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高度化したエア霧化で塗着効率85%を実現! 日本のカーボンニュートラルに貢献する プラスチック部品用の超高塗着塗装技術の開発に成功。

久保井塗装株式会社は、経済産業省の令和4年度『成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)』補助金を受け、大学や塗装機器メーカー、塗料メーカーと共同開発して塗着効率85%以上を実現しました。

企業動向
2025年2月28日 09:30
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久保井塗装株式会社(埼玉県・狭山市/窪井 要社長)は、従来の塗装機器、塗料、塗装ロボットではスプレーガンから吐出した塗料のうち40~50%程度までしか製品に塗着することができなかったプラスチック部品の塗装技術を高度化し、超高塗着に特化した塗装機器、塗料、塗装ロボットシステムを開発することで塗着効率85%以上を実現しました。この研究開発は、経済産業省の令和4年度『成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)』補助金を受け、東京都立大学・株式会社明治機械製作所・武蔵塗料株式会社と共同開発した新技術です。

開発した『超高塗着塗装システム』は、85%の高い塗着効率を実現しながら、静電気を使わない高度化したエア霧化技術のため、絶縁体であるプラスチック部品を塗ることができ、エア霧化だからこそ実現できる高い外観品質を持ち、メタリック塗装やマット塗装など、幅広い塗料に対応できます。


また、従来のスプレー塗装に比べてブースの風量を抑えることができるため騒音低減効果があり、廃棄塗料や消費電力を減らす省エネ効果があるためカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実現に貢献できます。


超高塗着塗装システムの特徴

超高塗着塗装システムの特徴


<塗装を取り巻く社会環境>

塗装は、錆や紫外線による製品の劣化を防いて耐用年数(ライフサイクル)を飛躍的に延長したり、色やツヤ及び機能を与えて製品の付加価値を上げることができる一方で、使用される塗料は主に石油化学製品のため、製造から廃棄までのCO2発生が大きな社会問題となっています。

2015年のパリ協定以降、世界はCO2発生を抑制する大きな変革の中にあり、2050年までにエネルギー源としての石油の採掘や使用を止めようとしています。エネルギー需要によって採掘されている石油が使われなくなるということは、副産物ともいえる塗料もいずれ石油化学製品でないものに置き換わっていくことを意味します。その過程においては原料としての希少性が高まって、塗料は現在のような価格での取引はできなくなると予想されています。もちろん、塗料メーカー各社は石油由来ではない塗料の開発に取り組んでいますが、完全に置き換えるには、まだ解決すべき課題は多くあります。

しかし、地球環境に負荷がない新世代の塗料が普及するまでの間も、カーボンニュートラル(CN)の実現に向かっている世界からはCO2の削減・抑制を求められていて、自動車産業界では2035年がひとつの達成期限と目されています。そして自動車産業を主要顧客のひとつとする塗装業界もCO2の削減・抑制という要求に応えていく必要がありますが、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルを目指している自動車メーカーも多いので中小企業でも自動車部品を塗装している工場なら避けて通れない課題です。そして、その解決方法として、塗着効率の向上は極めて重要なアプローチです。無駄になる塗料の量が減れば、塗料(材料)やVOC(揮発性有機化合物)を抑えることができますし、CO2排出量をおさえると同時に、ブーススラッジや、VOCが引き起こす光化学オキシダントを減らすこともできます。もちろん高騰していく原材料費を低減できることは企業として利益率の改善にもつながります。



<従来技術の問題点>

工業塗装において、とりわけプラスチック部品の塗装現場では、塗膜の仕上がり品質や作業性により液体塗料を微粒化して塗布するスプレー塗装が採用されています。液体塗料の微粒化にはいくつかの原理的方策があって、従来最も普及しているエア霧化方式は、液体塗料を霧化するために高圧の圧縮空気をノズルの先から塗料とともに吐出することによって、均質で外観評価レベルの高い塗膜を形成します。品質面や作業性は良いですが、環境負荷の視点で見ると塗着効率が低く無駄にしている塗料が多すぎます。

従来最も一般的な技術であるエア霧化方式の塗着効率が低い原因は、音速域に達するという高圧高速の圧縮空気が被塗物近傍では被塗物に当たって跳ね返ってしまって、塗料ミストを飛散させるので塗料の付着を阻害してしまうためです。特にプラスチック部品の塗装では丁寧に作業しても40~50%程度が塗着効率の上限で、平均的な塗装工場では20~30%程度でしかないと言われています。この塗着効率の低さが従来技術の大きな問題点です。

