「在宅避難」需要はアフターコロナでも続くのか? 自宅における防災の課題と対策
積水ハウス株式会社は、「防災週間」に向けて、自宅における防災対策普及を目的として、全国の20~60代の男女計500名を対象に「自宅における防災に関する調査(2022年)」を実施しました。
積水ハウスの研究機関の住生活研究所では、暮らしにおける「幸せ」のさらなる追求のために「住めば住むほど幸せ住まい」研究として様々な調査を実施しています。
9月1日の「防災の日」を含む1週間(8月30日から9月5日)は「防災週間」です。過去に地震や台風などが9月に多発したことをきっかけに、防災意識を高めるための「防災週間」が設けられています。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、感染対策や備蓄に対する意識が高まっている中、新型コロナウイルス感染症の流行前後で防災における意識や行動に起こった変化について調査しました。
コロナ禍で耳にするようになった「在宅避難」に関する調査結果をはじめ、コロナ禍における自宅での防災対策を導き出し、「防災週間」で防災を見直す際に役立つ、自宅におけるいつもの備えがもしもの備えにつながる4つの「幸せTips」をご紹介します。
■停電経験がある方が過半数。自宅における防災対策で「災害時の電力確保」をしていない方は9割以上
今回の「自宅における防災に関する調査(2022年)」では、85.6%の人が自然災害について不安を感じていて、そのうち94.9%の人が「地震」に不安を感じると回答しました。気象庁地震データベース※1によると、地震の回数が年々増えているようです。地震を筆頭に防災対策の必要性を感じる人が多いのではないでしょうか。
調査対象者500名中、320名(64.0%)の人に「自然災害による被災経験」または「計画停電」の経験がありました。その320名に対して、被災や停電の内容を聞いたところ、74.7%(239名)が「自然災害による停電」と回答しました。直近も電力不足による「計画停電」が実施されましたが、「計画停電」と回答した人も34.4%あり、少なくともどちらかの「停電」を経験した人は合わせて89.1%(285名)にもなりました。これは全体(n=500)でみても57.0%となり、約5人に3人が停電を経験していることになります。停電は非常に身近な問題です。
次に「自然災害による停電」の経験者239人に、停電時の行動を伺ったところ、85.4%の人が「自宅で電力が復旧するまで我慢」と回答。続いて「自宅で懐中電灯やキャンドル使用」43.5%、「モバイルバッテリーでの最低限の電力使用」15.5%で、それ以外の回答はどれも10%にも満たないことから、停電時の行動計画も含めた対策が不十分であったと考えられます。
自宅で行いたい防災対策について聞いたところ、32.4%、およそ3人に1人が「災害時の電力確保」と回答しました。しかし実際に「災害時の電力確保」を行っている人は9.4%、およそ10人に1人に過ぎませんでした。
自宅で停電対策を行う際の懸念点を伺ったところ、最も多い回答として3人に1人が「費用がかかる」ことでした。停電してもしばらくの間、電化製品を稼働できる蓄電池や発電機を想定されていると思われます。いつ起きるか予測ができない「もしも」のためだけの費用と捉えると躊躇するのかもしれませんね。なお、今年は電力需給逼迫による「計画停電」が一部地域で実施され、停電を自分ごととして感じた方も多いと思われる一方で、停電対策において4人に1人は「何をすればよいかがわからない」と回答しました。防災備蓄品においては、夜間の停電時に必要となる懐中電灯を自宅に備えている人は500名中236名と半数近くの人が準備をされていました。長時間の停電が起こったときの、冷蔵庫や冷暖房などが停止してしまうことへの対策はまだ未着手の方が多いようです。
■コロナ禍以降も「在宅避難」の意向が続く見通し 自宅内における防災対策は大丈夫?
