「KPMGグローバルCEO調査2021」について  ~市場での成長機会を掴むため、世界のCEOは積極的なM&Aを計画~

KPMG(チェアマン:ビル・トーマス)は、世界の経営者の将来見通しや重要施策等を調査した、第7回目となる「KPMGグローバルCEO調査2021」を発表しました。本調査は、2021年6月29日から8月6日に、11ヵ国11業界の企業経営者1,325人(うち日本企業100人)に調査を実施し、経済およびビジネスの展望に関する今後3年間の見通しについて調査しています。



■世界経済の成長見通しに対するCEOの自信は、パンデミック以前の水準に回復

■きわめて多くのCEO(87%)が、今後3年間で買収を実施する計画

■ネットゼロの目標達成には政府の刺激策が必要と回答したCEOは77%

■CEOの75%は、パンデミックで各国の財政が圧迫されたことを受け、世界の税制に関する多国間協力の緊急性が増したと回答



世界を代表する企業のCEOは、自社の成長見通しについて、ますます前向きな見方を強めています。新型コロナウイルス感染症の変異株の影響により、「コロナ前(normal)への回復」が遅れているという現実はあるものの、世界経済の成長見通しに対するCEOの自信は、パンデミック発生以来最高の水準になっています。調査の結果、60%のCEOは今後3年間の世界経済の成長見通しに自信を持っていると回答しており、「KPMGグローバルCEO調査2021 パルス版」(2021年1月~2月実施)の42%から大幅に上昇しています。


世界経済の成長見通しが強まったことを受け、CEOは自社の事業拡大およびビジネストランスフォーメーションへの投資に注力しており、69%のCEOは、インオーガニックな成長手法を自社の中心戦略として検討しています。またCEOの大多数(87%)は、今後3年内の買収実施を検討していると回答しています。


また今回の調査では、CEOの30%が、今後3年間にわたり、収益の10%以上をサステナビリティ関連の取り組みやプログラムに投資する計画であると回答しています。


図1:今後3年間の成長に向けた最重要戦略


日本企業においては、62%のCEOが今後3年間の世界経済の成長の見通しに自信を持ち、74%のCEOがインオーガニックな成長手法を自社の中心戦略とし、89%のCEOが今後3年内の買収の実施を検討していると回答しており、グローバル全体の回答と同様の前向きな傾向がみられます。特に、「組織全体に影響を及ぼす」M&Aへの意欲を見せたCEOは55%、また、「今後3年間にわたり、収益の10%以上を組織のサステナビリティ関連の取り組みやプログラムに投資する」と回答したCEOは43%と、いずれもグローバル全体平均より高く、成長に向けた積極的な投資が進むと考えられます。また、今後3年間の成長に向けた最重要戦略については、「戦略的アライアンス」を選択したCEOが最も多く(35%)、主要11ヵ国の中で最も高い割合になっています。これはコロナ発生後の事業ポートフォリオの見直しを経て生き残りをかけ次の一手を講ずる必要がある中で、パンデミックが長期化し、引き続き渡航制限や対面交渉が制限される状況下において比較的難易度の低い方策から開始しているとも考えられます。


KPMGインターナショナルのチェアマン兼CEOであるビル・トーマスは、次のように述べています。

「パンデミックに関しては不確実な状態が続いていますが、企業のCEOは、世界経済の回復についてますます自信を強めており、それを受けて企業の成長戦略に関しても、積極的な姿勢をとるようになっています。多くのCEOの優先課題はインオーガニックな成長戦略ですが、CEOは同様にオーガニックな企業成長も視野に入れており、優れた人材を確保するため、未来の働き方についても検討し続けています。」


「この18ヵ月でポジティブな要素を挙げるとすれば、多くのCEOが自社の回復戦略および長期的成長戦略の中心に、ESGを据えるようになってきた点です。気候変動や社会的危機に直面している現在、我々は現在のやり方を変えて協働して取り組まなければならないということが明白になっています。CEOは自身が積極的な変化の推進者となり、社会課題(ジェンダーや人種、平等や社会的流動性)と同様、環境問題に対する施策も支援すべきだと認識しており、これは今後の将来に向けた心強い結果であると考えています。」



