「抗菌薬(抗生物質)の処方に関する調査」第2弾調査結果を発表
「かぜに抗菌薬は不要」との説明が薬剤耐性対策への第一歩 抗菌薬の処方を希望した方は、 抗菌薬の誤った知識を持っている割合が高い! かぜ症状における抗菌薬の処方の割合が、 患者の処方の希望有無によって2倍以上差があることが判明! 抗菌薬の誤った知識が、抗菌薬の不適切な使用につながる?!
AMR臨床リファレンスセンターは、2022年11月-12月に全国の20歳-69歳の生活者を対象とした「抗菌薬(抗生物質)の処方に関する調査」を行い、2023年2月に調査結果の一部を発表しました。( https://amr.ncgm.go.jp/pdf/20230207_press.pdf )
今回は抗菌薬処方の実態と、抗菌薬処方を希望する患者がどのように考えているのかについてさらに掘り下げた調査結果を発表します。
▼調査概要
1. 調査方法 :インターネット調査
2. 調査機関 :国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院
AMR臨床リファレンスセンター
3. 調査対象者:全国の20歳-69歳の過去3年以内にかぜ症状
(発熱・のどの痛み・咳・鼻水・くしゃみなど)で
医療機関を受診し、お薬手帳で処方薬を確認できた人*
(健康診断やワクチン接種などでの診察を除く)
4. 有効回答数:400サンプル
5. 調査実施日:2022年11月30日(水)-2022年12月5日(月)
*かぜ症状で医療機関を受診して薬を処方された際に、お薬手帳に記録され、処方内容の確認が可能な方に対して、お薬手帳を見ながら最大10種類の処方薬を転記していただき、調査者(医師)により処方薬の中に抗菌薬が含まれているかどうか確認するという方法で調査を実施しました。
▼調査結果のポイント
●かぜ症状で受診した患者へ処方された抗菌薬は、マクロライド系が最も多く、セフェム系、ニューキノロン系の順であった。→[1]
●かぜ症状で受診した患者の39.0%が抗菌薬処方を希望している。24.9%は希望しておらず、36.8%は特に考えていないことが判明。→[6]
●抗菌薬処方を希望する人は、希望しない人と比較して抗菌薬に関して誤った知識を持っている割合が高い。→[3]
●抗菌薬を希望した患者への処方は26.3%、希望していない患者へは11.3%であった。希望の有無で処方が左右されている可能性がある。→[5]
1:直近でかぜ症状で医療機関を受診した際に処方された薬について
*ここでの「かぜ症状」とは、発熱・のどの痛み・咳・鼻水・くしゃみなどを指します。
かぜ症状で抗菌薬を処方された方の割合(前回発表データ)
*お薬手帳に基づいて記載していただいた薬剤名を、調査者が系統別に分類しました。
(自由回答、n=400)
かぜ症状で処方された抗菌薬の種類の内訳について*お薬手帳に基づいて記載していただいた薬剤名を、調査者が系統別に分類しました。
直近のかぜ症状で医療機関を受診し抗菌薬を処方された19.0%の方に、どのような抗菌薬が処方されたかを見ました。
マクロライド系が30件と最も多く、次いで セフェム系が27件、ニューキノロン系17件、β-ラクタム系9件という結果でした。
2:かぜ症状で病院等を受診した際に抗菌薬の処方を希望したかどうかについて
【年代別】病院を受診した際の抗菌薬の処方の希望
(単数回答、n=400)
かぜ症状で病院を受診した際の抗菌薬の処方を希望したかどうかについてお伺いしたところ、全体では39.0%(強く希望していた、どちらかといえば希望していたの合計)が希望しており、24.3%(どちらかといえば希望していなかった、全く希望していなかったの合計)が希望していないという結果となりました。また、36.8%の方が特に考えていなかったことも判明しました。
3:抗菌薬に関する知識
以下の項目に対して「正しい」と答えた人の割合(前回発表データ)
(複数回答、n=400)
かぜ症状(熱・のどの痛み・咳・鼻水・くしゃみ)で受診した際の抗菌薬処方希望の有無と抗菌薬の知識
かぜ症状で受診し、抗菌薬処方を希望していた人と希望していなかった人で、抗菌薬についての誤った認識をしている人の割合を調べました。
その結果、ほとんどの項目において、抗菌薬を希望していた人は、希望していなかった、もしくは特に考えていなかった人に比べ、抗菌薬の効果を誤解している割合が高くなっていることがわかりました。特に、「のどの痛みに効果がある」「鼻水が止まる」などに関しては誤りの割合が2倍以上となっており、対症療法薬として抗菌薬を希望しているのかもしれません。
4:子どもの有無と抗菌薬処方希望
(単数回答、n=400)
子どもがいる人の方が抗菌薬処方を希望する。
「子どもの有無別」で「処方希望の有無」を確認したところ、抗菌薬を希望している割合は乳幼児がいる方で45.6%、小学生~大学生の子どもがいる方で48.8%でした。上記以外の子ども(社会人などが考えられます)がいる人では31.5%、子どもはいない方の35.3%と比べ10ポイント以上高くなっていることが判明しました。これは、自身の症状だけでなくお子さんにうつしたくない、また早く治したい気持ちの表れかもしれません。しかしながら、子育て世代に正しい知識を伝えていくことが必要と思われます。
5:かぜ症状で抗菌薬処方を希望していた人とそれ以外の人の、実際の処方率の違い
(単数回答、n=400)
患者の処方希望が、医師の処方行動へ影響している可能性?
