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IEEEメンバーが提言を発表  パンデミック中の孤独感を癒す「友だちロボット」とVR

IEEE(アイ・トリプルイー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、さまざまな提言やイベントなどを通じ科学技術の進化へ貢献しています。今回、新型コロナ禍で注目されるVR技術に関して、IEEEメンバーの提言を発表いたします。



新型コロナウイルスのパンデミックにより隔離を強いられ、孤独感と憂うつ感を抱いている人がいます。このような感情に悩まされている人を救うため、技術者、研究者、医療従事者は「友だちロボット」とVRを活用して孤独感を解消することを模索しています。


新型コロナウイルスの発生後、憂うつ感が高まり、世界中で感染者が増加し始めると、心の健康状態が急激に変化しました。


IEEEのメンバーであるJonathan Gratch(ジョナサン グラッチ)によると、物理的接触や、対面で社会的合図(ソーシャルキュー)を伝達することは、ビデオ通話よりも生物学的に脳に良いと言われています。そのような社会的交流を定期的に行わなければ、孤独感が高まります。


Gratchは次のように述べています。「ビデオ会議では、現実世界での交流で見られる社会的ストレス要因が過度に発生し、認知機能に大きな負担がかかる場合があります。自分の容姿や反応を強く意識するようになり、『印象操作』が増加します。これはよく知られたストレス要因です。」


その他にも、ビデオ会議にはスクリーンが壁として知覚されるという問題があります。IEEEメンバーのTodd Richmond(トッド リッチモンド)は次のように述べています。「同じ空間で行われる対面の物理的交流では、スクリーンが壁となって人の感覚を制限したり、カメラアングルやマイク位置が人の感覚に影響を及ぼしたりすることはありません。人と人が直接会うと、空間に溶け込みます。人類はその没入感を覚え、発展させてきました。」


人間の体と脳は社会的な交流を求めています。しかし、新型コロナウイルス禍では、公共安全への懸念からそのような交流を行えなくなったため、孤独感を埋めるためにロボットや仮想現実(VR)が注目され始めました。



■AIを利用した「友だちロボット」で社会性を維持

ソーシャルロボット、すなわち「友だちロボット」は、人とのつながりが制限されている際に、社会的交流を持つための代替手段として役立っています。


IEEE Spectrumで報告されているとおり、ロボットはさまざまな方法で利用されており、孤独感を軽減するために役立っています。例えば、Friboというロボットは、ユーザーが家の中で何をしているか、活発に動いているかどうかを、友だちや家族に知らせてくれます。また、壊したり怒鳴りつけたりしてネガティブな感情を発散するためのロボットもあります。


多くの場合、このような健康管理ロボットには、ユーザーとの交流を改善するために人工知能(AI)と機械学習が利用されています。



■高齢者向けのAI音声アシスタント

最近の記事で、自宅で暮らす高齢者用のAI音声アシスタントを使用した研究が紹介されていました。この音声アシスタントは、センサーで得た健康情報を視覚インターフェースと音声インターフェースで報告するようプログラムされています。


IEEEのシニアメンバーであり、この研究が行われたミズーリ大学で電気工学およびコンピューターサイエンスの教授を務めるMajorie Skubic(マージョリー・スキュービック)は、次のように述べています。「ウイルス感染のリスクが高い人にとって、自宅で余生を送ることはもはや贅沢ではありません。」そして、記事にはこのように書かれています。「人工知能は、高齢者に自身の健康を管理するための優れたツールを与え、この課題を解決するための鍵です。」


さらに、記事には次のようにも書かれています。「IEEE Computational Intelligence Societyは、人の安全を維持し、世界をより良くするために役立つ画期的なソリューションを開発するためにAIを活用することを、新型コロナウイルスとの戦いに尽力しているすべての組織に推奨しています。」



