重層的な備蓄で「賢い被災者」に 災害後の暮らしのクオリティの維持
~災害支援活動での経験や学びで命を守る~ にいがた災害ボランティアネットワーク 李 理事長 取材記事公開
尾西食品株式会社(本社:東京都港区 代表取締役社長 古澤紳一 ※以下、尾西食品)は、防災食・備蓄のリーディングカンパニーとして、”アルファ米”をはじめとする非常食を製造・販売。「誰にとっても安心安全な食」の提供を通じ、日常の防災意識を高める活動をすすめています。2021 年3月より、公式サイトにて防災コラムの発信をしております。今回は全国の被災地支援を行っている特定非営利活動法人にいがた災害ボランティアネットワーク(NSVN)理事長、李仁鉄氏に取材、インタビュー記事全文をホームページに公開しました。
李 仁鉄氏(プロフィール)
特定非営利活動法人にいがた災害ボランティアネットワーク(NSVN)理事長。 災害ボランティア活動支援プロジェクト会議幹事。新潟県災害ボランティア調整会議企画委員。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター客員研究員。災害時には全国の被災地の緊急支援スタッフとして活動に従事。各自治体、NPOや地域市民を対象とした講演・研修や非常時の初動対応、また事業継続・再編計画の助言等、多岐に渡って幅広い支援活動に携わる。
新潟県三条市にある特定非営利活動法人にいがた災害ボランティアネットワーク(以下、NSVN)は2004年の豪雨災害を機に組織化されました。年々自然災害は増加しており、設立してから15年の間に日本全国で50ヶ所以上の被災地支援を行っています。理事長の李 仁鉄氏に、災害時の支援活動、また食の観点からお話を伺いました。
〜災害時の食事には甘いものも大切、重層的な備蓄で“賢い被災者”に〜
――災害食や災害時の食事についてご意見があれば教えてください。
李氏(以下 李) 災害支援で現地に入る際には、現地でコンビニ等が開いていても被災者の方が購入するのを邪魔しないようにするため、自分たちで災害食を持参します。アルファ米やパンに加えて、チョコレートや羊羹などの甘いものです。災害食の品質も向上しており、味付きのアルファ米ならば、お米の味にうるさい新潟県民でも、抵抗なく美味しく食べられます。
災害時の過酷な環境の中でも、温かいご飯を皆で食べることでリフレッシュやリラックスができ、少しでも日常を取り戻せることは非常に大切だと思います。また、甘いものも欠かせません。被災地でチョコレートや羊羹などを差し上げると驚かれることがありますが、実際に召し上がって頂いた時の美味しくてホッとした表情は忘れられません。まさに“Sweet is justice(甘いものは正義だ)”と信じています。
――行政による災害食の備蓄や提供についてはどのように考えられていますか。
李 本来は市民全員に対する配慮を行政ができることが理想ですが、災害食などの備蓄においても現実には多数の方への配慮を優先します。例として9対1という人数比の話をよくしますが、病気や宗教上の理由などで配慮が必要な方は必ず全体の1割程度はおられます。一方で多数である9割の方への手間と1割の方への手間はほぼ同じなので、行政としては種々の制約の中で多数の方への対応を優先せざるを得ず、少数派の方への配慮は不十分になってしまうことはやむを得ません。
私たち市民は行政だけに頼るのではなく、個人として備蓄するともに、近所や仲間同士のコミュニティの中での助け合いも加えた、重層的な取り組みが必要と考えます。そのためには、行政が何を備蓄しているのかなど、他者のことも知っておくことが必要で、その上で足りていないものを自分達で準備しておくなど“賢い被災者”になることが求められていると思います。自宅での備蓄というと何日分の食料や水が必要かということばかりに目が向きがちですが、それよりも自分に必要な薬や補聴器の電池、嗜好品など、それぞれの状況を考慮した中身の準備が大切です。
――乳幼児や高齢者などの要配慮者と言われる方への対応はいかがでしょうか。
李 被災地では、食もナイーブな問題を含んでいることがあります。なかなか人に言えない事情だったり、優しさとか遠慮とかがあったりして、「困っている」ということを当事者がなかなか言い出せずに潜在化してしまうケースです。食事面での制限などの困り事が行政やボランティアセンター側に伝わらずに、適切な対応が取れなくなってしまいます。
ご本人たちが隠そうとされているので、共助する支援者や身近な方々が気づいてあげられることが必要です。ボランティアコーディネーターの研修でも、「何か困り事はありませんか」と聞くのではなく「今日の食事はどうされましたか」などと被災者に聞くことを練習し、表面に出てこない困りごとを把握するための取り組みを行っています。
〜新たな防災の視点、「災害後の暮らしのクオリティを維持する」ことで命を守る〜
――災害大国日本、今後の災害に向き合うにあたり、読者の皆様にメッセージをお願いします。
李 防災というと、人を救助したり物資を運んだり泥出しをしたりなど、どうしてもハードな現場のイメージが強いと思います。ただ、実際には災害発生後の生活が待っているわけで、そちらの方がより重要です。通常でも大変な育児や介護を、プライバシーもなくライフラインも止まっている状況で行わなければならないのです。熊本地震では圧死など地震による「直接死」が50名程度でしたが、避難生活を通じた心身不調などで亡くなった「災害関連死」が200名を超えていた状況でした。
今までの日本では、災害後の暮らしのクオリティを維持していくための備えが不十分だったと思います。一例として、避難所の一人当たりの面積があります。難民キャンプでの一人当たりの面積は世界基準(※The Sphere Project)で3〜4平方メートルと決められていますが、コロナ前の日本の避難所ではその半分以下の畳一畳程度が標準となっていて、狭くてひどい環境でも我慢して生活することが前提になっていました。
物が落ちてこないようにとか溺れた人を助けるような取り組みが今までの防災でしたが、今後は避難所や在宅での暮らしをしっかりと維持することが命を守ることになることも肝に銘じて、取り組んでいくことが必要だと思います。具体的には、生きていくために必要な食や排泄、睡眠のクオリティを維持することで、決して贅沢にするということではありません。そして、これには私たち住民自身をはじめとして、ボランティアや企業なども貢献できることなのです。
また、より多くの方に自分ごととして考えてもらうためには、防災という何か特別なものとして取り組みを考えるのではなく、平常時に自分達が行っていることを災害時にはどのようにできるかという視点で考えて欲しいと思います。例えば、平常時に高齢者福祉に携わっている人は災害時に高齢者福祉で何ができるか、食を通じて社会に関わっている人は災害時に食を通じて何ができるか、このように考えることで全員が関わり可能性が広がるのです。
本文はこちら:
重層的な備蓄で「賢い被災者」に・災害後の暮らしのクオリティの維持
https://www.onisifoods.co.jp/column/detail.html?no=12
■尾西食品株式会社
・事業内容:長期保存食の製造と販売
・代表取締役社長:古澤 紳一
・所 在 地:〒108-0073東京都三田3-4-2いちご聖坂ビル3階
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