かぜ症状で受診した際に、抗菌薬処方を希望していた人が、抗菌薬を実際に処方されたのは26.3%、抗菌薬処方を希望していなかった人が処方されたのは11.3%でした。
6:実際の抗菌薬処方と、処方されたかの一致率
【前回発表データ】処方薬の中に抗菌薬が含まれていると思うか
(単数回答、n=400)
かぜ症状で受診した際に、処方された薬の中に抗菌薬が含まれている、と思っている人は49.3%
処方薬に抗菌薬が含まれるかどうかの認識と、実際の処方の一致
(単数回答、n=400)
約3人に1人が自身への処方薬の中に抗菌薬が含まれているかどうかに関して誤認している
抗菌薬処方がなかった人がそれを正しく認識する割合は、処方された人が正しく認識する割合よりも低い。
実際の処方があって一致:実際に処方された人で、且つ処方されたと思っていた人の割合
実際の処方がなくて一致:実際に処方されなかった人で、且つ処方されていないと認識していた人の割合
抗菌薬が処方されていないことを説明しないと処方薬の知識は向上しない
実際に処方された場合と、実際に処方されていない場合で、処方の有無に関してそれを正しく認識している割合を比較すると、抗菌薬を処方された場合は一致率が90.8%であるのに対して、抗菌薬を処方されていない場合は60.5%と30ポイント近く差があることが判明しました。
実際に抗菌薬を処方される時には、「抗菌薬を出しておきます」といわれるが、処方されなかった時は、「抗菌薬は出しません」と言われることがあまりないため、一致率が下がっていることが考えられます。
抗菌薬が不要の場合に、処方しない旨を伝えることが抗菌薬の適正使用につながるかもしれません。
7:今後かぜの症状(熱・のどの痛み・咳・鼻水・くしゃみなど)で病院を受診した際、抗菌薬・抗生物質を処方してほしいと思いますか。
(単数回答、n=400)
【過去の抗菌薬の希望の有無別】今後、かぜ症状で受診したときの抗菌薬の処方希望について
今後かぜ症状で病院を受診する際に、抗菌薬の処方を希望するかどうかお聞きしたところ、全体では47.6%の方が処方を希望していることが分かりました。
これまでに抗菌薬処方を希望していた人の方が、今後の抗菌薬処方の希望も高くなっています。
<総括>
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター 情報・教育支援室長
藤友 結実子
かぜ症状で受診した際に抗菌薬処方を希望していた人は約40.0%でした。そして希望していた人の方が、抗菌薬は熱を下げる、飲むとかぜが早く治る、かぜに効く、喉の痛みに効果がある、鼻水が止まるなどといった誤った知識を持っている割合が、希望していなかった人に比べて高いことがわかりました。
抗菌薬処方を希望する人は、「喉の痛みに効果がある」「かぜの鼻水が止まる」と抗菌薬の効能を誤解して、処方を希望している可能性があります。そして、以後の受診時にも同様に抗菌薬処方を希望します。
また、抗菌薬処方を希望していた人が実際に処方された割合は26.3%、希望していなかった人が実際に処方されたのは11.3%でした。診察室での実際のやりとりは分かりませんが、処方を直接希望された、もしくは察した医師が、本来であれば不要な場合にも処方してしまっているかもしれません。
今回の調査結果から、抗菌薬処方を希望する背景には、抗菌薬の誤った知識・認識が関連しているようです。抗菌薬がかぜの喉の痛みや鼻水を軽減しないとわかれば、抗菌薬の処方を希望する人が減り、結果的にかぜへの抗菌薬処方が減ると考えられます。抗菌薬の適正使用を進めるには、患者さんに正しく理解してもらえるように説明することが大切です。今回のアンケート調査結果は、ぜひ、処方や説明を実際に行う医師、薬剤師に見ていただきたいと思います。
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- 調査・報告
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- 医療 その他ライフスタイル 経済(国内)
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