スマートフォンやビーコンを活用した、医療DXの実証実験を実施

スマートフォンやビーコンを活用した、医療DXの実証実験を実施

~医療現場への「働き方改革関連法」適用を見据え医療従事者の働き方改革を推進~

 奈良県とNTTコミュニケーションズ株式会社(以下 NTT Com)は、2024年4月の医療業界への「働き方改革関連法」適用を見据え、奈良県内の2か所の医療機関において、行政主導の取り組みとしてははじめて(※1)、スマートフォンを活用した医療DXによる医療従事者の働き方改革に関する実証実験(以下  本実証実験)を2023年1月~3月に行いました。  

 本実証実験では、次の2つの有効性を検証しました。

 1. 医療従事者によるスマートフォンを利用した電子カルテへの音声入力

 2. 医療従事者に病院内の位置情報を把握できる携帯型ビーコンを貸与し、位置情報に基づく勤務実態や動線の把握および分析

 

1. 背景    

 日本では、少子高齢化による医療ニーズの増加や人材不足に加え、2024年4月には医師へも時間外労働時間上限規制が適用されるなど、医療サービスの維持が喫緊の課題となっており、デジタル技術を活用した医療DXの取り組みが注目されています。

加えて、現在も8割以上の医療機関で利用されている(※2)PHSは、2023年3月に公衆サービスが終了したことから、後継となるコミュニケーションツールとしてスマートフォンを検討する病院が増えています。

 また、奈良県では、行政サービスのユーザーである住民のために「デジタル化によりできること」を実現するため、2022年3月に「奈良デジタル戦略」を策定しました。このような状況を踏まえ、奈良県はNTT Comと連携し、スマートフォンや携帯型ビーコンを活用した医療DXに関する実証実験を行うこととなりました。


2. 本実証実験における検証内容    

 市立奈良病院および奈良県総合リハビリテーションセンターのご協力のもと、2023年1月23日~3月31日まで、以下の内容について検証しました。

 

(1)スマートフォンの試験導入【対象:奈良県総合リハビリテーションセンター】

 従来、リハビリ療法士に貸与していたPHSに代わりスマートフォンを貸与の上、「AI音声認識ワークシェアリング」(※3)を活用した電子カルテ入力を導入し、記録業務の削減効果を検証しました。また、スマートフォンを利用する上でのセキュリティ面においては、情報漏洩リスクの低減のため、モバイルデバイスマネージメントによる管理・制限を行いました。

(2)位置情報取得・分析による医療従事者の業務分析

 【対象:市立奈良病院、奈良県総合リハビリテーションセンター】

 携帯型ビーコンを用いて位置情報を取得し、職員の導線や所在場所の滞在時間を把握・分析しました。

(3)議事録作成支援ツールの試験導入【対象:奈良県総合リハビリテーションセンター】

 来院者との面談など、議事録を作成する業務において、議事録作成支援ツールを試験的に導入し、効率化の検証を行いました。


3. 各者の役割     

事業者
内容
奈良県
・参加する医療機関の選定
・本実証実験の結果を活用し、県下の医療機関の働き方改革を支援    
NTT Com
・医療DXのコンサルティング、機器やサービス導入の技術支援
・スマートフォンを活用した取り組みの分析・効果測定

4.  本実証実験から得られた結果    

(1)「AI音声認識ワークシェアリング」の活用で1か月あたり7.8時間/人(※4)の削減見込み

 位置情報取得分析によると、1日の勤務時間のうち、多い人で約3割を電子カルテの入力業務が占めていることがわかりました。

 本実証実験後に、利用者へのアンケートを行ったところ、「AI音声認識ワークシェアリング」の利用頻度が高い方(※5)全員から記録業務負荷が軽減されたという回答が得られました。一方、個人個人での利活用度合いにばらつきが見られたことから、運用ルールの整備、利用を促進する仕組みづくりが課題であることが明らかになりました。また、本実証実験では、効果検証に十分な期間がとれなかったことから、削減効果の計測までには至りませんでしたが、「AI音声認識ワークシェアリング」利用者の勤務データおよび過去の導入事例を元に算出したデータによると、今後、本格的な導入に至った場合には、奈良県総合リハビリテーションセンターにおける記録業務については1か月で7.8時間/人程度の削減効果が出ると推測しています。  

(2) 医療行為以外にかかっている時間のうち2割弱が院内の移動時間

 位置情報取得分析によると、勤務時間の中で、医療行為を行っている時間を除いた時間のうち2割近くを移動時間が占めており、特にフロア間を跨いだ移動が非常に多く見受けられました。

 このことから、医療従事者の働き方改革においては、業務を同一フロアに集約するレイアウト設計や人材・機器の配置場所の重要性が浮き彫りになりました。

 また、チャットツールによるコミュニケーション改革も移動時間の削減への効果が期待できることから、スマートフォンを活用した業務フローの見直しが医療従事者の働き方改革の一助となると想定されます。

(3) 「議事録作成支援ツール」が6つの評価軸で高評価を獲得

 本実証実験に先立ち実施した、奈良県総合リハビリテーションセンターの業務課題分析から議事録・面談記録の作成負担が大きく、時間外勤務の一因となっていることがわかりました。

 本実証実験後に、利用者にアンケートを行ったところ、「議事録作成支援ツール」の導入は「負担軽減」「時間外勤務削減」「記載内容漏れ・忘れ抑止」「記載内容の質向上」「記載情報の紛失リスク低減」「医療提供サービスの質向上」の6つの観点にて高い評価結果を得られました。

 一方、文字おこしの精度や議事録作成支援ツールの習熟に課題があることが明らかになりました。PC・マイクなどのハードウェアの整備、議事録作成ソフトの習熟サポートを行うことにより議事録・面談記録作成の業務負担軽減につながることが期待されます。


5. 今後の展開    

 本実証実験では、現在も多数の医療機関でコミュニケーションツールとして利用されているPHSに加え、スマートフォンを貸与し利活用することで、医療従事者の働き方改革に寄与することが確認できました。両者は本実証実験で得られた結果をもとに、今後も連携してスマートフォンをはじめとした、さまざまなITツールの利活用を推進し、医療のDXに取り組むことで奈良県全体の医療現場の働き方改革を促進します。さらに、本実証実験の結果を人材不足などの課題に直面している全国の医療機関にも広く展開し、医療DXの実現に貢献していきます。

  

(※1):2023年5月現在、NTT Com調べ。

(※2):「医療機関における電波利用推進委員会」の2020年度調査結果によると、回答した1,137病院のうち、83.9%の病院でPHSが業務用端末として導入されています。

(出典)https://www.emcc-info.net/medical_emc/pdf/21-302-R_R2_questionnaire_hsptl.pdf

(※3):「AI音声認識ワークシェアリング」は、医療専門用語辞書を搭載した音声入力により記録を残せるワークシェアリングサービスです。

(※4):過去の導入事例における実績から、患者1回介入単位あたりのカルテ入力時間が2分短縮されたという時間削減を前提とし、2週間分の勤務データを基に一人あたりの平均介入単位数を計算の上、各療法士の人数を乗算することにより総介入単位数を算出しています。

(※5):インタビュー調査の結果、「AI音声認識ワークシェアリング」を1日5回以上ご利用いただいた方。


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