企業・組織に想定外のトラブルが発生したとき、広報担当はどのように対応するべきか。「二回目のミスが致命傷」と言われるように、トラブル発生直後の対応を間違えると企業の存続に関わるほど危機的な事態に陥る恐れがあります。
トラブル発生後、企業・組織への被害を最小限に抑える管理活動を「危機管理広報」と言い、ここでは危機管理広報の役割や重要性、トラブルやリスクへの準備と対応について解説します。
目次
危機管理広報とは
災害やテロ、事件・事故、不祥事などの、企業や組織を危機的状況に追い込む被害を最小限に抑え、収束をもとめられるのが「危機管理広報」です。
危機管理広報では、トラブル発生後の「クライシス対応」と未然に防ぐための「リスクマネジメント」の2軸で、対応方針・体制を立てておくことが重要です。
危機管理広報の重要性
社会の中で活動を行っている以上、企業や組織は徹底したリスクマネジメントを実行していても想定外のトラブルが発生する可能性を潜在的に抱えています。
企業にとってのリスクは、ソーシャルメディアの普及など高度な情報社会への移り変わりや、グローバル化に伴う多様化によって更に想定が難しくなっています。ソーシャルメディアユーザーの発信がきっかけで企業ブランドが傷つくというケースも増えているといいます。
2019年に多発した“バイトテロ”もソーシャルメディア上への拡散によるものでした。
トラブルが発生しないように未然に防ぐ対策を行うことが最も重要ですが、万が一発生した場合の対応のスピード・判断にも注意が必要です。
もし対応を誤ってしまうと、信頼の喪失から株価下落や不買行動を引き起こす危険性があり、企業・組織の経営・存続を左右するほど大きな影響を与える可能性があります。そのため広報担当だけでなく、経営陣や従業員を巻き込んだ対応をできるように社内全体で準備することが重要です。
危機管理とリスク管理の違い
- 危機管理(Crisis Management) … 発生した危機(クライシス)に対して、影響を最小限に抑えて、事態の収束・回復させる活動
- リスク管理(Risk Management) … 想定されるリスクに対して、未然に防ぐための防止策を検討・実行する活動
時系列で表すと、【 リスク管理→(リスク・クライシス発生)→危機管理 】となります。
トラブル対応に備えた広報担当者の事前準備
危機的状況は突然やってきます。
とは言え、対応にまごついていては組織が深刻なダメージを受けてしまう危険性があります。突発的に発生した危機的状況に対して迅速な対応を行うために、発生する可能性がある状況・トラブルの想定、対応方針、組織内の役割などを明確にしておきましょう。
広報担当だけではなく現場の社員も含め、トラブル発生時の対応についてシミュレーションを行うなど、認識の共有と当事者意識を深めることが重要です。
リスクの把握
危機的状況の発生を未然に防ぐため・また発生後の対応準備のために、まずはリスクを把握しましょう。
- 考えられるリスクの洗い出し
- リスクの重要度や発生頻度の分析・予想
- 想定したリスクの管理・把握
「考えられるリスクの洗い出し」では、組織外の「社会リスク」と組織固有の「経営リスク」の収集がポイントとなります。
「社会リスク」には、国会の動向・官公庁発表・既存メディアからの情報・ソーシャルメディア上の自社関連情報の収集などが主に該当します。また、「経営リスク」には、顧客相談窓口へのクレーム件数や内容・組織内部相談窓口への相談件数や内容・ソーシャルメディア上の風評などが主に該当します。
危機管理マニュアルの作成
リスクを洗い出し、重要度や発生頻度の分析・予想を行い、リスクが想定できたら危機管理広報の対応マニュアルを作成しておきましょう。
ここでは「リスク管理マニュアル(平時のマニュアル)」と「危機管理マニュアル(有事のマニュアル)」に分けて準備を行うことが望ましいです。
<対応マニュアル作成の目的>
- 経営陣や一般社員含め、すべての従業員に理解させるために作成する。
- 緊急時の役割・業務のみを書き記すのではなく、対応の目的・目標・方針・事前の準備・平時の業務などを明確にする。
- 対応ごとの責任者・責任部署を明確にする。
- 緊急時における組織の立ち振る舞い、考え方の基準を示す。
<対応マニュアル作成のポイント>
- (平時) どうすればトラブル発生を未然に防げるか = 予防
