前立腺がん多発骨転移患者に対するANK療法著効例が論文掲載 PD-L1陽性がバイオマーカーとなり得る可能性を示唆
リンパ球バンクがANK療法のための培養センターを提供
2024.12.02 12:45
ANK自己リンパ球免疫療法(以下、ANK療法)による前立腺がん多発骨転移患者に対する著効例がJournal of Clinical and Medical Images(JCMI)に掲載されました。ANK療法は米国国立衛生研究所NIHが大規模臨床試験で有効性を実証したLAK療法(ニューイングランド ジャーナル オブメディシン https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3493432/ )を改良したもので、LAK療法がそうであったように、原理的にはがんの種類によらず血液がんでも固形がんでも有効と考えられる治療として開発されました。今回、医療法人えびのセントロクリニックの長井賢次郎医学博士は、固形がんにおける有効症例を示した上でPD-L1をバイオマーカーとして用いることで、治療効果の高い症例を選別し、より効率的に治療を行うことができる可能性を示唆しているとされています。
ナチュラルキラー(NK)細胞はNIHの研究者らによって、事前に標的情報を与えなくても、がん細胞の種類を問わず傷害する細胞として発見されたもので、自然免疫(生まれながらに備わる免疫)系の「殺し屋」の意味でナチュラルキラーと命名されたものです。ANK療法は、どのようながん細胞でも傷害するNK細胞本来の特性を損ねることのないように、人体から取り出されたNK細胞をそのまま活性化した上で増殖させたもので、原理的にはあらゆるがん治療に使えるものと考えられてきました。これまでの論文報告で、ATLや悪性リンパ腫などの血液がんに対しては、ANK療法が既存の治療法よりも有効で、副作用も圧倒的に少ない症例が示されています。長井医学博士は、ANK療法はPD-L1を発現する腫瘍細胞に対してより有効性が高いのではと考えられ、今回、PD-L1陽性細胞が多数存在することが確認された前立腺がん骨転移症例を発表することで、ANK療法の高い有効性を示しました。なお、今回の症例は手術不能例で多発骨転移、ホルモン療法も副作用によって継続できなかったケースであり、通常なら予後極めて不良と考えられるケースです。
この症例報告は、ANK療法の普及を推進するリンパ球バンク株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:原田 広太郎)が運営する細胞培養センターを利用し、医療法人えびのセントロクリニック(宮崎県・えびの市)理事長 医学博士 長井賢次郎先生らが発表したものです。
【論文】
Case Report
A Case of Prostate Cancer with Multiple Bone Metastases in which Standard Treatment
was Ineffective but Remission was Achieved with Amplified Natural Killer Cell Therapy,
and the Usefulness of PD-L1 Positivity as a Biomarker for Solid Tumors
Nagai K, Nagai S, Okubo Y and Teshigawara K
Journal of Clinical and Medical Images
Published: 19 Nov 2024
ISSN: 2640-9615 Volume 8
https://clinandmedimages.org/wp-content/uploads/2024/11/JCMI-v8-1799-1.pdf
ANK療法は、本来の(LAK)免疫療法の安全性と有効性をさらに向上させた治療法である。患者自身の血液からナチュラルキラー(NK)細胞を抽出し、培養・増幅して、がんを特異的に攻撃する能力を高め、治療に戻す方法である。理論上はすべてのがんに有効である。筆者はATLや悪性リンパ腫に対してANK療法が有意に有効であった症例を経験し報告している。