「KPMGグローバルCEO調査2021」の主なポイント

今回の調査結果の主なポイントは、以下のとおりです。


■政府の支援を受けたネットゼロの達成

世界が多くの社会経済問題や社会環境問題に直面している現在、ステークホルダーから各企業に対して、気候変動に積極的に取り組み、社会に良い影響を与えるよう求める強い圧力がかかっています。これを受けて、CEOの27%は、気候変動に関する要求に応えられない場合、自社の事業に対する投資が無くなる懸念を示しています。CEOの58%は、ESG課題に関する報告をより充実させるよう、ステークホルダーからの要求が高まっていると考えています。


日本企業においては、71%のCEOがESG課題に関する報告の充実に対する要求の高まりを認識しており、主要11ヵ国の中でも高い割合を示しています。これは、EUほどでないにせよ、日本においてもレポーティングに関連する制度上の動きが進んでおり、2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂で、プライム市場に上場する企業に対しては、気候変動リスク等に代表されるサステナビリティに関わる情報の拡充が期待されていることが大きく影響していると考えられます。


図2:ステークホルダーからのESG課題に関する報告の充実に対する要求の程度


またグローバル全体では、CEOの77%が、経済界全体がネットゼロの目標を達成するためには、政府の刺激策が必要であると考えています。さらにCEOの75%は、気候変動課題の緊急性を高めるうえで、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)はきわめて重要であると回答しています。


日本企業においても、グローバル全体での傾向と同様、CEOの77%がネットゼロの目標達成には政府の刺激策が必要であると考え、70%が気候変動課題の緊急性を高めるうえでCOP26が重要であると回答しています。


本調査では、グローバル全体のCEOの74%が、企業の存在意義である 「パーパス」による意思決定を後押しされ、ステークホルダーからの要求に対応していることが明らかになりました。ステークホルダーに長期的な価値をもたらすために意志決定を行う際、パーパスを盛り込むことに主眼を置いているCEOの割合は、2020年初頭と比較すると、10ポイント増加しています(64%)。CEOの86%は、自社のパーパスが基盤となり、資本配分やインオーガニックな成長戦略が決定されると回答しています。


日本企業においては、72%のCEOが意思決定にパーパスを盛り込むと回答しています。これは2020年の45%と比較して大幅に増加しており、主要11ヵ国の中でもドイツに次いで高い結果となっています。企業に期待される価値の提供が、財務成果を超えた領域にも広がるいま、望ましい変遷であるといえます。


■オペレーションリスクや環境リスクに注力

CEOは今後3年間の自社の成長を達成する上でのリスクに関して、サプライチェーン、サイバーセキュリティ、環境/気候変動の3つを最大のリスクと考えています。CEOの56%は、パンデミックの影響を受け自社のサプライチェーンに対する圧迫が増大したと回答しています。


図3:今後3年間の自社の成長の最大の脅威となるリスク 


日本企業においても、3大脅威はグローバル全体と同様の結果となりました。これは、企業の意思決定がパンデミックに大きく支配され、パンデミック対応を優先とした対応の時代から、全世界的に企業が長期的なコアとなるビジネス戦略に重点を置き始めていることを示しているとも言えます。


■未来の働き方に対する感じ方の変化

自社オフィスの縮小を計画している、またはすでに縮小が完了していると回答したCEOは、わずか21%でした。この調査結果は、パンデミックの第一波がピークを迎えた2020年8月から大きく変化しており、2020年8月時点ではCEOの69%がオフィスの縮小を計画していると回答していました。


その代替としてCEOはより柔軟な働き方の提供に注力するようになっており、CEOの51%が共有オフィススペースに対する投資に注目しており、パルス版調査(2021年1月~2月実施)の14%から上昇しています。さらに、CEOの37%が、従業員向けにハイブリッド業務モデルを採用しており、従業員の大半は週に2~3日リモート勤務をするという形態を採っています。


