食品のポリフェノール含有量の簡便な測定手法を開発 ポリフェノールによるウイルス感染予防を、より簡易で効果的に
芝浦工業大学(東京都港区/学長 山田純)工学部電子工学科の六車仁志教授、システム理工学部生命科学科の越阪部奈緒美教授らBIWコンソーシアム※の研究グループは、カーボンナノチューブ電極を用いた電気化学分析で、食品中のポリフェノール含有量を簡便に測定できる手法を開発しました。
定量化によって、抗ウイルス作用を持つポリフェノールの効果的な摂取が可能になります。それによりインフルエンザと同様に、新型コロナウイルスの感染予防にも役立てることができます。
※ 感覚を通じて脳が刺激を認識し体が反応する一連の情報処理のメカニズム「Bio-Intelligence、BI」について研究を推進し、Well-beingな社会実現のために役立つ新たな技術開発を目指す研究コンソーシアム
■ポイント
・これまでより短時間・低コスト・簡易にポリフェノール成分を特定し含有量を測定
・高い抗菌作用と抗ウイルス効果を持つポリフェノールの、効果的な摂取を可能に
■カーボンナノチューブを電極にしたCV法で、成分を特定し含有量を測定
測定に用いたのは、ナノ材料であるカーボンナノチューブの機能性表面電極を利用したサイクリックボルタンメトリー(CV)法です。CV法は溶液に浸した電極に電位を繰り返して流れる電流を測定する、電気化学では代表的な手法です(上の概要図参照)。今回は電流の量で成分の量を測定し、測定結果の波形から成分を特定しました。
従来測定に用いられる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、高価な大型装置を使い計測にも1時間程度の時間がかかり熟練の技術が求められます。一方でこの簡易な手法は3分程度で結果を得られ、HPLCと比べた測定誤差は±5%でした。
■食品中の含有量を把握できることで、感染予防へ効果的な摂取が可能に
<ポリフェノールとは>
多くの食品に含まれる植物由来の成分。これまでに約8,000種類が確認。抗菌作用が強く、抗ウイルス・防菌・防カビ作用を持つことで知られる。
中でもカテキンやテアフラビンには新型コロナウイルスを無害化・不活化すると判明。そのほかクロロゲン酸にはがんや心疾患の低リスク化、ケルセチン配糖体には脂肪を分解する作用などを確認。
一昨年、様々な健康効果が明らかになるポリフェノールを7番目の栄養素に位置づけ社会へ普及するための道筋を、研究者らがポリフェノールに関する国際会議で議論しました。そこで「ある食品にはポリフェノールが〇〇グラム」という定量情報の均一化とデータベース構築が課題に挙げられています。
ポリフェノールのデータベースとしてはフランス国立農学研究所運営の「Polyphenol Explorer」が知られていますが、約8,000種あるうちの500種類の情報公開にとどまっています。アメリカ農務省でも対象をフラボノイドに特化した公開のみで、両者とも主に欧米の研究データを収載。アジアの植物性食品や食習慣を網羅するものではありません。HPLCより安価で簡便なこの手法は、特にアジアの食生活に基づいたポリフェノールのデータベース構築と、それを活用した「健康長寿社会の実現」への貢献が期待できます。
また食品中のポリフェノール含有量の認知が広がれば、炭水化物やたんぱく質など栄養素のバランスを検討して献立を考えるように、毎食のポリフェノールの摂取量も把握が可能となります。食事によるポリフェノール摂取を通じて、新型コロナウイルスを含む感染予防に役立ちます。
■研究グループ・関連論文情報
・大学院理工学研究科(修士課程)電気電子情報工学専攻 和田遼太郎、高橋翔太、村上知史
・工学部 電子工学科教授 六車仁志(責任著者)
・システム理工学部 生命科学科教授 越阪部奈緒美
1. ●論文名/Electrochemical Analysis of Coffee Extractions at Different Roasting Levels Using a Carbon Nanotube Electrode ●掲載誌/Analytical Sciences, 2021, 36, 377-380.
https://doi.org/10.2116/analsci.20N021
2. ●論文名/Analysis of Chlorogenic Acids in Coffee with A Multi-walled Carbon Nanotube Electrode ●掲載誌/Food Analytical Method, 2020, 13, 923-932.
https://doi.org/10.1007/s12161-020-01714-6
3. ●論文名/Electrochemical determination with a long-length carbon nanotube electrode of quercetin glucosides in onion, apple peel, and tartary buckwheat ●掲載誌/Food Chemistry, 2019, 300, 125189.
https://doi.org/10.1016/j.foodchem.2019.125189
4. ●論文名/Separationless and Adsorptionless Quantification of Individual Catechins in Green Tea with a Carbon Nanotube− Carboxymethylcellulose Electrode ●掲載誌/Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2019, 67, 943-954.
https://doi.org/10.1021/acs.jafc.8b05540
■研究助成
本研究はJSPS科研費(19K05172)と、学内研究ブランディング事業BIW研究コンソーシアムの助成を受けたものです。
■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
日本屈指の海外学生派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の理工系大学です。東京都とさいたま市に3つのキャンパス(芝浦、豊洲、大宮)、4学部1研究科を有し、約9千人の学生と約300人の専任教員が所属。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。
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