■VRで孤独感を癒し、脳が人とのつながりを実感できるようサポート

仮想現実(VR)も、現在隔離を強いられている人々を救うために使用されているテクノロジーの一つです。


Gratchは次のように述べています。「ビデオ会議よりも、VRテクノロジーを利用した方が物理的存在感と社会的存在感の両方が高まることがわかっています。実際にその場所で人と会っているように感じられるのです。社会的交流の観点で、VRは社会的合図(ソーシャルキュー)の断絶を解決するために役立ちます。」


Richmondは次のように付け加えました。「VRは、通常のスクリーン越しのインタラクションより、強い没入感をもたらします。没入型のVR体験で仮想空間を共有することは、『そこにいる』という感覚を得るためにとても効果的です。空間の共有は重要であり、現在のビデオ会議の欠点でもあります。」


VRがビデオ会議より効果的であるなら、自宅にいながらこの方法で仕事上のすべての会議を行ったり、家族と団らんしたりしないのはなぜでしょうか。Richmondによると、そのためのデバイスがコンピューターやタブレットに比べて入手しづらいことが主な原因です。


Richmondは次のように述べています。「ほとんどの人はスクリーン(スマートフォンやコンピューター)を持っていますが、ARデバイスやVRデバイスを持っている人はごくわずかしかいません。ARやVRがもっと普及すれば、より多くの人がその体験を試すことができるようになり、技術開発の促進と必要な新しい社会規範の構築に役立ちます。」


RichmondとGratchの両者とも、VR空間に起こっている進歩を前向きにとらえています。パンデミックがきっかけとなり、人類は変化を迫られ、この種のテクノロジーがかつてないほど重視されるようになっています。



■孤独感を癒すために利用されているその他のテクノロジー

新型コロナウイルスのパンデミック中には、ウェアラブルデバイス、センサー、IoTといったメソッドの研究も行われています。


交流を持ちたいという人間の欲求によってテクノロジーが進歩し、これまでより効果的なソリューションが生まれました。他者との抱擁に勝るものはないかもしれませんが、ロボットとVRはわずかでも心の穴を埋めるために役立っています。


Richmondは次のように述べています。「パンデミックにより、人間には交流が大切であり、従来のスクリーンの壁を越えた交流が必要であることがわかりました。」



■IEEEメンバー 明治大学 宮下 芳明教授のコメント

技術というのは、研究されている時点の社会から共感されないことが多く、オーバースペックだとか、現状手法で代替可能だと言われたりしがちです。例えば、数十年前から研究されていたテレワークは、「会社に集まれば良いので技術の無駄遣い」「自宅にいながら仕事するなんて不謹慎」とも言われていましたし、人の精神的な豊かさに寄与するVRやエンタテインメント技術は、しょせん娯楽だと軽視されてきました。


さて、2020年。人類は、コロナ禍であっても滅びませんでした。オンラインで経済・文化活動をなんとか継続し、「リングフィットアドベンチャー」で体を動かし、「あつまれ どうぶつの森」で楽しく集い、肉体的だけでなく精神的な健康もなんとか保つことができたのです。

考えてみてください。なぜ、この災いが起こる前に、全世界がインターネットでつながっていたのでしょうか?なぜ、テレワークのためのソフトが既にあり、スマホやPCにフロントカメラがついていたのでしょうか?…それは、何十年も前から、当時の社会の共感が得られなくとも、技術開発と研究をすすめた人がいたからです。

未来を切り拓く研究は、現在の時点では、意義や価値がわかりにくいものですが、いつか、人類がその技術を必要とするときがきます。読者の皆さんにはぜひ、そうとらえて研究者たちを応援していただければと思います。



■IEEEについて

IEEEは、世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門会の会員を擁する非営利団体で、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、諸活動を通じて世界中の工学やその他専門技術職のための信用性の高い「声」として役立っています。

IEEEは、電機・電子工学およびコンピューターサイエンス分野における世界の文献の30%を出版、2,000以上の現行標準を策定し、年間1,800を超える国際会議を開催しています。


詳しくは http://www.ieee.org をご覧ください。

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