IEEEメンバー サイバー社会暗号技術の第一人者 『九州大学 櫻井幸一教授が提言』
IEEE(アイ・トリプル・イー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、世界的な課題となっているネットワークセキュリティー等に関してもさまざまな提言やイベント、標準化活動を通じ技術革新へ貢献しています。
2020年2月、IEEEメンバーで九州大学大学院システム情報科学研究院の櫻井幸一教授は、「インターネットなどのネットワークや人工知能(AI)への不正を仕掛ける攻撃は年々高度化しており、暗号技術が重要さを増していることや、セキュリティーとプライバシーとの関係性に注意すべきだ」と提言しました。櫻井幸一教授は、仮想通貨(暗号資産)やそれを支えるブロックチェーン(分散型台帳)の研究者であり、それら技術の不可欠な要素であるサイバー社会暗号技術の第一人者です。
ブロックチェーンは最近よく聞く言葉です。ネットワーク上で行われる各種取引について、従来は管理者が運営していました。これでは管理者が履歴を改ざんしてしまうと不正をあばくことが難しくなります。対して、ブロックチェーンはつながった数多のコンピューターが皆で取引をチェックし、履歴は一定量ごとにひとまとまりのブロックとして皆が残します。このため、不正が極めて難しくなり履歴もさかのぼることができます。このシステムは、分散して台帳を管理するので分散型台帳と呼ばれています。ブロックチェーンの起源は、元祖仮想通貨のビットコインです。ビットコインからブロックチェーンを抜き出して汎用化し、サイバー社会への実サービス応用が展開されています。
国家が担保していた通貨の価値をブロックチェーンで賄えるようになることは、国家基盤を揺るがすインパクトを持ちます。また、プラットフォーマーと呼ばれる大企業がネットワークサービス基盤を作って顧客を囲いこむ戦略で利益を創出しています。しかし、これもブロックチェーンを使い誰もが利用できるオープンソース的なもので実現できる時代になってきています。
利便性の高さを検証すべく実証実験も盛んです。米国では港湾でのコンテナ管理をブロックチェーンで行います。日本音楽著作権協会(JASRAC)が、活用した音楽作品情報の登録・共有に関してブロックチェーンを使った実証実験を行い、導入計画を宣言しています。そのほか、流通分野など多くの実験が進んでいます。
しかし、利便性の裏には犯罪のリスクがあります。ブロックチェーン自体の改ざんはできなくても、システムを運営管理するサーバーへの不正侵入により、情報や仮想通貨を盗み出す事件は頻出しています。櫻井教授は「盗難された仮想通貨の不正利用を見つけ出すことが現状では、極めて困難である。誰の仮想通貨だったかの履歴も管理できるようになれば、利便性もセキュリティーも高まる」と説いています。
サービスのユーザーが増えると履歴を残すストレージ(外部記憶装置)が不足します。ユーザー数が増えてもストレージに負担が起きないようにする暗号技術の研究があります。全世界がユーザーとして参画できるような実用的な暗号仮想通貨の設計も、挑戦課題です。不正技術が高度化すれば、暗号技術もより一掃の高度化が求められます。世の中には量子コンピューターの到来が近づいています。量子コンピューターでも解読できない耐暗号も大きな研究テーマです。櫻井教授は、耐量子暗号を使った仮想通貨の設計と安全性評価にも取り組んでいます。
また、AIを利用した暗号技術も注目されています。暗号解読をAIが行い、暗号の設計も別のAIが手がける。そうしたAIによる戦いが実際に起こる時代が近づいています。量子コンピューターやAIといった先進技術を使った暗号技術の研究は今後ますます重要になります。櫻井教授によると、「日本は世界と比較して量子コンピューターの実用化研究が不足しており、多様な知見を持つ研究者の暗号分野への参加が求められている」と言います。
サイバー社会ではプライバシーも重要ですが、セキュリティーとの両立は困難です。櫻井教授は「プライバシーを最も尊重する英国でも、セキュリティー側に振れる政策に向かっている」と言います。プライバシーとは干渉しない、されないことを指し、電車に偶然肉親が乗り合わせても声をかけない文化とも言われます。しかし、近年は監視カメラによる保安を認めつつあります。プライバシーをどこまで譲るかという議論も、サイバー社会のセキュリティー強化に不可欠であり、暗号技術でどこまで解決できるかを明らかにすることが、最大の研究課題です。
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