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、「在宅避難」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。災害時に避難所に行くことへの抵抗感を聞いたところ、コロナ禍前の時点で、61.0%の方が抵抗を感じていたことがわかりました。コロナ禍の現在においては、抵抗を感じる人が13.6ポイント増え、74.6%の方が抵抗を感じると回答しました。
現在、避難所へ行くことに抵抗があると回答した373名に理由を伺ったところ、「プライバシーがないから」と回答した人が72.7%と、「新型コロナウイルス感染症の懸念」(60.9%)よりも多くなりました。この傾向は、男性より女性が、若年者より高齢者のほうがより大きいことがわかりました。もとより避難所のプライバシー確保は課題とされていましたが、新型コロナウイルス感染症の懸念以上に抵抗感があることを考えると、コロナ禍を機に話題になった「在宅避難」は、今後一層、重要な避難方法として認識されると考えられます。今後、新型コロナウイルス感染症が落ち着いたとしても「在宅避難」の需要は続きそうです。
なお、「避難所にいくことに抵抗がある」と回答した人のうち、約5人に1人が「自宅でも安全だと思っているから」ということがわかりました。そこで、自宅で行っている防災対策について結果をみると、「家具の転倒防止グッズの使用」や「家具の倒壊や転倒しにくい家具を選択」「動線確保」などの命を守るために重要な自宅の安全確保に該当する項目を行っている人が少ない結果となりました。
■コロナ禍で「衛生用品」の備蓄は十分な一方、その他の防災備蓄は1~3日分のみの用意が過半数
調査結果より、比較的行われている防災対策として、「飲料水の備蓄」「非常食の備蓄」が見受けられます。そこで、家庭で防災備蓄しているかについて聞いたところ、77.2%が何かしら防災備蓄をしていることがわかりました。コロナ禍によって備蓄に対する考えや行動に変化が起きているようです。コロナ禍で変化した防災意識を調査したところ、「マスクや除菌シートなど感染予防グッズの備蓄が増えた」と回答した人が56.4%と過半数を占めました。実際に、自宅に備蓄しているものにおいても過半数の方が「マスク」と回答しました。
自宅の備蓄品において、それぞれ何日分のストックがあるかを伺ったところ、コロナ禍で普段から使用する場面が多い「マスク」「手指消毒液」「除菌シート」は約1カ月分の用意があることが分かりました。一方で、期限が決められている食品や日常生活で使用することが少ない防災備蓄品は、1~3日分の用意をしている人が概ね半数を占める結果になりました。防災備蓄は最低3日間と認識されている人も多いですが、政府の公式見解では、予測されている広域の災害に備え1週間程度の備蓄を推奨しています。
自宅で備蓄の用意を行う際の懸念点として、半数以上が「賞味期限や使用期限」と回答。また、約3人に1人は「置き場所がない」と回答しています。限られたスペースの中では、「災害のため」と限定するのではなく、いつもの備えで「もしも」の備えにつながるような防災対策ができるとよいのかもしれません。
■4つの「幸せTips」でいつもの備えを「もしも」の備えに
今回の調査では、災害時も自宅で継続して過ごしたい「在宅避難」や「自宅で防災対策を行いたい」という意向の人が多いことがわかりましたが、自宅における安全面の防災対策や防災備蓄品の量も不十分な家庭が少なくないと見受けられました。その背景に、いつ起きるかわからない自然災害の対策に費用をかけることや、賞味期限がある備蓄をすることに抵抗感があることがわかります。しかし、自然災害が発生しやすい日本では、住まいにおいてより大きな安心と安全を確保することが必要です。
積水ハウスでは、建物の強さはもちろん、災害発生後の被災生活を守るための「生活空間の確保」「水の確保」「エネルギーの確保」の3つの対応策を考慮し、被災後も住み慣れた自宅で生活ができる「住宅防災仕様」を開発しています。防災対策はいつ起きるかわからない「もしも」のためにあることが多いです。しかし、「住宅防災仕様」は省エネ・創エネを目的としたエコ住宅として日常的に活用できるため、「もしも」のときも安心・安全な住まいを実現します。ここでは、いつもの備えで「もしも」の備えにつながる住まいに盛り込みたい4つの「幸せTips」をご紹介します。
■自宅における防災対策4つの「幸せTips」
(1)停電対策は日常の暮らしから:
短期間の停電では情報や安全の確保が重要となります。スマートフォンの充電を日常的に決まった場所でしておくことや、LEDライトや懐中電灯の電池切れ、充電の確認を定期的に行うことを、生活の中で見える化できるとよいですね。携帯用充電池や発電機の用意があれば申し分ありません。一方、長時間の停電になると、在宅避難の場合、エアコンや冷蔵庫なども稼働が求められます。そのような時に、エネルギーを自給自足できる太陽光発電は、停電時には自立運転に切り替えて、太陽の出ている昼間は非常用コンセントから電気を使うことができます。蓄電池を合わせるとさらに効果的です。停電時でも冷蔵庫の食品はそのまま保存でき、テレビで災害情報をチェックなど、電化製品を使うことができます。夜間も日中に蓄えた電力を使って照明器具を点灯できるので安心です。このような電力確保の行動は省エネルギーと通じるものがあります。日ごろからエコな暮らしを心掛け、災害時の備えにつなげられるようにしたいものです。