日本においても、自社オフィスの縮小を計画している、またはすでに縮小が完了していると回答したCEOは13%で、2020年8月の65%から大きく減少しています。これはオフィス面積の縮小ではなく、リモートワーク定着によるハイブリッド・モデルの働き方を前提にして、対面のメリットを生かし、従業員の満足度を高めるためのコア・オフィスはどうあるべきかという方向に、CEOの関心が移っていることを示していると考えられます。


図4:自社オフィスの縮小を計画/縮小が完了している割合


■前例のない国際税制改革がCEOの主要な注力事項に

CEOの75%は、パンデミックへの対応に起因する各国財政への圧迫が、世界の税制における多国間協力の緊急性を増大させたと考えています。同時にCEOの77%が、提案されているグローバルミニマム税が、企業の成長目標にとって「重大な関心事項」であることに同意しています。一方でCEOは、規制リスクや税制リスクについて、パンデミック以前よりも懸念を抱いていることが明らかになりました(図3参照)。


本調査によると、CEOの74%は、自社事業に対する社会からの信頼は、税務対応が企業価値とどれほど整合しているかに大きく関連する、と認識しています。企業が事業回復を目指すにあたり、CEOの69%は、広範なESG取り組みの一環として、税務面での貢献に関する情報開示に対する要求が高まっていると回答しています。

日本においては、パンデミックへの対応に起因する各国財政への圧迫が、世界の税制における多国間協力の緊急性を増大させたと考えるCEOが80%、グローバルミニマム税が企業の成長目標にとって「重大な関心事項」であるとするCEOが82%、自社事業に対する社会からの信頼は、税務対応が企業価値とどれほど整合しているかに大きく関連すると認識するCEOが78%と、いずれもグローバル全体平均よりも高い結果となりました。


これまでの一般的な日本企業は、従来から税務プランニングに対して保守的であり、行き過ぎた節税施策を実行しているケースは多くなかった一方で、各国における税務調査を通じて、税務リスクへの準備不足や見解の相違等により税務当局から予期せぬ課税処分を受けるケースも見受けられました。今回の調査では、パンデミックからの回復施策による歳出超過への対応として今まで以上にアグレッシブな課税処分が行われる蓋然性の高まり、および、OECDが主導する新たな国際課税の枠組み推進による税コスト増加リスクについてCEOが懸念していることが見てとれます。


図5:パンデミックへの対応に起因する各国財政への圧迫が、世界の税制における多国間協力の緊急性を増大させた


「KPMGグローバルCEO調査2021」に関する情報については、home.kpmg/CEOoutlookのサイトをご覧ください。また、ハッシュタグ「#CEOoutlook」を使用して、LinkedInおよびTwitterアカウント「@KPMG」での投稿をフォローいただけます。



「KPMGグローバルCEO調査」について

「KPMGグローバルCEO調査」は、世界の経営者を調査対象とし、今後3年間の自社および経済成長に対する見通しを提供しています。

「KPMGグローバルCEO調査2021」では、世界でもっとも影響力を持つ企業の経営者1,325人(うち日本企業100人)に対し、経済および事業の展望に関する今後3年間の見通しについて調査しています。また、進行中のパンデミックが自社の将来に与える影響についてもあわせて調査しています。すべての回答企業は、年間収益が5億ドルを超えており、対象企業の3分の1は、年間収益が100億ドルを超えています。

本調査は、2021年6月29日から8月6日に実施され、主要な11ヵ国(オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、スペイン、英国、米国)の11業界(投資運用、自動車、銀行、消費財/小売、エネルギー、インフラ、保険、ライフサイエンス、製造、テクノロジー、通信)の企業経営者を対象としています。

注)いくつかの数値に関しては四捨五入を行っているため、必ずしもその合計が100%にならない場合があります。


本資料は2021年9月1日にKPMGが発表したプレスリリースをもとに日本語に翻訳し、日本企業の回答およびその考察を追記したものです。本資料の内容および解釈は英語の原文を優先します。



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