IEEEメンバー 分散型エネルギーシステムの第一人者 筑波大学情報系の安芸裕久准教授が提言を発表
IEEE(アイ・トリプルイー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、再生可能エネルギーの普及など、世界的な諸課題に関してもさまざまな提言やイベント、標準化活動を通じ技術進化へ貢献しています。
IEEEメンバーである筑波大学システム情報系の安芸裕久准教授は、分散型エネルギーシステムを研究する第一人者です。具体的には、住宅の機器を活用して、電力系統へ調整力を提供する技術と、そのシステム開発を指します。電力会社が構築した電力ネットワーク(電力系統)と地域にある再生可能エネルギー、そして住宅やビル、工場などのエネルギー需要家が持つヒートポンプ機器や蓄電池が連携する仕組みを構築することを目的に、シミュレーションや実際の機器を使った実験を活用し研究を進めています。安芸准教授は「再生可能エネルギーは安定した発電が難しい。需要側も電力系統が安定して電力を提供できるよう工夫することで、再生可能エネルギーの系統対策コストを抑えられ、ゆくゆくは普及につながる」と話しています。
二酸化炭素(CO2)の削減が世界的な課題となる中、再生可能エネルギーの利用を増やすことは課題解決に不可欠です。しかし、地域に点在する太陽光発電や風力発電は発電量を安定させることが難しく、系統の需給バランスや電気の品質が乱れるため、再生可能エネルギーの利用を増やすには技術の確立と需要側の協力が不可欠です。
安芸准教授は電力ネットワークの中でも、住宅にある電気自動車(EV)やヒートポンプ機器を活用し系統の需給バランスを取りやすくするエネルギーマネジメントシステム(EMS)の実現に向けた技術を研究しています。系統は電力会社、事業所や工場のEMSは企業が研究を進める一方、住宅のEMSは研究が進んでいないと安芸准教授は指摘します。
安芸准教授は「各住民の意思を尊重したエネルギーマネジメント」を理想に置いています。再生可能エネルギーの普及に必要な対策は、大手電力会社や政府だけに任せるのではなく、市民も自分たちの機器を利用してサポートしていくことがこれからのエネルギー社会のあるべき姿だと安芸准教授は強調します。一般市民が一層エネルギー問題や再生可能エネルギーに関心を持つことで、住宅に設置した再生可能エネルギーやEV、ヒートポンプの活用が進み、再生可能エネルギーの普及が早まると見ています。
安芸准教授の研究では、住宅にあるヒートポンプ給湯機や空調機と信号をIDEMSと呼ぶ機器が統合し、情報をやりとりすることで、系統の電力品質を落とさずに再生可能エネルギーを利用するためのシミュレーションを進めています。すでにコンピュータモデル上は実現可能になっているそうです。実際にヒートポンプ給湯機を使った小規模実験も手がけており、現状は良好な結果が出ています。
また、経済学的なアプローチとして、多数の地域住民が参画することで系統の運用に影響を与えられるかや、どのようなインセンティブがあれば参画する住民が増えるか、といった研究も手がけていると言います。
分散型EMSは、電力会社が確固とした系統を整備している日本よりも、早くから風力発電を導入してきた欧州や中小規模の電力会社が多数存在する米国で盛んに研究されています。日本は研究が遅れており、安芸准教授は「こうした研究は、小規模な需要家が置いていかれがち。家庭は小さな需要家ではあるが、積み重ねると電力系統において、それなりのシェアがある。だから、目を向けていく必要がある」と訴えています。
日本で研究が進めば、次世代のエネルギーシステムのモデルとして、電力ネットワークが先進国に比べて未整備なアフリカなどの途上国にシステムを輸出でき、新たな輸出商材にすることができるかもしれません。また、分散型EMSの実現にはエネルギーを貯める技術の進化も不可欠になります。環境負荷低減につながる数多くの技術の進化も促されることにより、日本の環境技術の底上げにもつながるかもしれません。
■IEEEについて
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