(2)雨水タンクで災害時に必要な「水」を確保:
今回の調査では、「飲料水の備蓄」をしている人が多い結果でしたが、水は飲料用途以外も重要です。雨水を利用する雨水タンクは、防災用の水として使用でき、日頃は庭木の水やりなどに利用ができます。被災時にはトイレなど、大量の水が必要なため、自宅に雨水タンクがひとつあると安心です。普段の暮らしを支えてくれる給湯器も、「貯湯式」のものであれば、断水時にもタンクにたまった分のお湯や水をぬいて生活用水として使用することができます。
(3)食べながら買い足す「ローリングストック法」:
非常食を食べたことはありますか。災害時にはじめて食べるとなると、不安に思うかもしれません。食料品の備蓄は、普段食べ慣れたものも一緒に用意しましょう。長期保存できる非常食でなくても、缶詰やレトルト食品、フリーズドライ食品などいつも食べている常備食も非常食になります。自宅の常備食は食べずに保管するのではなく、日頃から消費していくこともおすすめです。「常備食だけを食べる日」をつくるのもよいですね。7日間、自力で生活できる食料備蓄を用意すると、1日3食×7=21食。21食×家族分が必要になります。月に2回、古いものを食べて新しいものを買い足すと、7日間分の食材も1年で1回転します。賞味期限切れを防ぐことができる、「ローリングストック法」を取り入れてみてはいかがでしょうか。
(4)家具のレイアウトや収納の工夫:
地震時のケガの要因の4割以上は家の中の家具の転倒や物の散乱によるものです。家の中を整理して、転倒物や落下物を少なくすることが大切です。いらない物を減らすことも立派な地震対策です。また、地震の揺れが収まったあと、安全に外へ出られるルートを確保していますか。寝室の入口にあるタンスや本棚が倒れてドアが開かなくなるケースもあります。部屋から外へ出るルートを想定した家具の配置を心がけましょう。図のように家具が倒れてこない位置にベッドや布団を置きましょう。
ぜひ皆様も4つの「幸せTips」を参考に自宅でできる防災対策を行い、「もしも」のときも安心・安全な住まいを実現しましょう。
■住生活研究所長 メッセージ
いつもの暮らしの中に「もしも」のときの備えがあればあるほど、誰もが安心して毎日を暮らすことができます。「もしも」停電が起きた場合でも、いつも満充電のLEDライトがあるから大丈夫、携帯用充電池がいつも満タンだから大丈夫、保冷力の高いクーラーボックスがあるから大丈夫。「もしも」夜間に避難所に泊まることになったとしても、キャンプ用のエアーマットや一人用テントがあるから大丈夫、などと、ご家庭ごとに我が家らしい工夫で小さな大丈夫をたくさん積み重ねておくことをお勧めします。住まいに居ながら、地震、落雷、台風、さらに、火事や防犯も含め、命の危険を感じるような災害・被害は、いつ起こるかわかりません。家族みんなで、普段から気をつけていることを復習したり、防災グッズの収納場所を確認したり、この機会に、家族で防災会議を行ってみませんか。
河崎 由美子
執行役員 住生活研究所長
1987年入社。高校入学までの12年間を海外で過ごした経験や子育て経験などを生かし、総合住宅研究所でキッズデザイン、ペット共生、収納、食空間など、日々の生活に密着した分野の研究開発全般に携わる。一級建築士。
<「自宅における防災に関する調査(2022年)」概要>
調査期間 :2022年7月15~18日
集計対象人数:500人
集計対象 :全国の20~60代の男女
<記事などでのご利用にあたって>
・引用元が「積水ハウス 住生活研究所」による調査である旨と、引用元調査「自宅における防災に関する調査(2022年)」の記載をお願いします。
・積水ハウス ウェブサイトの該当記事(URL)へのリンク追加をお願いします。
<その他参考データ>
気象庁地震データベース※1: https://www.jma.go.jp/jma/menu/menuflash.html
内閣府防災情報のページ : https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h25/73/bousaitaisaku.html
積水ハウスの防災住宅 : https://www.sekisuihouse.co.jp/kodate/feature/sumai/environment/greenfirst_zero/ess/
<住生活研究所について>
積水ハウスが2018年に開所開設した、日本の企業として初めて「幸せ」を研究する研究所です。
人・暮らしの視点で、ライフステージ・ライフスタイル、そしてこれからの住まいのあり方の調査・研究を行っています。今後迎える「人生100年時代」には、暮らしにおける「幸せ」のさらなる追求が重要と考え、時間軸を意識した「住めば住むほど幸せ住まい」研究に取り組んでいます。研究を通して、幸せという無形価値、つまり「つながり」「健康」「生きがい」「私らしさ」「楽しさ」「役立ち」といった幸福感を高め、家族やライフスタイルの多様な変化に対応する幸せのかたちをお客さまへご提案することを目指しています。
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