日本人初、女子高校生がCERN(スイス・ジュネーブ)で素粒子...

日本人初、女子高校生がCERN(スイス・ジュネーブ)で 素粒子実験を終了

加速キッチン合同会社がサポートしている高校生5名のチームSakura Particlesが2024年9月11日から9月25日まで世界最大の加速器施設CERN(注釈1、スイス・ジュネーブ)において素粒子実験を実施しました。本実験はCERNが主催する高校生向けコンテストBeamline for Schools 2024年最優秀賞受賞に伴い実現したもので、日本の中高生が大型加速器施設で素粒子実験を行うのは初めての快挙になります。


図1 Sakura Particlesの集合写真


■背景

CERNでは年に1回、世界中の高校生を対象にした国際素粒子実験コンテストBeamline for Schools(注釈2)を実施しています。コンテストでは、CERNまたはDESY(注釈3、ドイツ電子シンクロトロン)での加速器ビームラインを利用した実験提案書を全て英語で提出し、その内容について審査されます。今年度は過去最高461件の申し込みがあり、日本(Sakura Particles)、エストニア(Mavericks)、アメリカ(SPEEDers)の3チームが最優秀賞に採択されました。

最優秀賞に採択されたSakura Particlesのメンバーは以下の通りです。


松下 千穂里(まつした ちおり、女子学院高等学校、高校2年生)(リーダー)

中学2年生から高エネルギー宇宙線探索を目指した宇宙線シャワーの観測に取り組む。

- JSEC2023 入選(小型宇宙線検出器Cosmic Watchを使用した超高エネルギー宇宙線探索)

- 理化学研究所・仁科加速器科学研究センター学生Webライター

https://www.nishina.riken.jp/ouen/report6.html


貫輪 美博(ぬきわ みひろ、埼玉県立川越女子高等学校、既卒)

高校1年生から陽子線によるがん治療時の線量分布測定シミュレーションを中心として研究を実施。2023年度にSakura Particlesを結成してBeamline for Schools 2023 shortlist入り。

- ハイスクールラジエーションクラス2022 奨励賞(散乱陽子を用いた線量分布の可視化)


澤井 愛実(さわい まなみ、神奈川県立川和高等学校、高校3年生)

高校1年生から霧箱と検出器を組み合わせて、検出器を通過した放射線の自動撮像・分類機能を開発。

- サイエンスキャッスル2022 関東大会優秀賞(霧箱と宇宙線検出器の同期による宇宙線観測)

- ハイスクールラジエーションクラス2022 最優秀賞(霧箱で見る放射線と宇宙線の世界)


佐々木 柚榎(ささき ゆずか、大阪府立北野高等学校、高校1年生)

中学1年から、GOES衛星の地磁気・太陽風データと宇宙線到来頻度の相関の研究を行い、中学3年からシンチレーションの発光の汎用カメラでの撮像に取り組む。

- 日本動物実験代替法学会 チャレンジコンテスト2023 優秀賞

- ハイスクールラジエーションクラス2023 優秀賞(身近なカメラを用いたシンチレーション光の観察)


跡部 蒼(あとべ あおい、順天高等学校、高校2年生)

高校1年生から京都大学の雷雲プロジェクトと共同して雷雲からのガンマ線観測に取り組む。2024年7月からアメリカのLangmuir Laboratoryに3週間滞在して国際共同研究として雷雲ガンマ線を観測。

- トビタテ!留学JAPAN 新・日本代表プログラム2024年度(第9期)採択


また、現地引率者として、加速キッチン代表社員田中 香津生(早稲田大学理工学術院総合研究所、主任研究員(研究院准教授))と学生指導メンター河野理夏子(The Australian National University・修士1年)が同行しました。

また、Beamline for Schoolsへの応募から採択後の準備まで、装置の開発および調整に関して、ERATO 片岡ラインX線ガンマ線イメージングプロジェクトを通じて早稲田大学から実験環境の提供を戴きました。