今回、固形がん前立腺がんの多発性骨転移を有する高齢患者にANK療法が有効であり、多発性骨転移がすべて改善し、PSAも改善した症例を報告する。進行固形がん患者は化学療法が治療の中心であり、高齢患者や腎不全患者、心不全患者は治療できない。ATL症例だけでなく一部の固形がん症例にもANK療法は非常に有効であるとされているが、非常に有効な症例とそうでない症例がある。症例組織学や研究報告からANK療法の作用機序を考察すると、PD-L1陽性腫瘍細胞を効果的に殺すため、PD-L1陽性腫瘍細胞が多いATLに有効であると考えられる。リンパ腫、胃がん、肺がん、乳がん、前立腺がんなど一部の固形がんにはPD-L1陽性腫瘍細胞が多く見られる。今回の症例では組織染色により予想通りPD-L1が陽性であることが確認された。PD-L1をバイオマーカーとして高値を示すものを治療することで、既存の治療よりも副作用が少なく、より効果的で安全な治療を提供できる可能性がある。
PD-L1陽性がANK療法の有効性のバイオマーカーとなり得ることを証明した初めての報告となる。
(医療法人えびのセントロクリニック 理事長 医学博士 長井賢次郎先生)
■免疫細胞療法で白血病は治療できないと言われている理由
一般的に、免疫細胞療法では白血病を治療できないと言われています。理由は、白血病の場合、培養のために血液から免疫細胞を採取した時点でがん細胞が混入します。培養中に混入がん細胞が増殖し、それを患者さんに戻すことに問題があるためです。研究目的で、混入がん細胞を洗浄除去した後や、モガムリズマブ等の薬剤治療による寛解後に免疫細胞を培養するケース。あるいは承認取得したものとして混入がん細胞を除去して培養が行われるCAR-T療法などがありますが、前処理を行わず臨床上の実用レベルで白血病を治療できる免疫細胞療法はANK免疫細胞療法以外には見当たりません。
ANK療法でも採取した血液に混入するがん細胞があまりに多いと培養は無理ですが、混入がん細胞があるレベル以下であれば、培養中ATL細胞をPCR検査で検出できないレベルに減少させることが別の論文で報告されています。
【論文】
Case Report
Successful Amplified-Natural-Killer Cell (ANK) Therapy Administered to a Patient with Smoldering Adult T-Cell Leukemia in Acute Crisis
Teshigawara K, Nagai S, Bai G, Okubo Y, Chagan-Yasutan H, Hattori T. MDPI Reports 1(2):13, 2018. Doi.10.3390/reports1020013
■ANK自己リンパ球免疫療法(ANK療法)
患者さんご自身の血液を5~8リットル、成分採血等に用いる装置で体外循環させ、血液に含まれるリンパ球を選別して、採り出します。その中のNK細胞を高度に活性化すると同時に選択的に増殖させます。高度に活性化されたNK細胞は、がん細胞を傷害する爆弾のような小胞体を細胞内に大量に抱えるため、細胞分裂の際に爆弾が破裂し、自爆しやすい傾向があります。
そのため、臨床上の実用として意味のあるレベルの活性化と増殖の両立は難しいとされてきましたが、京都大学の研究者2名がこの難題をクリアし、活性と増殖、両方の意味を込めて増強された=Amplified NK(ANK)と名付けました。この治療で進行がんを克服した患者と、研究者らが、2001年にリンパ球バンク株式会社を創業しました。
治療では、培養されたANK細胞を点滴で体内に戻します。がん細胞を攻撃するのが本職のNK細胞の機能をそのままに、直接がん細胞を傷害する上、大量の免疫刺激物質を放出することで、体内のNK細胞の活性化も促します。この時放出される免疫刺激物質はほとんどが発熱を誘導する性質を持つため、点滴後一過性ですが悪寒や高熱などの副反応が出ます。
【免疫細胞の培養法別FCM分類】
免疫細胞の培養法別FCM分類
■免疫細胞療法の背景と特徴
