンター主席研究員)
論文名 :
Crystal structure and properties of perovskite-type rubidium niobate, a high-pressure phase of RbNbO3
掲載誌 :Dalton Transactions
ページ番号:Dalton Transactions, 2024, 53, 7044 - 7052
DOI :10.1039/d4dt00190g
参考文献 :
[1] J. A.Kafalas, NBS Spec. Pub. No 364, 287 (1972)
[2] M. Fukuda and K. Yamaura , J. Ceram. Soc. Jpn., 131, 126(2023)
■研究助成
本研究の一部は、防衛装備庁が実施する安全保障技術研究推進制度JPJ004596、並びに大倉和親記念財団の研究助成の支援を受けたものです。また、東北大学金属材料研究所GRIMTプログラム(202212-RDKGE-0018)、東京大学物性研究所外来利用プログラム(202306-MCBXG-0079)の一環で研究を実施しました。
<配信先>
@Press、宮城県政記者会、東北電力記者クラブ、中部経済産業記者会、経済産業記者会
芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約9,500人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行し、従来の教育の在り方を根本から変えていきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます
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JFCCは1985年に通商産業省(現・経済産業省)の新素材振興策の一環として、ファインセラミックスに関する研究、試験、評価を行う公益法人(財団法人)として設立され、2020年5月に35周年を迎えました。2007年には、JFCCの二つ目の研究所として、「ナノ構造研究所」を設立し、「材料技術研究所」との連携により、「微構造解析技術」、「計算材料設計技術」および「新材料開発技術・材料解析技術」とが三位一体で相乗効果を発揮して、ファインセラミックスを中心に金属、高分子、複合材料など新しい材料分野について幅広く研究開発を進め、多様化・高度化する産業界のニーズにお応えし、我が国の産業振興に貢献しています。
東北大学金属材料研究所とは
東北大学金属材料研究所、通称 “金研(KINKEN)”は、本多光太郎博士によって東北帝国大学内に臨時理化学研究所第2部として1916年に発足して以来、100年を超える歴史を誇る研究所です。本研究所は、「金属をはじめ、半導体、セラミックス、化合物、有機材料、複合材料などの広範な物質・材料に関する基礎と応用の両面の研究により、真に社会に役立つ新たな材料を創出することによって、文明の発展と人類の幸福に貢献する」ことを理念とし、その実現のために500名近い教職員・研究員・大学院生によって「材料科学に関する学理の探求と応用研究」を行っています。
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