稲盛科学研究機構「InaRIS」の最初のフェローが決定!10...

稲盛科学研究機構「InaRIS」の最初のフェローが決定! 10年間、研究費として毎年1,000万円、総額1億円を助成

公益財団法人 稲盛財団(理事長 金澤しのぶ)は、4月10日(金)、2020年度稲盛科学研究機構(InaRIS:Inamori Research Institute for Science)のフェローを決定しました。本プログラム初となる2020年度 InaRISフェローは、42名の応募者の中から、高柳匡氏(京都大学基礎物理学研究所教授)と野口篤史氏(東京大学大学院総合文化研究科准教授)の2名が選定されました。


2020年度 InaRISフェロー


■高柳 匡(Tadashi Takayanagi)


高柳 匡 氏

京都大学基礎物理学研究所 教授

1975年10月11日生まれ(44歳)


・略歴

1998年 東京大学理学部 卒業

2002年 東京大学大学院理学系研究科 博士(理学)

2002年 ハーバード大学ジェファーソン研究所 研究員

2005年 カリフォルニア大学サンタバーバラ校カブリ理論物理学研究所 研究員

2006年 京都大学大学院理学研究科 助手

2008年 東京大学数物連携宇宙研究機構 特任准教授

2012年 京都大学基礎物理学研究所 教授

2015年 It from Qubit Simons Collaboration, Principal Investigator


・主な受賞歴

2011年 第4回木村利栄理論物理学賞

2013年 第28回西宮湯川記念賞

2014年 New Horizons in Physics Prize

2016年 仁科記念賞


・紹介動画

https://youtu.be/uVrWCgPSGYE


・研究テーマ

量子エンタングルメントから創発する量子重力理論


・研究の概要

重力のミクロな物理法則である「量子重力理論」を解明する糸口として、高柳氏が発見した「笠ー高柳公式」が注目されている。この公式は「エンタングルメント・エントロピー」とよばれるミクロな情報量が宇宙の面積と等しいという関係式であり、重力理論の宇宙は量子情報から創発することを示唆している。本研究では、独創的なアイデアをさらに発展させて量子重力理論を解明することを目的とし、私たちの宇宙がどのように生まれたのか、そのミクロな起源に迫る。


・InaRISフェローに選ばれた感想

「InaRISに応募した理由は、10年という長い期間にわたって支援していただけるからです。私の研究は基礎研究で、腰を据えてじっくり取り組む必要があり、長期間サポートいただけるのは大変ありがたいです。InaRISの支援を受けて、我々の宇宙がどうやって誕生したのか、根源的な問題に挑戦したいです」


・選考理由

基礎物理学におけるもっとも重要な問題の一つは、重力のミクロな物理法則を完全に理解すること、すなわち量子重力理論を解明することである。高柳匡氏が笠真生氏と2006年に発表したエンタングルメント・エントロピーのホログラフィックな導出(笠ー高柳公式)は、J. Maldacena氏が1997年にAdS/CFT対応(反ドシッター空間ー共形場理論対応)を提案して以来の最も重要かつ画期的な発見のひとつであり、この分野の流れを大きく変える影響力があった。たとえば、E. Witten氏は、2014年に京都賞を受賞した際のインタビューにおいて、「21世紀になってからのハイライト」として真っ先に笠ー高柳公式を挙げている。笠ー高柳公式は、AdS/CFT対応に基づく微視的な説明がなされたことで、理論物理学における重要な公式として確立している。


高柳氏は以来14年間にわたって笠ー高柳公式を発展させ、ホログラフィー原理の仕組みの解明とその応用に主導的な貢献をしてきた。たとえば、高柳氏とM. Headrick氏は、フォン・ノイマン・エントロピーの強劣加法性と呼ばれる不等式が、笠ー高柳公式においては極小曲面の三角不等式という幾何学的な性質に帰着することを見出している。エントロピーの持つ深い性質が重力理論の幾何学的構造に反映されているというこの発見は、この分野のその後の発展を大いに刺激した。また、ここ数年にわたり、ホログラフィー原理の微視的なメカニズムにおいて、量子情報理論における量子誤り訂正符号が重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。このメカニズムの解明においても、笠ー高柳公式は本質的な役割を果たしている。


