ドラマ『時をかけるな、恋人たち』 美術デザイナー・後藤レイコの仕事術に迫るインタビューを公開 レトロフューチャーなセットに注目!
関西テレビが運営するウェブマガジン「みよか」は、吉岡里帆が主演し、永山瑛太が相手役を務めるカンテレ制作のドラマ『時をかけるな、恋人たち』(毎週火曜よる11時)の美術デザイナー、後藤レイコさんに、本作の美術コンセプトや仕事のやり甲斐などについてインタビューしました。その内容を公開します。
詳細URL: https://miyoca.jp/listen/183
本作は、広告代理店のアートディレクターとして“つじつま合わせ”を得意とする一方で、自身の恋愛になると“一線”を越えられない現代人・常盤廻(めぐ)と、未来からやってきたタイムパトロール隊員・井浦翔(かける)によるSFラブコメディ。脚本を手掛ける上田誠さん(ヨーロッパ企画)は、初めて撮影現場を訪れた際に後藤さんの手がけたセットを見て大絶賛。ひとつの作品が終わると「役が抜けない」と話す後藤さんの美術デザイナー道、ドラマ好きは必見&必聴です!
──美術デザイナーやデコレーターって、どんなお仕事ですか?
美術デザイナーは、カメラに映り込む背景を統括して準備する仕事ですね。セットを組むのであれば私がデザインして、図面を書くスタッフに渡す。それをもとに大道具さんにセットを組んでもらい、デコレーター(装飾部)と部屋のインテリアについて打ち合わせをします。私がこれが欲しい!と細かく提示するアイテムもありますし、装飾部さんから提案いただいて取り入れるアイテムもあります。未来のガジェット等の小道具のデザインや造形も美術の仕事になります。
──『時をかけるな、恋人たち』では、監督やプロデューサーからどんな依頼があり、セットや美術の世界観が出来上がったのでしょうか?
そうですね。「レトロフューチャーな基地をセットでつくりたい」という明確なオーダーがありました。そこから自由にイメージして、台本を読みながら「こういう風に動くのかな」ってキャラクターの動線を連想するんです。監督と話しながら「オペレーター卓があって、真ん中にテーブルがあって、それぞれのセクションが両脇に配置されている」みたいなレイアウトを決める。そのあと、インテリアや小道具を含めたディテールを詰めていきます。
アウトプットとして3Dデザインをすることもありますし、イラストや平面図を描くこともありますね。今回はパトロール基地の簡単な模型をつくって、監督をはじめとするスタッフに共有させてもらいました。
──ディテールにこだわっていく段階で、後藤さんがまず決めることは?
雰囲気やトーンですかね。ひと口に「レトロフューチャー」と言っても、映画の『ブレードランナー』を思い浮かべる人もいれば、『2001年宇宙の旅』をイメージする方もいますよね。その中で、私は『サンダーバード』を連想しました。各自それぞれ抱いている「レトロフューチャー」にギャップが生まれないよう、共通認識を持つようにしています。
SFラブコメですから、高尚で重厚なセットというよりキッチュな感じを出したかった。ただセットまでコミカルにしてしまうと……やり過ぎかな、と。大人がつくる大人のラブコメですし、切ない展開もあることから、すべての色にグレーが混ざっているようなくすんだカラーリングの空間を提案しました。
──セットを拝見したら、タイプライターなど懐かしい小道具がたくさん置いてありました。近未来的な作品の世界観に、レトロを持ち込んだ意図や狙いはどこにあるのでしょうか?
アナログ感の演出といいますか、手垢をつけたかったんですよね。監督も同じ意見でした。いま世の中に出回っているガジェットは小型化され、凸凹がないものになっていく。液晶画面の中にボタンを設けたiPhoneが最たる例で。通信環境もWi-Fiが主流で、無線が当たり前。
でも監督は『時をかけるな、恋人たち』で描かれる未来の設定を「無線が人体に悪影響を及ぼしている」としたんです。だからすべてアナログな有線に回帰しているんですよね。
──たしかに、セットの中がケーブルだらけでした!
セットの中で目立つ2本の太い柱は、パトロール基地のハードディスクという設定にしました。そこからケーブルがたくさん垂れていて、ひとつは「フォゲッター」という意識や記憶を失くす機械に流れている。もう1本の柱から出ているケーブルは、時空を行き来するための「時空境界線」につながっています。ボタンも押したらへこむ、触って楽しむアナログさがあると楽しいかな、と思ってタイプライターを配置して。ちなみタイプライターのアイデアは演出部の資料がキッカケでした。セットも小道具も私一人では作りきれてないものばかりです。
──美術デザイナーの仕事において、やり甲斐や達成感はどんな瞬間に感じますか?
俳優部が空間に入って、その空間で生きてると感じた時ですかね。今回、吉岡さんが「廻が基地の未来人メンバーになじんできた表現をしのばせたい」とおっしゃって。それで「現代で買って来たお菓子を基地で食べたらどうかな?」と提案なさったんです。吉岡さんが食べたいとおっしゃったのは、スティック状のチョコレート菓子。でも世の中に売っている商品を映すことはできないから、「あの」商品をパロディ化したパッケージを1から全部つくりました(笑)。そうしたらお芝居の中で、基地のメンバーとつまみながら「これは現代に売っているラッキーってお菓子で、食べるとラッキーになるんだよ」ってセリフに加えてくださって。
「彼女だったらこれ好きだろうな」「こんな生き方の彼はこんなアイテム選びそう」とキャラクターの感情を推し量ってセットを飾り付けていくんですよね。私たちのそういう思いを役者さんが感じ取ってくださって「なるほど、私が演じるのはこういう価値観の人間かも」と芝居のヒントにしてくださった瞬間に、よかったと感じます。
──では、ドラマや映画で美術を手がけることのおもしろさって?
役になれるところ、でしょうか。少女の部屋をつくる時は、私も少女の視点に立って「なりきる」んですよ。老若男女いろんな職業のキャラクターになれて、内面を想像しながら美術に反映させていく過程がおもしろい。だから俳優みたいに、役や作品が抜けるのに時間がかかるんですよ。
──美術デザイナーもそうなんですね!これまでに役が抜けなかった作品は?
蜷川実花さんが監督を務めた『人間失格』かな。太宰治の目線もさることながら、彼と関係した「3人の女たち」を描いた作品でして。この3人、それぞれ非常にパンチの効いた人物でして。撮影現場づくりを通じて、それぞれの女になりきったわけですから……非常に抜けづらかった。しかも3人がシャッフルされて、自分の中で1人になったりするんですよ(笑)。しばらく情緒が大変でした!
●取材を終えて
作品を撮り終えても「なかなか役が抜けない」と感じるほど登場人物のキャラクターについて考え尽くす後藤さんのお話を聞いて、「神は細部(ディテール)に宿る」といった建築家の金言が脳裏に浮かびました。これからドラマを観る時には美術セットにも目を凝らしてみたいと思います。作品世界を読み解くヒントやスタッフの遊び心が発見できるかもしれませんね!
取材・文 岡山朋代
編集・ライター。ぴあ、朝日新聞社「好書好日」など主にエンタメ系メディアで取材・執筆を手がける。
●ドラマ詳細
『時をかけるな、恋人たち』
カンテレ・フジテレビ系列全国放送
日時 : 毎週火曜よる11時
キャスト: 吉岡里帆、永山瑛太など
公式HP : https://www.ktv.jp/tokikake/
カンテレウェブマガジン『みよか』 https://miyoca.jp/
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