CO2の排出量を削減・抑制して環境負荷を少なくするためには、被塗物に塗着せず無駄になる塗料を極限まで減らすことで塗料製造時のエネルギー消費量を削減するとともに、無駄になった塗料が産業廃棄物として処分される量を少なくする必要があります。無駄になる塗料を減らすため、塗着効率を従来の約2倍である85~90%まで向上させるために、圧縮空気の吐出により発生する跳ね返りがない方式によって新技術を構築する必要があります。当社の取り組みは、品質と作業性のために環境負荷を軽視してきた従来技術を覆す開発です。



<従来スプレー塗装の技術的課題>

●従来のエア霧化塗装は塗着効率が低い

従来のエア霧化塗装は、霧化のために高い圧力または風量の多いエアを使っているため圧縮空気によって塗料が跳ね返ってしまい、塗料の半分以上を無駄にしている。

●静電塗装はプラスチック部品に不向き

静電塗装(エアや回転で微粒化した塗料を、静電気を使って被塗物に付着させる技術)による高塗着塗装は、複雑な立体形状で絶縁体であるプラスチック部品の塗装には不向きである。

●エアレス霧化塗装は外観評価が低い

エアレス霧化塗装は厚く塗ることを目的として使われており、エア霧化塗装より塗着効率は向上するが、微細な膜厚調整や美観表現が難しい。


今後さらに塗装工場に求められてくる課題

今後さらに塗装工場に求められてくる課題


<今後の展開>

開発した超高塗着塗装システムの技術は、日本国内をはじめ各国での特許取得を目指しています(出願済)。また、このシステムは完成したプロトモデルを元に、2025年末を目処に実用化モデルを完成させて、市場展開を行う予定です。さらに、2026年夏を目処に埼玉県狭山市の久保井塗装株式会社敷地内に新工場を建設して、外来者へのデモンストレーションができるようにする予定です。


開発中のプロトモデル

開発中のプロトモデル

超高塗着塗装による膜厚分布の一例

超高塗着塗装による膜厚分布の一例


<法人概要>

会社名: 久保井塗装株式会社(KUBOI Coating Works Co.,Ltd.)

所在地: 〒350-1311 埼玉県狭山市中新田1083-3

資本金: 53,000,000円

メール: dev@kuboitosou.co.jp

代表 : 窪井 要

設立 : 1965年1月26日


新工場建設予定地

新工場建設予定地


<略歴>

1958年 クボイ塗装店創業(建築塗装)

1965年 有限会社久保井塗装工業所設立金属吹付及び

    焼付塗装工場を設立(東京都大田区)

1968年 埼玉県川口工場開設

1978年 埼玉県狭山市(現在地)に新工場設立(移転)

1983年 本田技研工業株式会社 狭山工場 車体品質課様により

    試作塗装工場の指定を受ける

1987年 自動車部品量産塗装開始

2004年 窪井 要現社長就任

2005年 ISO9001品質マネジメントシステム認証取得

2010年 VOC削減に関する埼玉県「経営革新計画」承認取得

2012年 経済産業省「サポイン事業」採択(放熱塗装)

2012年 TAMA環境ものづくり大賞 受賞

2013年 埼玉県環境保全連絡協議会「環境保全功労者及び環境保全優良事業所」表彰

2015年 経済産業省「サポイン事業」採択(抗菌加工塗装)

2018年 経済産業省「はばたく中小企業・小規模事業者300社、商店街30選」授賞

2019年 新工場用地を取得

2019年 株式会社に商号変更、資本金を5,300万円に増資

2019年 IoTシステム「KCW-CMS」の外部向け提供開始

2020年 KCW-CMSが経済産業省監督の「IT導入補助金2020」のITツールに認定

2020年 関東経済産業局より事業継続力強化計画を認定

2021年 埼玉県知事より「彩の国経営革新モデル企業」に指定

2021年 KCW-CMSが経済産業省監督の「IT導入補助金2021」のITツールに認定

2021年 KCW-CMSが電着塗装工場の自動ラインにも対応

2021年 測色システム「VECSS-KCW」を開発

2022年 埼玉産業人クラブより「西海記念賞」受賞

2022年 経済産業省「Go-Tech事業」採択(超高塗着塗装技術)

2023年 関東経済産業局より令和5年度 事業継続力強化計画を認定

2024年 埼玉県より地域経済牽引企業に認定

2024年 KCW-CMSが経済産業省監督の「IT導入補助金2024」のITツールに認定

2024年 共同開発した「抗菌塗装技術」が米国で特許認定

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