強力な免疫刺激によりがんが消失することがある、あるいは免疫抑制剤の大量投与によりがんが異常増殖する、といった様々な現象から、私たちの体内にはがん細胞を強力に傷害する免疫細胞が存在すると考えられてきました。1970年代、T細胞や樹状細胞、マクロファージ等は、既に知られていましたが、がん細胞への反応はそれ程でもなく、もっと強い細胞の探索が精力的に行われた結果、活性が高ければどのようながん細胞でも出会ったその場で直ちに攻撃するリンパ球が見つかり、ナチュラルキラー(NK)細胞と名付けられました。がん細胞を認識する専用センサーを多種大量に備え攻撃力も強く、体内の存在数も1000億個レベルと非常に多い腫瘍免疫の主役が発見されたのです。今日では、がん患者体内のNK細胞は活性が低下しており、がん細胞の増殖を許してしまっていることが知られています。
米国国立衛生研究所(NIH)では、数十リットルという大量の血液からNK細胞を体外に採り出し、強く刺激してから患者体内に戻す免疫細胞療法の大規模臨床試験を実施、抗がん剤が奏効しないがん患者数百名全員に何らかの効果を示しました。3日以上培養すると増殖に伴って活性の高いNK細胞が自爆を起こしやすくなるため、培養期間を3日間に制限しました。また、大量の活性化されたNK細胞を体内に戻すと、大きな腫瘍が壊死を起こし、腫瘍内部のカリウム等が大量に放出され、心停止などのリスクがありました。そのため、治療はICUを占拠し体液コントロールを行いながら実施され、非現実的なコストがかかり実用化は無理でした。
NK細胞は培養が非常に難しく、活性を高めないと役に立ちませんが、増殖が始まると強い攻撃力ゆえに自爆を起こし易いという問題があります。京都大学の研究者二人が、米国法の限界を超えて、NK細胞の活性化と増殖を同時に実現するANK自己リンパ球免疫療法(ANK療法)を開発し、小規模な臨床試験を経て一般診療を始めました。ANK免疫細胞療法1クールは、NK活性においても、NK細胞数においてもNIH法を上回るため、一度に体内に戻すと大きな腫瘍が壊死を起こすリスクがあります。そこで、培養細胞は凍結保管され、1クールを12回に分け融解・再培養を行いながら、原則、週2回ずつに分割投与することで、クリニックでの通院治療が可能な安全性を確保しました。但し、今回論文発表されたケースでは患者の状態等も考慮し、通常投与量の半分の細胞数に分割し治療を行ったため、論文に記載のある1回当たりの投与細胞数は標準量の半分となっています。
【各々の治療法で培養した細胞傷害活性比較】
各々の治療法で培養した細胞傷害活性比較
国内で広く普及している「一般法」による免疫細胞療法では点滴後に若干の微熱等を除き強い免疫副反応は見られませんが、ANK療法は、強い免疫刺激の結果として、40度前後の発熱を伴います。なお、近年、遺伝子改変を伴うCAR-T療法が承認取得し保険適応となっていますが治療対象となるがんの種類が限られ、また激しい副作用を伴います。
なお、研究用に用いられるNK細胞は特殊な選別を経たものであり一般にMHCクラスIを発現しない標的細胞しか攻撃しない。一方、人体から取り出したばかりのNK細胞を適切に刺激し活性化すれば、MHCクラスIの発現の有無にかかわらず相手が腫瘍細胞であれば強く傷害する。例として標的腫瘍細胞にMHCクラスI(-)のK562細胞と、MHCクラスI(+)のDaudi細胞を選んだ。
標準治療では、がん細胞が飛び散ってしまうと一般に予後不良です。体内に分散するがん細胞を追いかけ、一つずつ仕留めるNK細胞をがん治療に活用することは、進行がんの治療において重要な鍵を握ると考えられています。
■リンパ球バンク株式会社の概要
○本社 : 東京都品川区西五反田1-25-1 KANOビル8階
○代表者 : 代表取締役社長 原田 広太郎
○資本金 : 67百万円
○設立 : 2001年1月 京都大学発ベンチャーとして設立
○事業内容: ANK自己リンパ球免疫療法総合支援サービス
○URL : https://www.lymphocyte-bank.co.jp/
○企業理念
リンパ球バンク株式会社は、ANK療法を開発した医師と治療を受けた患者を中心に創業され、経営している企業です。
一人でも多くのがん患者にとって治療の選択肢が広がる状況を築いていきます。
科学的根拠に基づいたオーソドックスな考え方で治療システムを開発・提案します。
高度で複雑な生命システムを謙虚にみつめ、細胞加工技術や免疫制御技術を過信せず、細胞本来がもつ能力をありのまま引き出すことを工夫します。
がんの予防や治療における免疫の重要性への認知を広めることで、免疫細胞療法が社会システムに組み込まれ、より多くの患者が治療を受けられる機会を広げます。