高柳氏の提案研究では、このように「笠ー高柳公式」を契機として広がってきた「量子情報」と「重力理論の宇宙」との深い関係性に関する新しい考え方をさらに推し進め、未だ発展途上にある量子重力理論の解明へ向けたブレークスルーを目指している。関係する高柳氏の最近の研究としては、「純粋化エンタングルメント」と呼ばれる混合状態に対してエンタングルメント・エントロピーを拡張した量が、AdS/CFT対応である種のワームホールの断面積に一致することを見出し、また、共形場理論の経路積分を離散化して計算する場合に、最も効率良く離散化することを要請すると自然に反ドジッター空間の幾何が現れることを発見したことなどが挙げられ、その新しい発展が注目されている。


ホログラフィー原理におけるエンタングルメント・エントロピーの公式の発見と、その後の発展における高柳氏の一連の研究は、量子重力理論や超弦理論の基礎的な成果であり、また同氏の研究は物性理論や量子情報理論との連携も促進している。このような研究成果に加えて、高柳氏は指導者としても優れており、彼の薫陶を受けて、すでに多くの若手研究者が育っている。高柳氏は、超弦理論研究の世界的なリーダーであり、InaRISフェローシップの支援により今後10年の日本における理論物理学研究を牽引することが期待される。



■野口 篤史(Atsushi Noguchi)


野口 篤史 氏

東京大学大学院総合文化研究科 准教授

1986年6月30日生まれ(33歳)


・略歴

2009年 東京工業大学理学部 卒業

2011年 大阪大学 日本学術振興会 特別研究員(DC)

2013年 大阪大学大学院基礎工学研究科 修了 博士(理学)

2013年 大阪大学 日本学術振興会 特別研究員(PD)

2014年 東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員

2015年 東京大学先端科学技術研究センター 特任助教

2016年 科学技術振興機構 さきがけ「量子機能」研究員

2019年 東京大学大学院総合文化研究科 准教授

2019年 科学技術振興機構 ERATO「中村巨視的量子機械プロジェクト」 研究員


・主な受賞歴

2016年 日本物理学会 若手奨励賞

2019年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞


・紹介動画

https://youtu.be/-bmkmePO8WM


・研究テーマ

誤り耐性量子計算のための超高精度量子制御


・研究の概要

量子状態は壊れやすいため、私たちが普段目にするような大きな物体は量子力学には従わない。この破壊を防ぐ方法のひとつに「量子誤り訂正」がある。これにより、超伝導量子回路のようなマクロな系の状態も量子として扱えるようになる。本研究では、超高精度な量子制御技術によって量子誤り訂正を実現し、無限の寿命をもつ人工的な量子系を作り、その大規模化による誤り耐性量子計算の実現を目指す。


・InaRISフェローに選ばれた感想

「InaRISは長期にわたって支援をいただけるので、息の長い研究ができるということもありますが、非常に長く研究員を雇うことができるので、人材育成という点においても意義があると思います。また、今後集まるInaRISフェローと一緒に共同研究や議論をして、新しい分野を作っていくことにも挑戦したいと思います」


・選考理由

20世紀の初頭に誕生した量子力学は過去100年のあいだに著しい発展を遂げ、科学の広汎な分野にわたり、我々の世界に対する認識に大きな影響を与えてきた。素粒子から宇宙全体までのあらゆるスケールで量子力学の予言が検証され、物理学の基礎理論としての存在を確固たるものにしている。同時に量子力学は、集積電子回路技術や光通信技術をはじめとする、現代情報社会の根幹をなす技術の礎となり、日常的に意識されることは少ないながらも、すでに我々の生活に欠かせないものとなっている。


その一方で、状態重ね合わせなどの量子力学の基本原理を情報処理の研究開発へ応用する量子情報科学の考え方が議論されるようになったのは比較的新しく、今世紀初めから世界中で研究が加速されてきた。すでに小規模の量子計算ユニットの動作が試験され、最近では既存のスーパーコンピュータを凌ぐ量子超越性の実証が話題となっている。しかしながら量子コンピュータの本来の性能を引き出すためには、より高精度の量子制御を用いてエラーに強いアーキテクチャを実装する誤り耐性量子計算の実現が不可欠と考えられている。