- (平時) トラブルの発生時までの備えをどうするか = 体制構築・役割理解・訓練
- (有事) 初期対応とリカバリー対応をどうするか = 実行
平時マニュアル
トラブル発生を未然に防ぐための想定や心がけ、万が一トラブルが発生した時に迅速に動き出しできるような体制構築・役割の理解・訓練の実施についてまとめたマニュアルを用意しましょう。あわせて、過去にトラブルが発生したことがあれば、原因や対応について記録に留めておきましょう。
組織を取り巻く環境は常に変化していくため、定期的に話し合いを行い、マニュアルを見直し、更新していくことも大切です。
有事マニュアル
実際にトラブルが発生した場合を想定し、具体的な業務内容や手順について明確化しておくとよいでしょう。
準備内容には「緊急時連絡網」「対応ルールと手順の整備」「事業継続計画書等の作成」などが挙げられます。特にソーシャルメディア上で発生したトラブルは情報拡散スピードが速く、迅速な対応が要求されるため、責任者までの連絡経路を明確化しておくことは最重要事項の一つと言えるでしょう。
また、有事マニュアルも平時と同様に、定期的に話し合いの場を持ち、マニュアルの見直し・更新をしていくことが大切です。
関係者に対する定期的な教育・訓練
広報部内にて危機管理広報の対応マニュアルが完成してもマニュアル通りに組織が機能しなければ意味がありません。
マニュアルの共有だけで済まさず、実際に機能するかどうか、日頃から検証やシミュレーション、訓練を行うことが望ましいです。検証を行うことで、迅速に実行することが困難な対策になっていた場合は再度マニュアルを見直す等の対応が必要になります。
緊急事態に直面した時に広報担当者が取るべき対応
トラブル発生後は可能な限りスピーディーに情報を開示することが最重要となります。
関係者からの情報収集を実施、事実関係を正確に迅速に把握してその後の対応を明確化しておきます。危機管理広報は初動対応次第で、その後の組織対する印象や事業の存続にも大きな影響が出てしまう可能性があります。迅速、的確、誠実を念頭に対応しなければいけません。
トラブルの内容を把握
トラブルが発生したら、まずは責任者(組織のトップ)へ報告を行い、以下3点を中心に情報収集を行い、把握した状況は全ての関係者で共有しましょう。
- 現状の把握
- 原因の究明
- 責任所在の明確化
情報収集は時系列に沿ってまとめ、情報の精度を保証するため必ず二重チェックを行ってから報告しましょう。
迅速で的確な情報開示
公式からの情報開示の遅れがさらなる批判の対象となる可能性があるため、迅速な情報開示が重要です。
また、公式な発表を行うまでの間にも、事実と異なる憶測がソーシャルメディア上で拡散され続けることも想定され、発表時点には致命的な状況に発展してしまうことも考えられます。
しかし、ただスピーディーに情報を開示すれば良いわけではなく、詳細な事実関係の確認とそれに対する対応を明確にし、組織としてのトラブルの向き合い方、方針や姿勢を示す必要があります。
自社にとって都合の悪い情報も中にはあるかもしれませんが、状況を軽微に見せるような言動は批判の的になりますので十分な注意が必要です。
情報開示の方法は、緊急記者会見やプレスリリース、Webサイトや公式SNSでの発表と様々ですが、組織としての対応窓口は一本化しておくことが望ましいです。
また、情報開示後は発信した情報に対してメディアの報道内容など事実誤認がないかエゴサーチやクリッピングを行います。事実と異なった報道をされていた場合、異なる根拠を示しつつ、報道担当者に情報の訂正を依頼しましょう。
開示した情報が正しく世間に伝わることで、その後の風評被害やイメージダウンを防ぐことに繋がり、信頼の回復に繋がっていきます。
さいごに
危機管理広報は広報担当だけでどうにかできる問題ではありません。経営層、組織の従業員全員で危機的状況への対応に取り組みましょう。
トラブルは突然起こるもので、急に発生したトラブルにも組織全体対応できるよう、広報担当者は危機管理広報のマニュアル準備し組織に浸透させ、アップデートを行っていく必要があります。
こうした危機的状況は頻繁に起こることではありませんが、万が一発生したとき、組織を守るために広報担当がリーダーとなって準備を進めましょう。
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