~令和2年7月豪雨災害・コロナ禍での避難所~ 熊本地震の教訓が生かされた・食の備蓄と今後の課題
熊本県 人吉・球磨地域 被災地取材記事公開
尾西食品株式会社(本社:東京都港区 代表取締役社長 古澤紳一 ※以下、尾西食品)は、防災食・備蓄のリーディングカンパニーとして、”アルファ米”をはじめとする非常食を製造・販売。「誰にとっても安心安全な食」の提供を通じ、日常の防災意識を高める活動をすすめており、公式サイトで防災コラムを発信しております。
令和2年7月豪雨では、熊本県南部を流れる球磨川水系が13か所で氾濫・決壊し、流域に甚大な浸水被害を及ぼしました。人吉球磨地域を管轄する熊本県人吉保健所では、混乱の中でも県庁や被災した市町村と連携して、コロナ対策を始めとして住民の保健衛生の確保に取り組みました。当時、人吉保健所長であった劔(つるぎ) 陽子氏に災害時の対応について、食の観点からお話を伺いました。記事全文は尾西食品公式サイトにて12月17日に公開しております。
劔(つるぎ) 陽子 氏
産業医科大学医学部卒。産婦人科臨床、大学公衆衛生学教室での研究、NGOやJICAプロジェクトでのミャンマーやカンボジアでの国際保健活動等を経て、平成27年より熊本県に入庁。令和3年4月より菊池保健所長。前任地の人吉保健所長の時に令和2年7月豪雨対応に従事。
〜災害対応、発災前の準備と発災後の初動が大切〜
――人吉保健所管内の被災状況と保健所の初動状況を教えてください。
劔氏(以下 劔) 人吉保健所は鹿児島・宮崎と県境を接する熊本県南部の人吉球磨地域10市町村(1市5町4村)を管轄する県型保健所です。令和2年7月4日に球磨川が氾濫して、管内では人吉市・球磨村・山江村・相良村に特に甚大な被害が発生し、またその他の町村でも大小はあるものの被害が出ました。管内の各市町村では発災直後から避難所が開設され、7月11日時点で41ヶ所が開設、最大1807人が避難しました。
最も被害が大きかった球磨村では発災当初は道路被害が大きく一般車両が村内に入ることが困難で、村内2ヶ所の避難所に加え、ヘリコプターで孤立地域から救出された住民は村外の避難所2ヶ所にも避難するような状況でした。人吉市は被災人口が最も多かったので当初は10ヶ所の避難所が開設されました。村の場合には自治体としての規模も小さく、保健衛生福祉に携わる人も限られており、村単独での対応がより難しかった状況です。
たまたま人吉保健所では管内市町村と「避難所におけるコロナ対策」について7月6日月曜日に会議を開催予定で、7月3日金曜日には会議資料を印刷して準備していました。会議資料には受付表の例、トイレ掃除に関するチラシ、トイレ掃除や環境衛生管理のチェックシート、避難所運営にすぐに役立つ資料が入れてあったので、発災後すぐに避難所の運営主体となる各市町村にFAXとメールにてその資料を送信しました。また発災夕刻より、保健所職員が資料を持参して各避難所を訪問して、避難所の開設早期より感染症対策、環境管理に取り組めるように努めました。
〜食の備蓄・提供 熊本地震の教訓が生かされる
――被災時にどのように食事を提供されたのか教えてください
劔 各市町村により、避難者に向けてお弁当等が提供されましたが、栄養の偏りや要支援者(アレルギー、疾病、嚥下障害等の食事配慮が必要な方)への対応不足が懸念されたので、市町村や保健所・県の管理栄養士等が連携し、提供している食事の調査や要支援者の個別支援を行い、提供する食事の改善に取り組みました。しかし、お弁当の注文は管理栄養士が所属している部署とは違う総務系の部署が行っていたので、バランスの良い食事の提供を理解してもらうことに苦慮しました。またコストや衛生面の問題から、野菜を多く取り入れたお弁当の提供が難しく、不足する栄養素は野菜ジュース等を提供して対応しました。
人にとって食べることは非常に大切で、特に避難生活が長期化するような状況では、“味気ない食”ではなく“楽しめる食”が求められます。今回も、コロナ感染症予防で炊き出しが敬遠されお弁当中心になった時もありましたが、被災者よりカレーの炊き出しへの要望があがり、提供して大変喜ばれました。
――非常食の備蓄はされていたのでしょうか。
劔 市町村では避難者に向けた非常食を備蓄しており、さらに、保健所にアルファ米や粉ミルク、飲料水等が備蓄されており、不足する被災市町村へ提供しました。特に球磨村は道路が寸断されて自衛隊でないと近づけないという状況で、住民が孤立して食べ物も飲み物もないという情報が寄せられたので、その時点で保健所に残っていた非常食を全て球磨村に提供しました。このような災害時の食支援の準備や対応は、熊本地震の教訓をもとに整備された「熊本県 災害時栄養管理ガイドライン」に従い、比較的スムーズに行われました。
ただし、備蓄物資の種類・数量は限られており、緊急対応に限られました。特に被災市町村の職員も混乱する中で、何が、どこに、どの程度必要かについてのリストアップは難しく、食物アレルギー、食事制限のある慢性疾患患者、形態調整食が必要な高齢者等に対応する特殊食品等についての備蓄はほとんど無く、より充実した非常食の備蓄と共に、販売業者等と市町村が協力関係を結んでおく必要があると感じました。
〜今後の課題 外部との連携、住民の啓蒙啓発〜
――今後の災害を想定した場合に、保健所として食の面ではどのような取り組みが必要でしょうか。
劔 今回の学びを活かし、他部署や他機関、またお弁当業者や物資提供事業者等との連携を通じて、災害時に栄養バランスに配慮した食事の提供やスムーズに要配慮者への食支援ができる体制を予め構築しておく必要があると感じました。
また地域住民に向けて、最低3日分の食べ物や飲用水の家庭内での備蓄や、適切な食を選択できる力を身につけるための知識や技術の普及啓発を行うことが重要であると思います。
――劔様は熊本地震と今回の水害、二つの大きな災害をご体験されていらっしゃいます。それらの体験を通じて、読者の皆様にメッセージをお願いします。
劔 今回、私たちは保健所内でお米を炊いて職員に提供しましたが、これは熊本地震の時の学びを生かしています。震災時には熊本県庁におりましたが、県庁内に食べ物がなくて、あられを一粒二粒ずつ皆で分け合い、ひもじい思いをしながら働いていたところ、おにぎりの差し入れがあり、皆が俄然元気になったという経験です。
災害経験のない方は、人ごとと思わず明日は我が身と思って被災地の声を聞くこと、また災害経験のある方はその学びを生かし、そして他の人に伝えることが大切と考えます。また自治体に頼るのではなく、各家庭でも災害への備えを十分に行っていくことが非常に重要だと思います。
本文はこちら :熊本地震の教訓が生かされた・食の備蓄と今後の課題
https://www.onisifoods.co.jp/column/detail.html?no=10
■尾西食品株式会社
・事業内容:長期保存食の製造と販売
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