野口氏の研究提案はこの課題に正面から取り組むものとなっている。いかに量子の自由度の制御を高精度に行うかという問題を追求し、より多くの自由度を持つ系における高度な量子制御の実現を目指して、量子計算・量子センシングに代表される量子情報技術の未来を切り拓こうとする野心的なものである。多自由度系の高精度量子制御をもって初めて可能となる誤り耐性量子計算の実現は、量子情報科学の大きなマイルストーンとなる重要な目標であると同時に、量子力学に支配される世界における人類の科学技術の到達点のひとつとなる。


野口氏はこれまでに、レーザー冷却され真空中にトラップされたイオンのような原子スケールの量子系から、超伝導回路の上で実現する量子ビット素子や半導体ナノメカニカル素子の機械的振動などのミリメートルスケールの量子系に至るまで、多様な物理系の実験に取り組み、次々と独創的な成果を挙げてきた。ラジオ波・マイクロ波から赤外光・可視光まで、幅広い周波数・エネルギースケールにわたる様々な量子制御技術を縦横無尽に駆使する、世界的に見ても稀有な若手研究者である。今回の提案においても、野口氏は超伝導回路を利用した新たな量子制御技術の実現を目指すだけでなく、真空中に電場でトラップされた電子などの新たな量子系を構築し、その上で高精度な量子状態制御手法を確立することを計画している。


野口氏は量子計算のための量子制御技術研究に関する有望なリーダーであり、InaRISフェローシップの支援により、今後10年という研究期間の中でこれまでにも増して次々と、斬新な発想に基づいた精緻な研究が展開されることが期待される。



■稲盛科学研究機構(InaRIS)フェローシッププログラムとは


InaRISロゴ

短期的に成果を求めるのではなく好奇心の赴くまま存分に、壮大なビジョンと大きな可能性を秘めた研究に取り組んでほしい──。そんな願いをこめた、研究者が「科学を愉しむ」ことを期待するプログラムです。応用偏重の研究予算のあり方に一石を投じ、基礎研究を長期にわたって力強く支援することで基礎科学の社会的意義が尊重される文化の醸成に貢献したいという考えのもと、2019年に設立されました。今回選ばれた2名が初めてのInaRISフェローです。


フェローには、2029年度までの10年間、研究費として毎年1,000万円、総額1億円を助成します。研究課題だけでなく「人」に助成するので、比較的自由に助成金を使える特徴があります。また、1,000万円の直接経費とは別に100万円を上限として間接経費を研究機関に支払います。InaRISはキャンパスや建物を持たないネットワーク型の研究機構で、稲盛財団はフェロー同士を繋ぎ、切磋琢磨できる場を提供します。機構運営としては、運営委員会が審査方針や選考委員候補を選定すると共にフェローへのサポートを行います。フェローは自らの所属する大学・機関で研究に邁進しながら、InaRIS運営委員会のメンバーや他のフェローともオープンに交流し研究を推進します。


・InaRIS 運営委員

機構長 中西 重忠 京都大学 名誉教授

委員  岡田 清孝 龍谷大学 REC フェロー

委員  小林 誠  高エネルギー加速器研究機構 特別栄誉教授

委員  榊 裕之  学校法人トヨタ学園 常務理事

委員  森 重文  京都大学 高等研究院 院長・特別教授

委員  山中 伸弥 京都大学 iPS 細胞研究所 所長・教授


・InaRISフェロー選考委員(対象領域:量子)

委員長 十倉 好紀 理化学研究所 創発物性科学研究センター センター長

委員  荒川 泰彦 東京大学 ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構 特任教授

委員  安藤 恒也 東京工業大学 栄誉教授

委員  大栗 博司 東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 機構長

委員  中村 泰信 東京大学 先端科学技術研究センター 教授




■2021年度のInaRISフェローシッププログラムの募集について

【募集期間】2020年5月21日(木)9:00~7月31日(金)17:00

【対象分野】生命:生物の「しなやかさ」と「したたかさ」

【採択人数】2人

【助成金額】2030年度までの10年間、毎年1,000万円

【申請方法】稲盛財団のウェブサイトから



■公式ウェブサイトおよびSNSアカウント

InaRISについて  : https://www.inamori-f.or.jp/inaris

稲盛財団公式サイト: https://www.inamori-f.or.jp

Facebook     : https://www.facebook.com/KyotoPrize

Twitter      : https://twitter.com/inamorinews

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