■実験内容

今回、Sakura Particlesが提案したのは、自分たちで開発した手作りの宇宙線2次元イメージング検出器の性能評価です(図2)。本検出器の開発は宇宙から降り注ぐ高エネルギーのミュー粒子(注釈4)を使って地球上の大型構造物の内部を透視する技術「ミュオグラフィ(注釈5)」への応用を目標にしています。このようなイメージング検出器は一般的に大型で高価ですが、Sakura Particlesは独自の工夫で、安価にミュー粒子の軌跡を測定することが可能な検出器の開発に成功しました(図3)。


図2 開発した検出器


図3 検出器の説明


CERNでは、宇宙から降り注ぐ宇宙線を模擬して人工的に光の速さの99%以上の高エネルギーミュオンビームを生成が可能なため、そのミュオンビームを自作した検出器に照射し、2次元方向のイメージング性能を検証しました(図4)。


図4 CERNでの実験内容


■成果

CERNの現地滞在は9月11日(水)から26日(木)です。滞在中のスケジュールは以下の通りです。


スケジュール(スイス・ジュネーブ)

9月11日(水)~9月15日(日) 現地到着、施設見学および利用案内など

             実験準備・データ解析練習・ワークショップ

             全チームとの打ち合わせ等

9月16日(月) Beamline for Schools 10周年記念式典

       各チーム(Sakura Particles、Mavericks、SPEEDers)

       生徒たちによるプレゼンテーション

       各チーム国大使による祝辞

       (日本からは在ジュネーブ国際機関

       日本政府代表部尾池厚之特命全権大使)

       生徒たちによる実験施設内での実験内容紹介

9月16日(月)~9月25日(水) ビームライン実験

             データ解析等

             全チームとの打ち合わせ等

9月26日(木) 現地出発



■実験結果

二次元検出器の異なる13点に対してビーム照射を行いました。そのうち6点について現地で解析を行い、想定していたビーム位置を再構成できることを確認できました(図5)。

残りの測定点に対しても帰国後解析を行い、最終的な検出器の位置決定精度を評価する予定です。


図5 CERNでの実験結果


図6 検出器の最終確認


図7 検出器の設置の様子


図8 データ解析


■今後について

今後については、引き続き、Sakura Particlesメンバー主体で実験結果をまとめ、物理教育関係雑誌への論文投稿、2024年12月に実施されるアメリカ地球物理学連合(AGU)での高校生向けポスター発表Bright STaRS programへのオンライン参加、中高生のミュオグラフィ等の探究活動への活用などを予定しています。

今後の成果も加速キッチンwebサイトやSNSで紹介していく予定です。


<注釈>

CERN:欧州合同原子核研究機関。1949年に創立されたスイス・ジュネーブにある世界最大の加速器施設。同施設のLHC加速器では2013年にノーベル賞を受賞したヒッグス粒子の発見に貢献している。

Beamline for Schools(BL4S):大型加速器施設であるCERN(スイス)とDESY(ドイツ)によって行われている高校生国際素粒子実験コンテスト。採択されたチームは旅費・滞在費支給の上で現地に招待され、2週間かけて提案した素粒子実験を研究者とともに行うことができる。今年度は461件の申し込みがあり、日本、エストニア、アメリカの3チームが採択された。

DESY:ドイツ電子シンクロトロン。1959年にハンブルクに創立された、高エネルギー加速器・高エネルギー物理学の研究所。

ミュー粒子:電子に似た素粒子で1936年、宇宙から降り注ぐ宇宙線として発見された。現在では宇宙線を使った透視技術「ミュオグラフィ」などに加えて、大型加速器で人工的に大量につくれるようになり、様々な応用がはじまっている。

ミュオグラフィ:宇宙から降り注ぐ高エネルギーのミュー粒子を用いた透視技術。エジプト・クフ王のピラミッドの中心部に未知の巨大空間を発見するなど、次世代技術として注目されている。


<関連リンク>

CERNプレスリリース(英語)

https://home.cern/news/news/cern/students-estonia-japan-and-usa-win-11th-edition-beamline-schools-


加速キッチン探究事例

「二次元検出器の開発とCERN(スイス)でのビーム実験」

https://accel-kitchen.com/sakura-particles/


Beamline for Schools(英語)

https://beamlineforschools.cern/


実験提案書

その他ファイルの実験提案書

https://www.atpress.ne.jp/releases/409150/att_409150_1.pdf


加速キッチン

https://accel-kitchen.com/

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