「あなたにとって『バイリンガル』とは何ですか?」論文レビュー...

「あなたにとって『バイリンガル』とは何ですか?」 論文レビュー公開

「自分は英語学習の失敗者」ー自分をネガティブに捉える日本の学生たち

「あなたはバイリンガルですか?」―そう聞かれたら、英語を学習したことのある多くの日本人は、自分はバイリンガルではないと答える可能性が高いと思われます。私たちは、自分自身をどう捉えているかによって、態度や行動が変わることがあります。動機づけの研究では、人は自分を肯定的に見ることでより多くのことを学ぶとされており、学習者としての自分をどう見るかは、学習の過程に重要な影響を及ぼします。

そこでワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、「私はバイリンガル?日本人EFL学習者の自己省察に関する報告(IBS訳)」という論文をレビューし、記事を公開しました。

 

該当論文は「Am I bilingual?  Reporting on the self-reflections of Japanese EFL learners (2021),著者:Blake Turnbull、ジャーナル:International Journal  of Bilingualism; p. 1-22」です。

 

<どんな研究が行われたか?>

●日本人の英語学習者174名を対象にアンケートを実施。

●対象の学生たちは、19歳〜20歳で、大学のクラス分けテストで英語力が中級の上レベル。

●研究手法の詳細については、記事本文(https://bit.ly/3zDUiJ7)を参照してください。

 

<この研究からわかったこと>

●バイリンガルをどのように定義しているのかについては、「読む」、「書く」、「話す」、「聞く」の4つの領域が二言語で同じくらい流暢であることが「バイリンガル」の条件であるという点で、大多数の学生の意見が一致。

●「自分自身をバイリンガルと見なしているのか」については、「自分はバイリンガルだと思うか」という質問に  対し、「思わない」が95.4%と最も多く、「思う」は4.6%にとどまった。

●学生が自信をもてない理由は「母国語同然に話せない」「日本語以外は自信を持って必要なときに用いることができない」「コミュニケーションは取れるが完璧ではないから」など。

 

「自分は英語学習の失敗者」―学習者としての自分をネガティブに捉える日本の学生たち

今回の研究で学生の大半は、二つの言語を同等に使いこなせなければ、バイリンガルとは言えないと考えている、と回答しています。このようなバイリンガルの捉え方は、「自分の能力は欠けている」というマインドセットにつながります。つまり、英語を母語とする人と自分の英語レベルを比較することで、理想的な成果を得ることができない自分を失敗者と見なしてしまうのです(Grosjean 1989)。前述のように、このような自分に対するネガティブな見方は、特に長期的には、パフォーマンスの低下やモチベーションの低下につながります。

 

自分がまだ「発達途上」のバイリンガルであることを知る

バイリンガルとは、それぞれの言語のモノリンガルになる、ということではなく、連続してつながっている、多様性に富んだ旅路のようなものです(Jacobs 2018)。このことを学生に理解させることが重要かもしれません。emergent  bilingualism(発達途上にあるバイリンガリズム)やmulticompetence(多言語能力)、そしてEnglish as lingua franca (ELF)(共通語としての英語)といった概念を紹介することは、英語を学習している学生が自分はいまバイリンガルの旅のどこにいるのかを確認するのに役立ちます。自分が「発達途上」のバイリンガルであることを否定する必要はなく、自分が持っていないものよりも持っているものに注目することができるのです。

 

バイリンガルとは連続してつながっている、多様性に富んだ旅路のようなもの

自分が「バイリンガルかどうか」を定義する概念のひとつに「emergent  bilingualism(発達途上にあるバイリンガル)」があります。これはバイリンガルになっていく連続したつながりの中の初期段階にある生徒を指します(Garcia 2009, 397)。Turnbull(2018)は、外国語学習者がこのカテゴリーに含まれることが重要であると主張しています。なぜなら、これらの生徒は、必要に応じて両方の言語を使用し、積極的にバイリンガルスキルを発達させているからです。これは二つ以上の言語を話す人は、そのスキルレベルにかかわらず、標準的なモノリンガルの人とは異なる複雑な心的言語システムを持っているというバイリンガルの現実を意味するマルチコンピタンス(多言語能力)」の概念と結びついています(Cook 1992)。

 

また「English as lingua franca  (ELF)(共通語としての英語)」を知ると学生の考え方を変えることができます。ELFはグローバルな国際コミュニケーションの手段です。この「リンガフランカ(共通語)」という文脈で英語を話す目的は、二つの言語をバランスよく習得することではなく、自分の英語を巧みに使って意思表示することです。実際、世界の英語話者の大半は、英語を第二言語または第三言語として話す人々であり、いずれも習熟度が異なります(Anil 2018)。

 

自分を肯定的に見ることで第二言語学習のモチベーションが上がる

複数の言語能力を持つ発達途上にあるバイリンガルであることを認識することで、生徒は自分の世界の中で自分の言語を使い、失敗したと感じることなく、自信を持てるようになると考えることができます。

第二言語学習者としての自分を肯定的に見ることで、英語に対する態度や行動が変わり、結果的にパフォーマンスやモチベーションの向上につながるのではないでしょうか。

 

詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。

 

■あなたにとって「バイリンガル」とは何ですか? ―日本人学生が考えるバイリンガルの概念とは  

https://bit.ly/3zDUiJ7

             

■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所

(World  Family's Institute Of Bilingual Science)

事業内容:教育に関する研究機関

所   長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)

所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7 

     パシフィックマークス新宿パークサイド1階

設   立:2016年10 月

U R L:https://bilingualscience.com/  

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